第12話 連鎖
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9月4日(火)午後3時58分
私と奈緒は、平治とタエが所有する畑を後にし、村に戻ってきていた。
2人を殺した犯人が誰なのか気になるところはあるものの、未だに宝箱を見つけることが出来ていないという焦りも強く感じている。
遠めに見える集会場の時計は、もうすぐ4時を指し示そうとしていた。
夕方になり、太陽が沈んでしまうと月柳村は街灯が少ないので、宝箱探しどころではなくなってしまう。
懐中電灯を使えばまだ探し続けることは出来るけど、なるべく日が出ているうちに見つけ出したいところだ。
「あっ、克也くんと小町ちゃんだ。おーい!」
宝箱を探すべくきょろきょろ辺りを見ていた奈緒が、首と上半身だけ振り返って2人の姿を見つけた。立ち止まり、頭の上で大きく手を振っている。
私も振り返り、克也と小町の方に体を向けた。
克也の手には、銀色の宝箱が握られている。どうやらどこかで宝箱を見つけてきたようだ。
「克也くん、それどこにあったの?」
視線を宝箱に向け、克也に訊いてみた。
「ああ、学校の掃除ロッカーに入ってたんだ」
克也が爽やかな笑顔で答える。
小町も宝箱を見つけて安心したのか柔らかい表情だ。
「1つ1つ教室を片っ端から探してやっと見つけたんだ。本当に疲れたな」
「そうだね」
克也の言葉に小町が頷いた。
高校に入ってソフトテニス部に所属し、毎日休まず太陽の下で練習に励み、体力がある小町が言うのだからそれだけ大変だったのだろう。
それもそのはず、今は私を含めて3人の生徒しか通っていない学校だが、昔は村からも村以外からも多くの生徒が通っていたらしい。
人数が少なくなっても学校自体は取り壊されることなく、昔の姿をそのまま残している。3階建てで教室数も結構ある。化学の実験などで使う特別教室も入れたら相当な数になる。
「凛花たちは?」
「私たちはまだ見つけられてなくて。ちょっと宝箱をみせてもらってもいい?」
「ああ、いいよ」
克也から銀色の宝箱を受け取る。
サイズは両手に乗るぐらい。多分直径15センチないぐらいだろう。形は頭で想像していた通りのもので、中央に鍵穴が1つあった。重さもそこまで重くはない。
1点だけ想像と違ったところを挙げるとするならば、色だ。私は、木で出来た宝箱を想像していた。つまり、茶色の宝箱を想像していたのだ。
宝箱を思い浮かべて下さいと言われたら大体の人がそれを想像するだろう。
「なんで銀色なんだろうね?」
奈緒も疑問を抱いているようだ。
だが、こちらが深く考えすぎているだけで、政府は宝箱の色にまでこれといったこだわりを持っていないのかもしれない。
考えるだけ無駄か、と思ったその時、小町が奈緒の疑問に答えるべく口を開いた。
「なんかね、銀色だけじゃないみたいだよ。ここに来る時、奈緒のパパとママに会ったんだけど、金色の宝箱を持ってたもん」
「金色? お父さんとお母さんが?」
「うん。奈美恵先生の家のポストの中で見つけたんだって。よかったね、これで奈緒のパパとママはこのゲームで脱落することはないよ」
「うん。よかった」
奈緒が言葉とは裏腹に複雑な表情を見せたような気がした。
「奈緒?」
「んっ、なに? 凛花?」
いつも通り元気な奈緒が首を傾げた。
私の気のせいだったならそれでいいんだけど、なぜだか気になった。
「ううん、何でもない。私たちも早く見つけよ」
「そうだね。掃除ロッカーの中にポストの中って、案外簡単な場所にあるのかもね」
宝箱の大きさ、形、色、隠されていた場所などという大まかな情報を得ることが出来たし、何も情報を持っていない時と比べたら探しやすくなった。
