第18話 攻撃力は高い、男はもちろん何げに女にも

 本日の夕食は、ローストビーフにじゃがバター、山盛りサラダにコンソメスープ、パンはお好みでガーリックバターをぬって。しかもパンを炙ってもらえるサービスつき。

 もちろんハルカはニンニク臭なんて気にしない。炙ってもらいましたとも!

 思った通り! カリカリのパンにガーリックバターは超美味い! 

 でもこのローストビーフにはお米が欲しいわー。あと醤油。じゃがバターは文句なしに美味しいけどね。バターのコクが違うんだよねー。

  なんて、これまたちょっと早めの夕食を堪能して―もちろん、これもエドワード皇子達と鉢合わせしない為だ―ハルカは自室にもどった。

 そして着替えを持つと浴場へ。

 お風呂での、うっかりばったりイベントはない。それを知っているのでそこは安心なのだが、風呂場での嫌がらせが怖いのと、単純に『聖女』として注目されてしまうのが嫌で、ハルカはこれまた入浴もできるだけ早い時間にすませてしまうことにしている。

 今日も一番のり〜、と、ハルカが思っていたら、なんと先客がいた。

「あら、ハルカ。貴女、いつもこんなに早くに入ってるの?」

 シルヴィアが脱衣場で薄布一枚の姿でいた。

 この国の人は裸にならずに入浴する。が、裸エプロンのようなその格好は、ハルカには逆にエロい気がしてしまうんだけど。

「人がいない時間を狙ってたら、だんだん早くになっちゃって」

「もしかして、人目が気になる?」

「……………うん。ま、しょうがないんだけどさ」

 ハルカが見られてしまうのは『聖女』だからというだけでなく、単に珍しい肌の色をしている所為でもあるのだ。

 この国の人々は透けるような白い肌だが、ハルカは良く言えば健康的な肌色をしていた。

「まあ、あまり良い気分はしないわよね。でも、すごく遅い時間でも人はいないわよ?」

「えっ? そうなの? 遅い時間に入ることないから知らなかったー」

「私はもっぱら深夜に入ることが多いから。でも時間に追われてシャワーですませちゃったりもするから、ゆっくり浸かりたいなら早い方がいいわよね」

 忙しいシルヴィアらしい台詞だ。

「大変だねー。あれっ? でも、そしたら今日はゆっくりできる日ってこと?」

 ハルカのそれにシルヴィアがふふっと嬉しそうに笑った。

「そうなの。というより、そうする予定で仕事を終えたのよ。

 ここでハルカに会えてちょうどよかったわ」

「はえ?」

 疑問符が頭にちったハルカにシルヴィアはまるでイタズラでもするような顔で提案した。

「ね、この後、ハルカの部屋にいっていい?」

「…………………はい?」

「そろそろじっくり話をしなくちゃいけないでしょう? だから、ねっ? お泊まり会をしましょう」

 お泊まり会。女子同士。それはいわゆるアレ? パジャマパーティー的な? と考えたハルカは顔を輝かせた。

そんなこと、ハルカは考えもしなかった! 寮だし!! でもそれは、かなり魅力的な提案だ!!

「いい! しましょう!!

 あれ? でも、何で私の部屋なの?」

「……………………私の部屋、ものすごく散らかってるのよ」

 シルヴィアの台詞に、ああー、書類でですね、と、ハルカは苦笑いを浮かべた。

「ご、ご苦労様ー」

 そういう理由ならハルカの部屋でかまわない。

 というよりハルカの自室はベットと机しかないのだし、いざとなったら椅子で簡易ベットだって作れる!

「じゃ、まずは、お風呂に入ってしまいましょ」

「おー!」

 シルヴィアに続いて、ハルカも急いで制服を脱ぎ、部屋番号の縫い付けられた袋に入れて収集箱へと投入する。

 実はこれ、洗濯してくれる仕組みなのだ。これで明日の午後には、自室に洗濯済みの制服が返ってくるというわけだ。

 しかもシワ一つない。さすが王族も通う学園。

 ハルカはそれなりに急いで浴室へと入ったのだが、シルヴィアはもう身体を洗い終えていた。

 え、どんだけ素早いの? と、日頃の時間のなさがうかがえる。

「うーん、気持ちいい。ゆっくり湯船に浸かるなんて久しぶりだわ」

 浴槽に入ったシルヴィアが気持ち良さそうに伸びをした。

 そうすると、すらっとしたシルヴィアの腕が自然と見えて。ハルカは思わずその身体をガン見してしまった。

 ってゆーか! え? シルヴィアって着痩せするヒト? いや、わざと目立たなくしてるよね!? 何? そのお胸様はッ!?

 というのが、ハルカのいつわざる感想、そして絶望だ。

 え、え、待って? 歳って一つしか違わなかったよね!? ってことは、持って生まれた差ってことだよねッ!? でもその差、歴然過ぎやしないッ?? 悪役令嬢、すご過ぎでしょーーーーッ!!!!

 そんな言葉がハルカの脳内を駆けめぐった。

「……………何? どうかした?」

「イイエ、何でもにゃい」

「にゃい?」

 不審そうなシルヴィアの顔に、ハルカはとにかく自分の身体を洗うことに専念した。

 というより、早く! 早く湯船に浸かってしまいたい!!

 だがハルカは失念していた。湯に浸かった、その横にいるのが絶世の美女だということを!

「ふふっ、そんなに急がなくても、じろじろ見たりしないわよ?」

 ぐあ、目が、目がやられるッ! というより心が折れる!! 同じ女として!! というハルカの悶絶を、もちろんシルヴィアが気付くはずもない。

「それに可愛いと思うんだけど。健康的な色だし」

 にこにことハルカの身体を見つめるシルヴィアに、ハルカは思わず、あああああ、本当にすいません! あんま見ないで!! 勘弁してください、本気で!!!! と、叫びそうだった。

「………………………ハルカ?」

「ちょっと! のぼせそう!!」

「え? 今、入ったばかりなのに?」

「うん! だから、先に出るね!? あ、シルヴィアはまだ入ってなよ? ゆっくり浸かるの久々だって言ってたじゃん!? この際だから、ゆっくりじっくり浸かっておいでね? ねッ!?」

 どこか必死なハルカの様子に気圧されたシルヴィアは、戸惑いながらも頷いた。

「え、ええ。じゃあ、そうさせてもらうわ」

「うんうん、そうしなよー。じゃ、また後でね!」

「分かった。じゃあ、また後で」

 その返事を聞くや、ハルカは脱兎のごとく浴室を出た。

 やはり攻撃力が高いのだ、お胸様は。男子はイチコロ、何げに女子にも大打撃だ。

 隠された兵器を目の当たりにして、ハルカは改めて悪役令嬢のスペックの高さを思い知ったのだった。





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