第13話 隠した牙
—1―
9月4日(火)午後4時22分
「先生と由貴さん、なんで濡れてるんですか?」
私たちの中で奈緒が第一声を発した。
離れて話すのもあれなので、私たち4人はこちらに向かって歩いてくる奈美恵と由貴の元に自然と歩み寄る。
奈美恵も由貴も髪の毛から靴まで全て水浸しだった。服は肌に張り付き、下着が薄っすらと透けている。
服を着たまま絞ったのか水こそ垂れていないが、着心地は悪そうだ。
「池の上に宝箱があってね、それを取る時に濡れたのよ。矢吹さんと手錠で繋がれているから着替えることもできなくて。あっ、恥ずかしいから克也くんはあんまり見ないでね」
「み、見ないっすよ」
「お兄ちゃん、ダメ」
克也が奈美恵と由貴から視線を逸らす前に、小町が手錠で繋がれていない方の手で克也の視界を奪った。
「別に減るものでもないしいいじゃない」
由貴がクールにそう言った。下着を見られることに関して抵抗はないみたいだ。
「矢吹さんがそれを言っちゃったら私が過剰に恥ずかしがってるように見えるじゃないですか。小町ちゃん、さっきのは冗談だからその手を離してあげて」
「ダメです。2人がどう思っていようが関係ありません。お兄ちゃんにそんな刺激の強いものは見せられません」
小町が言う「刺激の強いもの」とは、奈美恵と由貴のおっぱいのことだろう。
奈美恵は身長が高く、綺麗で、先生なので勉強もできる。デキるお姉さんといったイメージだが、それプラスおっぱいまで大きいという完璧な女性だ。
足もすらっとしていて長いし、まさに世の中の女性が憧れる体型をしている。
一方、由貴は細身で背は低いものの出るところはしっかりと出ている。大きさだけで言えば奈美恵にも引けを取らない。
大きな赤い眼鏡もどこかエロさを醸し出している。
2人とも濡れた服を着ているので、体のラインがはっきり分かるし、大きな胸が強調されている。
女子である私が見ても思わず目を逸らしてしまいそうになるのだから、小町が克也に2人の姿を見せたくないというのも分からなくない。
さっきから急に静かになった奈緒は、なぜかよだれを垂らしそうな顔で奈美恵と由貴のことを凝視しているけど触れないでおく。なんか怖いし。
「織田さん、宝箱を見つけたんですけどどうすればいいですか?」
織田が掲示板にA4用紙を張り終えたタイミングを見計らって奈美恵が声を掛けた。
奈美恵の手には金色の宝箱が握られている。色が違うという所を除けば、克也の銀色の宝箱と形も大きさも同じだ。
金色と銀色。2色の宝箱を用意した意味がきっとあるはず。
織田に訊けば早いんだろうけど、素直に答えてくれるとも思えない。
「あっ、俺たちも見つけました」
ようやく小町から解放された克也が宝箱を持った手を上げる。
「そうですか。では、宝箱はこちらの方でいったんお預かりしますね」
織田が奈美恵と克也から宝箱を受け取った。
「ゲームの制限時間が9月5日の午前0時00分までなので、それまでは手錠で繋がれた状態で過ごしてもらうことになります。制限時間になりましたらまた集会場の前に集まって下さい。手錠を外した後、宝箱の開封を行います」
「分かりました」
「では、私は今言ったことを紙にまとめて掲示板に貼らなくてはいけないので失礼します」
織田が軽く頭を下げ、集会場の中に入って行った。
掲示板の前に残された私たち。新たに織田が掲示板に貼った紙の内容が気になる。
奈美恵と奈緒が楽しそうに何か話していたので、1人で掲示板を覗いた。
【ゲーム続行不可能の為、工藤フミエが脱落。残り17人】
「次はフミエさんが」
「みんな、フミエさんが脱落した」
私の後に文章を確認した克也が、みんなに掲示板を見るように促した。
「脱落ってことは、フミエさんが死んだってこと?」
「隣に貼られてる2枚も同じ内容だね。ってことは、平治さんとタエさん、八重子さんに寛子さんも死んだってこと?」
奈美恵と由貴は掲示板を見るのは初めてみたいだ。
2人以外にもまだ掲示板を見ていない人は、結構いるはずだ。なにせ掲示板ではなく、宝箱の方に意識が集中しているのだから。
「平治さんとタエさんは、畑で誰かに刺されて亡くなってました。多分村の誰かが2人のことを殺したんだと思います」
克也と小町に説明したように奈美恵と由貴にも説明した。
「それは危険だね。私たちのペアはもう宝箱を見つけてゲームをクリアしたから怪しい人がいないか見回ろうかな。ねぇ、矢吹さん」
「そうね。ゲームで競っているとはいえ、これ以上犠牲者が出て欲しくはないわ」
「それなら俺たちも見回ります!」
「お兄ちゃんがそう言うなら、怖いけど私も手伝います」
宝箱を見つけた4人が殺人鬼を探すことを決めたようだ。
「私も手伝いたいんですけど、まだ宝箱を見つけてないので宝箱を探したら合流します」
優先順位を間違えてはいけない。
今は殺人鬼のことは4人に任せよう。
「それじゃあ、4人で探しましょ」
「先生、でもそれだと効率悪くないですか? ここは別々で探した方が良いと思います」
「それもそうね」
奈美恵が出した提案は、すぐに克也によって取り消された。
由貴が克也の言葉を聞いて首を縦に振る。
「俺たちはあっちの方を探しますね。凛花、奈緒、また後でな」
「うん!」
克也と小町が私の家や克也の家がある方角に向かった。
「私たちも行くわね」
奈美恵が克也と小町が行った方とは真逆の方へ向かおうとする。
と、そこで、
「凛花、元気そうでよかったわ」
別れ際に囁くような小さい声で由貴が呟いた。
「おかげさまでなんとか元気でやってます。由貴さんも元気そうでよかったです」
私の言葉に由貴が薄く笑うと、何も言わずに去っていった。
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