第21転 母とルルン

早朝ルルンの部屋にノックが聞こえルルンが起き上がる前にドアが開かれた。

ガチャリ


「おはようルル 早く起きないと髪のセットが間に合わなくなるわよ」


そう言い起こしに来たのは母親のレド・ソニアだ。髪はルルンより短いくらいだがロングヘアと言って問題ないだろう。ルルンの綺麗な黒髪は母親譲りだと一目で解るほどの黒髪で後ろに一本で束ねられている。


「おはようお母さん 今日はお昼からクルのおうちで集まりがあるから朝はゆっくりでも平気なんだよ」


まだ眠り足りなそうな声でルルンが答える。


「あらあらそうだったのね 言ってくれたら起こしには来なかったんだけどねぇ 折角だからゆっくり朝ごはん食べましょ」


ルルンの睡魔に止めを刺すかのように香りと言う名の凶器がルルンの鼻を刺激してきた。

ガバッ ベットから起き上がり


「はーぃ 顔洗ってくるねお母さん」


ソニアは笑顔でルルンを見つめると食事の支度に戻って行った。

ルルンは素早く洗顔し軽くうがいをして食卓についた。


「お待ちどう様」


ソニアが細かく切られたパンに薄く切られた肉を運び込み、更に香り湯気沸き立つスープを装ってルルンの前に差し出した。


「とってもいい香り ありがとうお母さん」


「冷めないうちに食べなさいね」


「はーぃ いただきまーす」


ルルンも年頃と言うのか夜遅くにはなるべく食べないようにしているため朝食はしっかりと食べるようにしているのだ。無論ソニアも娘の乙女心を理解把握しているため朝食にはしっかりと栄養価があるものをと口には出さないが考えて作っていた。


「美味しい美味しいお母さんの作ってくれるご飯は何時でもおいしーぃ」


ソニアは微笑みながら


「ケイメン君とお母さん最近会ってないけど元気なの?」


「え うん元気だよ~」


「いくら名家とはいえ婚約者を公募するなんてねぇ お母さんもびっくりしちゃった」


ルルンは今まで母がその話題をしてきたことが無かったから自分でも話題を振ったことは無かった。


「うん ほんとだよね! いくら名家存続と言っても早すぎるよね!」


「あら お母さんが驚いたのは婚約者公募であって結婚自体には特に驚いてはないわよ」


「えぇ~?だってまだ仕事にだって就いてないし学生だし恋愛とかの方がいいじゃん」


ソニアは口を軽く上げ左上を一瞬見た後


「お母さんがお父さんと結婚したのも年齢的にはそのくらいだったわよ それにお見合いでも恋愛でもね大切なのは出会いの形じゃないのよルル 出会いをどう受け止めてどう向き合っていくのかだとお母さんは思うなぁ」


ルルンは母が話す言葉をしっかり聞きながらご飯を食べながら合間に


「うーん なんとなく解るような解らないような」


「ルルはどうするのかなぁ~?」


「えっ!?お母さんどういう意味?」


微笑みながらソニアが真っ直ぐルルンを見つめ


「好きなんでしょ?ケイメン君」


ルルンはその言葉を聞くと同時にボッと火が点いたかのように赤面してしまい顔を深く沈めた。

チラリと顔を上げて上目遣いの形で母を見るとまだルルンを微笑みながら見つめていた。観念したかのようにルルンが


「うん 好きなの」


「知ってるわよ~ルルを見てたらね」


「えぇ!?本当に?クルももしかしたら気づいてるかなぁ?」


「お母さんは最近会ってないから解らないけども以前までのケイメン君なら全く気付いてないと思うわね 何て言ったらいいのかしらケイメン君は堅物と言うか人間で言うところの武士って言ったかな そんな感じだもんね」


ルルンは母が言うことが的確に感じて気付くとうんうんと頷いていた。


「そうなんだよお母さん だから今は安心って思ったりもしてるんだけどね やっぱり沢山の可愛い人や美人な人が来てるのを見ると心配で心配で はわわわわってなるの」


「あらルルだって充分可愛いしこれからは美人さんになっていくわよ~」


ルルンは母の言葉がとても嬉しかったが出てきた言葉は


「可愛くないもん ウィルフの方が全然可愛いし私自信持てないもん」


「ウィルフちゃん新しい友達かな 」


「うん エルフの女の子でね 仕草や見た目もすごい可愛いのぎゅーってしたくなっちゃう可愛さなの」


ソニアはそう話すルルンを優しい目で見つめながら


「お母さんだってルルの事ぎゅっーって毎日だってしたいくらい可愛いと思ってるんだけどなぁ」


ルルンは母を見つめるのがなんだか恥ずかしくてチラチラと顔を見ていた。


「ねぇルル お母さんはルルから見たら可愛くない?美人じゃないかなぁ?」


「えっ お母さんは美人だし可愛いよ!なんで!?」


それを聞くとソニアはニッコリと満面の笑顔でルルンに


「じゃあ大丈夫だわ ルルはお母さんの自慢の娘だもの これから可愛くも美人にもなっていくわね」


「お母さん!」


「ん なぁに?ルル」


ルルンはお母さんずるぃと言いかけたが母が心から思って言ってくれてるのが伝わったから言えなかったのだ。


「お母さんありがとう」


「ううん またお話し聞かせてね今度はウィルフちゃんの事もね ささっそろそろ支度しないと遅れちゃうかも知れないわね」


ソニアは食器を片付け始めルルンもそれを手伝い一段落したところで待ち合わせに向けて支度を始めた。

ピリリン 魔通信がなると


「おーぃレドぉぉ~いつもの辺りで待ち合わせて一緒行かねー?ウィルちゃんも誘ったからぁ」


「おっけー!私もこれから出るとこだったの それじゃいつもの辺りで!」


プツン 魔通信を切り全身が映る鏡の前でクルリとまわりニコッっとしてチェックするルルン。

半開きだったドアからソニアがその一部始終を見ていた。


「だいじょーぶ 今日も可愛いからね」


ハッと母に気付き顔を赤らめて


「もぅ~お母さん~」


ばふっ 母に抱きついてぎゅっとするとソニアもルルを軽くハグすると


「さっ 行ってらしっしゃぃ」


「はーぃ 行ってきまーす!」


元気に出ていくルルンを見送るとソニアは一人言で


「本当に自分の娘ながら可愛すぎるわね あんまり言うと私も親バカって言われちゃうかしらね ふふっ お掃除洗濯終わらしちゃわなきゃね」


そう言い終えると歌を口ずさみながらルルンの部屋から出ていく。

ソニアの鼻歌がレド家中に幸福感を与えているかのようだった。

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