epilogue3 人間であることをやめる

—1—


~さらに1年後~


 月柳村での選別ゲームが終わってから2年。

 矢吹由貴は、小さな町に引っ越していた。


 昼間の商店街を歩く由貴。

 家電量販店の前を通ると、展示されていたテレビの音が聞こえてきた。


『ミステリー小説、で鮮烈なデビューを果たした矢吹由貴先生の最新作、が本日発売です! いやー、待ちに待った新作ですね。宇垣さん』


『そうですね。今作はサバイバルホラーということで、近年流行しているデスゲーム系と呼ばれるもののようです。矢吹由貴先生の独特な世界観が作品の中でどのように描かれているのか楽しみですね」


『はい。選別ゲームは、元々ネット小説としてウェブサイト上で公開されていたものでして、熱狂的なファンが多いことでも有名です。今回は満を持しての出版といった感じですね。実は私もネット時代から追いかけていたファンの1人なんですよ』


『そうなんですか! おっと、時間のようです。そんな矢吹由貴先生の最新作、選別ゲームは本日発売です』


 宇垣と呼ばれたニュースキャスターが、選別ゲームと書かれた本の表紙をカメラに向け、次のニュースに切り替わった。


 それを見て、立ち止まっていた由貴が歩き出す。

 月柳村で行われた選別ゲームで生き残り、新国家に行かないという選択肢を選んだ由貴は、ウェブ投稿サイトに『選別ゲーム』というタイトルの小説をアップした。


 作品はすぐに読者の目に留まり、掲示板や口コミなどで少しずつ広がっていった。

 そして、『選別ゲーム』を連載している間、過去に書き上げたミステリー小説『八月の吹雪』をとある出版社のコンテストに送ると、見事大賞作品に選ばれた。


 こうして由貴は華々しい小説家デビューを飾ったのだ。


 「描写がリアル」、「人間ドラマが良い」、「トリックが斬新」など絶賛の嵐だった『八月の吹雪』。

 そのため、新作である『選別ゲーム』の注目度も高かった。


「ようやくここまできた。凛花は元気でやってるかしら?」


 由貴はそう呟き、商店街の角にある本屋に入った。

 本屋に入ってすぐ、『選別ゲーム』の特設コーナーが目に付いた。

 由貴は、綺麗に平積みされた『選別ゲーム』の中から2冊手に取ってレジへ向かう。


「800円のお返しです。ありがとうございました」


 店員からお釣りを受け取って店を出る。

 月柳村の選別ゲームが終わってから、他の地域の各団体でも選別ゲームが順次行われているらしい。


 あれだけのことが行われるのだからそれこそニュースになってもいいものだが、政府の圧力により情報規制されているみたいだ。

 テレビやラジオ、新聞などの各メディアは、私が書いた『選別ゲーム』しか扱っていない。


 真実を知るのはごく僅かな人間のみ。

 全くおかしな話だ。


 そんなことを思っていると、カバンの中のスマートフォンが鳴った。

 着信やメールを知らせる音ではない。こんな不気味な音、設定した覚えがない。

 私は音の正体を確かめるべく、カバンの中にあるスマートフォンをガサゴソと探す。


 すると、商店街を歩く人のスマートフォンが次々に鳴りだした。

 歩く人全員のスマートフォンが一斉に鳴り出す。店内からも不気味な音が聞こえてくる。


 ようやくスマートフォンを手にした私は画面を見て固まった。


【選別ゲーム1:これは国民全員に行って頂くゲームです。国民全員強制参加で途中棄権は一切認められません……】


「嘘でしょ……」


 選別ゲームが日本規模で始まるというの?

 スマホを持って立ち止まる人々は、皆同じように首を傾げている。


 これは、『選別ゲーム』という小説を発売した私へのドッキリなのだろうか?

 そうだ。どこかで隠し撮りをしているに違いない。


 しかし、カメラマンが現れる気配はない。

 私は、先程立ち寄った家電量販店の前まで走った。店の前には少人数だが、人だかりができていた。


『ただいま入りましたニュースです。先程ですね、携帯会社各社のスマートフォン宛に謎のメッセージが届いたようです。このメッセージについては、現在調査中ですので落ち着いて行動するようにお願い致します』


 ニュースキャスターの宇垣が原稿を読み上げた。

 テレビのテロップにもスマートフォンに届いた文面が表示されていた。


 これはドッキリではない。

 とうとう始まったのだ。国民の選別が。




『選別ゲーム~その少女は人間であることをやめる~』完結。

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選別ゲーム~その少女は人間であることをやめる~ 丹野海里 @kairi_tanno

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