第22転 解析は誰が為に

暑くも寒くもないそんなお昼に其々が目的を持ってクル家へと集まる予定日。


「お 来た来た おーぃレドぉぉ」


「お待たせー!待たせちゃったかな」


「そんなことはないわよ」


3人が合流したのはいつもの通学路。左右に魔草が咲き少し歩くと開けた通りへと繋がっている。


「おーし今日は何かしらの閃きをゲットするぜぇぇぇ」


「心意気はいいんだけど ほぼルルン任せってのが流石バンプと言ったところね」


「会った矢先に厳しいお言葉ですねぇ~ウィルちゃん」


「私は分析官として真実を述べただけよ そこに私情はないわよ」


「あははっ」


二人のやり取りを見てルルンが大きく笑う。


「んん ルルン何か良いことでもあった?」


「えっ なになに 何もないよぉぉ」


「ふーん まっいいけどもねっ」


3人が歩きながら話している所へ魔馬車が真横に止まった。クル家の家紋入りだから直ぐに皆は理解した。


「皆様を見つけられて良かったです ケイメン様より皆様をお迎えに行くよう仰せつかりまして」


そう話すのはクル家の男性従者。


「それでは好意に甘えますね」 「助かります」 「あざーっす」


3人が乗り込むと静かながらも速く魔馬車は走り出した。


「ふむ 流石名家の従者ともなれば魔馬車の扱いも素晴らしいものだわね」


「へー いつも乗ってるから良く解らないんだけどそんなもんなの?」


「そうだね比較対象がないと感じづらいわよね まっいずれ解るときがくるわよ」


ガジャラガシャラ 魔馬車が足を止めるとクル家正門に着いていた。


「お疲れさまでした 行ってらっしゃいませ」


従者に見送られ正門をくぐるとジスが待っていた。


「ようこそいらっしゃいました ケイメン様が庭樹苑にてお待ちです とうぞこちらへ」


クル家内移動専用魔馬車に乗り込みわずかな時間で庭樹苑へと到着した。


「さーて頼むぜ頼むぜぇぇ」


「やる気だけはすごいわね」


歩きながら円卓へ。奥の方からケイメンとミルミルが歩み寄ってきて


「待っていたぞ」


「こんにちは皆様」


ウィルフは何者だと言わんばかりミルミルを見つめるとその視線に気づいたミルミルが


「初めまして挨拶が遅れました 私ホース・ミルミルと申します」


それを聞いてケイメンが


「あぁ すまない 二人は初対面だった すっかり皆と話してるとまとまりがあって勘違いをしてしまった」


「いえいえクル様お気になさらないでくださいね」


そう言い改めてミルミルを見つめ


「私はゼカ・ウィルフですよろしくお願いしますね」


「私の事は気軽にミルとお呼びくださいね」


一瞬戸惑うウィルフにミルミルが


「宜しければウィルフと呼ばせてもらっても?」


ニコニコと問いかけるミルミルを見てウィルフは{なんだこの悪意の無いバンプは}と思った。無論ジンユも悪意など無いのだが。