話を聞くと、克也と小町は、政府の織田に宝箱を見つけたことを報告するため、集会場に向かう途中だったらしい。
宝箱を見つけた後、どうすればいいのか説明されていなかったので、この際ちょうどいいし私と奈緒も2人について行くことにした。
そのついでという訳ではないが、2人に掲示板のことを伝えなければ。
私は、掲示板に『ゲーム続行不可能の為、佐藤平治とタエが脱落』と、書かれていたこと。平治とタエが畑で誰かに刺されて死んでいたことを説明した。
「平治さんとタエさんが?」
「なにそれ、怖すぎなんだけど」
2人の反応は、私と奈緒が掲示板を見た時の反応と同じだった。
「誰が平治さんとタエさんを殺したのかまではわからなかったから2人も気を付けてね」
「わかった。凛花と奈緒も気を付けろよ」
『「うん」』
私と奈緒が声を揃えて軽く頷く。
集会場までそんなに距離は無かったので、ゆっくり話しながら歩いてもあっという間に着いた。
克也と小町がドアを開き、集会場の中に足を踏み入れる。その後を私と奈緒がついて行く。
集会場に入る瞬間、ふと集会場の前に設置されている掲示板に目をやると、A4用紙が2枚貼られているのが見えた。
「あてぇーー」
私が足を止めたことで奈緒と繋がれている手錠が引っ張っられ、奈緒が変な声を出して止まった。
奈緒が閉じようとしているドアを手で押さえる。
1枚が平治とタエの脱落を知らせるものだとして、もう1枚は何だ?
ゲームについての連絡? それともまた誰かが脱落したのか?
「どうしたの凛花? 克也くんと小町ちゃん、行っちゃうよ」
克也と小町は、織田を探しに奥の部屋に入ろうとしていた。
「2人とも待って!」
私は、ドアノブに手をかけた克也と小町を呼び止めた。
あの文章をまた奈緒と2人で見るのが怖かった。少しでも多くの人と見ることで不安な気持ちを抑えたかった。
「お兄ちゃん、凛花が呼んでるよ」
「悪い悪い。どうしたんだ?」
小町が私の声に気付いて引き返してきてくれた。
「掲示板に貼られている紙の枚数が増えてるの。でも、私と奈緒が見たのはうちの近くにある掲示板だから、こっちが元々何枚だったかは覚えてないんだけどね。平治さんとタエさんの話をしたばかりだったからちょっと怖くて」
克也と小町も掲示板に目をやり、2枚貼られていることを確認する。
「ふぅ、全員で見るか」
「うん」
掲示板の前に移動し、4人が1列に並んでそれぞれがプリントを読む。
左側に貼られていたのは、佐藤平治とタエが脱落したというものだった。
そして、右側に貼られていたのは、左側の用紙と文面が同じだったが内容が異なっていた。
【ゲーム続行不可能の為、浅沼八重子、今野寛子が脱落。残り18人】
「八重子さんと寛子さんまで」
ゲームが始まる前に織田に撃たれて脱落した浅沼空の祖母である八重子と今野健三の母、寛子が脱落した。
何者かに数時間の間で4人も殺されたということになる。犯人は前もって殺す準備でもしていたのだろうか。
掲示板から目を離した克也と目が合ったが、くちをわなわなとさせるだけで声を発することはなかった。
小町も奈緒もぼうっと立ち尽くしている。
「あっ」
集会場の方から足音が聞こえたので、反射的に集会場へ視線を向ける。
足音の正体は織田だった。手にA4用紙を1枚持っている。やはり、集会場の奥の部屋にいたようだ。
そして、背後からさらに1人、いや2人の足音が近づいてくる。
「由貴さんと奈美恵先生!」
私たちの大好きな奈美恵先生の登場によって、奈緒と小町の表情に明るさが少し戻った。
「みんな、久し振りね」
奈美恵が嬉しそうにニコリと笑みを浮かべた。
久しぶりにこれだけの人数が同じ場所に集まった。
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