第20転 魔草は静かに踊る

「おっはよー」


「あーおはよう~」


「なんだか元気ないわね ここ数日で何かあったの?」


「ん まぁなんだ己の不甲斐なさと友への羨望の板挟みに悩んでたんだわ」


「ふーん なんとなく解る気がするけどもバンプでも悩むことあるんだね」


「へいへーぃ どうせ俺は年中太陽の雨なし涙無し男ですよっ」


「ちょっ そこまでは言ってないでしょ」


通学中のいつものやりとりだ。お互い学院外での経験は積み始めているが特に今の所それを話題にすることはなかった。

その会話時間を持てなかったと言うことが大きな要因であった。

ケルペロチュの検問を通過してお互いが其々の授業へと向かう。

その移動中にルルンはケイメンを見つけ目を見開きながら


「クル!今日は通学してたんだ!」


「やぁレド 参加者把握と整理が大分落ち着いてきてるみたいだからね 時間と相談しながら通学できるときはなるべく通学してるよ」


「そ、それで!いたの!?」


「ん?なにがだ?」


「なにがって!その何て言うかいいなって思う人よ!」


「人として魅力的だなって人はいるけども女性としてとなるとよくわからなくてなぁ」


「へ へー そうなんだ! ま まぁ焦ること無いもんね!意外と気付いたときには身近に居ました!とかよく聞くしね!」


「少し顔が赤いぞ 熱でもあるんじゃないのか?」


そう言いそっとルルンに手を伸ばすケイメンは手を握り


「むっ 少し熱いな体調管理大事だからな無理せず保健室に行こうか」


ケイメンに手を握られ口元がにやけ一瞬放心状態だったが我を取戻し


「あ 大丈夫だから!さっきまで魔力操作してたからそれで!」


「そうか それなら大丈夫なのかな良かった」


ルルンは微笑むケイメンに見とれていた。すると後ろからお尻をポンッと叩かれ


「きゃっ」


「なーにしてんだー授業に遅れるぞ~」


ウィルフがそう言いながらルルンの前へと出るとケイメンを視界に捕らえた。


「クル様!お久しぶりです!そしておはようございます!」


「ウィルフおはよう こちらで教師をしていると聞いたがこうして会うまで実感が沸かなかったよ」


ルルンがウィルフの変わりぶりに目を丸くしているとケイメンが


「さすがに他の者の目もあるから学院ではやはりウィルフ先生と呼んだ方が良さそうだな いらぬ勘繰りをされてはウィルフも迷惑だろう」


「ウィルフ先生だなんて…」


ウィルフはもうケイメンの為なら何だって教えて上げたい気持ちに駆られながらも


「さすがクル様 お気遣いありがとうございます 私もクル様と呼んでるのは多少不味いのでケ ケ…ケ…ケイ…ケイメン…様と呼びますね!」


ウィルフは耳を真っ赤にしていたが髪に隠れて二人には見えなかった。そして必死にケイメンと呼ぼうとしていたがどうしても最後に小さな声で様と付けてしまっていた。

ルルンは可愛らしいウィルフを見て嬉しい気持ちと私だってケイメンって呼びたいとの気持ちが重なりとても複雑な気持ちになっていた。少しうつむいて勇気を振り絞って


「あの!クル!私も…」


「ん どうしたレド?」


「わた わた…私も…」


キューンキューン 始業時間を告げる音が鳴り響く。


「むっ!遅れたか!また今度ゆっくり」


そう言うとケイメンは魔力を乗せてその場から素早く移動していった。


「あっ あぁ」


「頑張ったけど時間が足りなかったね」


そう言いながらルルンの肩をポンッと叩いた。ルルンは大きくため息をして


「はぁ~ 言えそうだったんだけどなぁ」


「次の機会またがんばればいいだけっ」


「うん ありがとう そうだよね 」


そう言うとルルンはハッと気づき


「ねぇウィルフ 肩を叩けるんだからお尻を叩いたりするのはやめてよね」


「前向きに善処するわ」


ウィルフはニコッと笑いルルンを見た。その笑顔をみてルルンは呆れ笑顔で


「まったくも~やってることは本当セクハラだからね」


「あっ!」


二人は顔を見合わせて、すっかり始業時間を回っているのを思いだし別れも告げずにお互いがその場を走り去った。

遅れて授業に参加したルルンは既に始まっていた講義を周りにいる顔見知りにノートを見せてもらい直ぐに先生の話しへと頭が追い付いた。


「…つまり自己の能力を活かして未来へと繋げることが目的であり今の平和をより恒久的にしていこうとする…」


学院の教えと道徳が混ざった授業で、イメージ強化をより行いやすくする心身講義だ。この講義を受ける段階まで来ると次の選択肢が近づいてきている事を意味していた。より強固にするため更に上の大学部へ進むのか、現状の能力を活かしてプーギンスにて活躍の場を探すのか。


「おっ疲れ~どぉぉ」


「うわっ 本当に疲れてるね」


「俺 魔力変換苦手というか出来なくてなぁ」


ケルペロチュを背にジンユがルルンにそう言うと同時にケイメンも出てきて


「終わってたか どうだったジンユ」


「魔力操作は問題ないみたいなんだけどな むしろ強化はかなり優秀と言われたぜ」


「むぅ 暫くは開花待ちかな 能力次第ではこの先の進路も変わるだろうしなぁ」


そのやり取りを頷きながら聞いていたルルンが閃いた。


「ねねっ! 私の能力でバンプをイメージしたらバンプの隠れた変換個性わからないかなぁ」


ケイメンは少し考えて


「レドの変換はそう言った能力なのか?」


「私も完璧に把握して使いこなしてる訳じゃないんだけどね なんか多分そんな感じかも」


「おおっ もしそれが可能だったら俺今日からルルン様って呼んじゃうよ!」


「本当に調子がいいんだから」


笑いながら答えるルルン。


「それなら俺の庭園でやってみよう あそこならゆっくりできるしな」


「皆で何を始めるおつもりですか?ケイ…クル様」


ケルペロチュの前で話し込んでいた3人に気づいたウィルフが近づきながら聞こえた内容に反応して言った。

事情を説明するとウィルフは目を輝かせて


「私も行ってよろしいですかクル様」


「もちろんだ 分析官のウィルフが来てくれるのなら心強いな」


「ウィルちゃん俺のために…感動だよ俺!」


「まだ底を見ぬ謎や個性を調べたいだけよ バンプはおまけみたいなものね」


「そ そんなぁ~」


笑いだすケイメンとルルンに遅れて二人も笑いだす。


「それじゃ明日お昼時に来てくれ」


「おっけー」「かしこまりましたわ」「うん」


「また明日ー!」「失礼しますわ~」「まったね~」


手を振り魔馬車に乗り込むケイメンを見送りウィルフが先に立ち去る。

ジンユは明日の希望をルルンはケイメンにまた明日会える喜びを、ウィルフも同じく。そして新しい事象を楽しみに。其々が家路に向かった。

誰も居なくなった通学路に咲く魔草が静かに風に揺られ踊っているかのようだった。




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