それほどミルミルは自然に心からそう言ってるのがウィルフにも伝わった。


「クル様のご友人となれば当然構いませんわ どうぞウィルフと 私もミルと呼ばせてもうらわね」


「わぁ ありがとうございます よろしくねウィルフ」


ウィルフは何だか最近こんな事が多いような気がしたが気を取り直して


「そろそろ分析を始めましょうか」


「あー緊張するぅぅぅぅ」


少しの間を置くとウィルフが真顔でルルンに


「もしも何かしらの思いもしない事態になったら直ぐに変換を解いてね 例えばだけどもバンプの個性が思いもしない危険なものの可能性も否定できないからね」


「えっ…」


ジンユは言葉を失う。


「まぁ悪魔で可能性の話よ どうせバンプの性格から算出されるであろう個性なんてセクハラ紛いのものに違いないわ」


ウィルフがそれを言うの?とルルンは思ったが口には出さなかった。


「もーそんな個性だったらウィルちゃん専用個性にしちゃうからねん」


キッッ ケイメンに見えない角度で軽蔑と憤怒が入り交じった視線をジンユにぶつける。


「あっはっは」


ケイメンはやり取りが面白く大きく笑いだした。そして


「まぁ仮に危険な変換だったとしても幸いウィルフもいるしミルもいるからな それに呼べば従者も駆け付けてくれるさ」


「私で対応出来そうであれば」


ミルミルがそう言い終えたのを確認してウィルフがルルンに変換開始の合図を送った。


「いくわよ!」


ルルンがジンユを見ながら魔力を膨らませ変換していくと光の膜が現れてルルン全身を包み込んだ。そして光の膜がルルンと完全に同化するとルルンの服装は今日のバンプそっくりに、髪型まで短くボーイッシュに変化していた。


「おおっ これがレドの魔力変換か」


「どう?上手くできたかな」


「ふむ確かに感じるのはバンプが二人になったかのような不快感だわね」


「おーい!ウィルちゃんきっつぅぅぅ」


思わず突っ込んでしまうジンユ。


「どうだ 何か変換で出来そうな感覚はあるか?」


「うーん やってはいるんだけどもね 魔力変換しようとしても魔力が消費されないの 何て言うか受け付けてないみたいな感覚かな」


ウィルフは少し目を閉じて考え込み、思い付いたと同時にルルンに


「ルルンはミルベースで変換したことはある?」


「ううん ないけど」


「ミルの使う特大水術魔法はみたことある?」


「えっ!?無いよ」


それを聞いたミルミルが手をウィルフに向けて何か言おうとしたがウィルフがルルンに見えない角度でミルミルにウィンクした。


「よし じゃあミルベースで魔力変換してみて」


「う うん」


ルルンはジンユベースを解きミルミルベースにイメージして魔力変換を行った。再度光の膜が現れ先程同様にルルンを包み込むと今度は綺麗な青色の服装に、そして髪や目の色まで青色に変化していた。


「さっ ルルンしっかりイメージして特大水術魔法を私に向けて打ち込んでみて」


「えっ そんなことしたら皆が大怪我するかもなんじゃ…」


「心配無い ミルの魔法で相殺するしいざとなればクル様がいるしね」


「えっ 私ですか?」


ミルミルは少し驚いて言った。何故ならミルミル自身はそんな特大水術魔法など使ったことが無いからだ。


「よし こいルルン 実戦だと思ってしっかりイメージしてね」


「わかった!いっくよぉー!」


ルルンは魔力を膨らませ変換していくと空気中の水分が目に見える早さで増幅していき辺り一帯を包み込むほどの量となった。

それを見てミルミルは口が半開き目を見開いて驚いている。


「ミル頼むわよ」


その言葉で我に返ったミルミルはルルンが操作している水を操らんと試みた。

その時ルルンが堪えきれず


「ごめん上手くイメージ出来なくてこれ以上無理ぃぃぃ」


同時に辺りを包んだ水が降りかかる。ミルミルも必死に操作をしようと試みているが上手く行かず


「いかん」


ケイメンが地に両手をつき一瞬で膨大な魔力変換を行った。


創生草樹そうせいそうじゅ


バキッバキキッ水が降りかかるよりも早く地面から大きな草木や樹木が生まれ直撃を防いだ上に水を吸収していった。


「ふぅ 少しびっくりしたな」


そう笑顔でケイメン。そして一部始終をしっかりと観察していたウィルフが


「ルルンありがとう大丈夫?」


「う うん ごめんね イメージしてたんだけど先が思い付かなくてそうしたら何だか暴走気味になっちゃって」


「皆無事で何よりそれに良い刺激になったな」


「流石クル様です!」


「ふぃ~やっべって慌てて魔力強化したよ」


ウィルフは皆の顔を見渡した後で


「ルルンの能力からだけどね 間違いなく属性まで綺麗に変換されてるわね それでいて見たこともない魔法まで使えるってこと」


「でも上手く出来なかったよぉ」


「恐らくそれはイメージが曖昧だったからだと思うわね 以前学院で風魔法を授業中に使ったらしいけど私の魔法を見てイメージ出来たからだと思うの」


「あっ あの時の…」


「要点を言わせてもらうと初めて会う人でもベースに変換可能な上に能力まで完全にとは言えなくても解析することが出来さらに使用することまで出来るそんなところね」


「それって万能すぎじゃね?つまりなりたい職業に即座になれるってことじゃん?」


「バンプにしては良い質問ね でも今のを見て解ったようにルルンの魔力が無限でもない限り変換に終わりが来るわけよね 更に消費が激しいと長時間は変換持続は無理だと言うこと」


「なるほど」


頷くケイメンと黙って聞くミルミル。


「それからバンプの能力だけど恐らく特殊条件型だわね ルルンが言う変換を受け付けない感じと言うのは何かしらの条件が重ならないといけないと予測されるわね」


「そんな…特殊条件って…」


「只でさえめんどくさい男がよりによって個性的に面倒な能力を手にしているってとこかしらね」


「ウィルちゃーん!あんまり誉めないでぇぇぇぇ」


はぁーっと大きく溜め息をついてウィルフは


「まぁ 追々色んな状況下で試して行くしかないわね 私がいるうちは協力出来るときはするから」


「ウィルちゃん大好き!」


「ごめんなさい お付き合いは不可能です」


即答で返すと皆が笑いだした。


「あはっ ウィルちゃん照れ屋さんなんだからっ」


ウィルフは小さく溜め息をついたが呆れて何も返さなかった。


「今日はこれで十分能力の解析が出来たわね」


「ありがとうウィルフやっぱり頼りになるなぁ」


「流石ウィルフだ見事な分析力だ」


気付くと日は暮れてすっかりと薄暗くなってきていた。


「それじゃあそろそろ私は帰るね」


「あっ俺も帰るよ」


「私も分析を整理したいからここらで」


ケイメンが従者へと合図を送ると直ぐに魔馬車が迎えに来た。


「じゃぁクルとミルまたね」「まったなー」「またお会いに参りますね」


「気を付けて」「またねご機嫌よう」


別れの挨拶を済ませると魔馬車が走り出す。


「ところでミルは帰らないのか?」


「庭樹苑の管理を任されてから別館にお部屋を借りてるって聞いたわよ」


「なるほど あれは手強いな」


そう言いルルンを見ると思ったより気に止めてない様子だったのでウィルフは一人目を閉じて笑みを浮かべた。

ジンユはそれらの会話内容と意味を把握していたがあえて何も言わなかった。


「ルルンの能力だがどんな名前がいいんだろうね パーフェクトコピーとか素敵な模倣とかそんな感じかなぁ」


「えぇ~なんか可愛くない~」


「じゃあ何か良い代案でも?」


「うーん」


「まぁ今すぐ決めなくてもいいわね 既存の能力型なら直ぐに決まるんだろうけどね」


「うん!考えておく!」


能力解析で集まった5人だったが皆がそれぞれ思いを抱いた1日であった。


「私もイメージ次第で強力な攻撃水術を…」


「ルルンの能力は軍からの誘いがくるレベルよね…何事も無ければ良いけども」


「特殊条件型ってなんやぁぁぁぁ でもウィルちゃんが興味もってくれるから嬉しいぃぃぃ」


「レドが変換を使いこなした上で協力してもらえればもしかしたら……父さん母さん……」


「何がいいかなぁ~恋する変身とか!?わぁぁぁ照れるぅぅ」


其々の思いを乗せた風に揺らされているかのようにプーギンスに咲く魔草は踊っているかのようになびいていた。

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