第19転 谷の戦闘

「ごめんなさい そろそろ通路が終わります!」


「ここまで距離を稼いだら大丈夫っしょ」


水壁の終わりが見え始めた頃4人は武器を構え直し呼吸を整えようとしていた。


「ジンユまだ油断するな 1体確実に付いてきている」


「え まぁ1体なら倒して終わりでしょうが」


「抜けるぞ!」


ザッザッ。水壁を抜け再度陣形を造るケイメン達。同時に水壁はバシャッンと音を立てて崩れ落ちた。

ドドドド 音を立て恐竜型が噛みつこうと近づく。噛みつかれたら身体半分は持っていかれそうな程に大きな口に鋭い牙が並んでいる。


水流捕縛ウォーターロック


先程崩れた水が恐竜型の足に絡み付き動きを鈍らせた。それを見逃さず執事とケイメンが剣に魔力を込めて切りかかる。

ゴァァァァ 咆哮と共に激しく暴れ抵抗するが執事の剣が右手を切り落とし、ケイメンの剣が左肩から深々と切り抜いた。

小さく痙攣するとその場に倒れ絶命に向かった。


「すごい 咄嗟にあれだけ連携取れるもんなんだ 驚きよりも感動してるよ俺は」


興奮気味に話すジンユの方へもう一人の執事が大きく跳び空中で何者かと剣を交差させた。そして地に着くと剣を落とした。


「お気をつけください皆様」


執事は右肩に傷を負っている。4人はこの者こそずっと水壁の横を付いてきたであろう者だと確信した。

濃霧はいつの間に薄れ視界を広げてくれた。そこには背丈は群れなすトカゲと変わらないが多少色が黒く両手に剣を持ち不気味に此方を凝視するトカゲがいた。


「言葉通じるか? 我々は争う気はない剣を納めてくれないか」


ケイメンが言い終わると黒トカゲはゆっくりと近づき始めジンユに狙いを定めると走り寄ってきた。


「は はやい間違いなく魔力操作しいるぞ」


ジンユは急ぎ執事の落とした剣を拾い脇の小剣を抜きトカゲの双剣に対抗した。

ギャインギィン 音と共に競り合い状態になるも徐々に圧されるジンユ。


「嘘だろ なんだこの力はふざけんなよ」


ジンユも負けじと魔力操作で自己強化を図るが整う前に黒トカゲの前蹴りがジンユを吹き飛ばした。

ドゴッッ


「ぐはっ ち ちくしょう」


ジンユが吹き飛ばされると同時に執事が飛び出し剣を振るう。ギュイィン

片手で抑えきれないと判断した黒トカゲは両手で執事との競り合いに応じた。


「今ですケイメン様!」


「はぁぁぁぁ」


ケイメンが魔力強化しながら真横より斬りかかろうとしたその時、黒トカゲは一瞬力を抜き執事を引き寄せ剣を滑らせると大きく回転して尾を執事、ケイメンに振り当てた。

結果ケイメンは剣で防ぐも執事は腹部に大きな打撃を貰いその場に片膝をついた。


「これは…おかしい」


ケイメンが感じ取ったのは黒トカゲの動きが鍛練された剣士の動きに感じた事ともうひとつ、群れのボスであるならば既に咆哮なり臭い等で仲間を呼ぶはずなのに一切その気配がないことが重なり、捕食目的で襲って来ているように思えなかったのだ。


「今一度聞こう こちらはまだ剣を納めることが出来る 縄張りから大人しく出ていく事を約束しよう そちらも剣を納めてはくれないか?」


倒れている執事二人とジンユを見た後で黒トカゲは二刀で構えをとりながらケイメンに距離を詰めてきた。


「ケイメン援護します このモンスターに交渉は無理でしょう」


「いやミル俺はいい やつが俺以外を狙ったらそちらを援護してくれ 気のせいかも知れないが狙いは俺なのかも知れない」


ミルミルは詠唱しながら黒トカゲを見つめ考えていた。倒れたものに追撃を行わず残ったケイメンと私を排除してからゆっくり片付けをと考えているのではないかと思った。そしてケイメンもそう思っての事だろうと納得した。


「ふぅぅぅぅ」


詰め寄る黒トカゲを前に剣を構え魔力を大きく溜め込むケイメン。

その髪、瞳が碧色にゆっくりと変化していく。戦いの最中ではあったがミルミルは心中で美しいと思った。

黒トカゲとケイメンの間合いがぶつかりかけたその時


草木遊戯そうぼくゆうぎ


周りに生えてる花から種子が凄まじい速さで黒トカゲに向かって放たれた。

それと同時にケイメンが隙を狙い突き込む。


「はぁぁっ!」


黒トカゲは種子に気づき小さく後方へ動き対応しようとしたが飛来する種子が予想外に多かったので完全に後手に回されケイメンの正確な突きを防ぐことは不可能だった。

ドシュッッ

右肩下部を深く突いた剣を素早く引き戻し右斜めより切り上げた。黒トカゲは仰け反り間合いから逃げようとしたが逃げ切れず。


「浅いかっ」


ケイメンは1度下がり構えをとり黒トカゲの動向を注意深く見ている。

致命傷とまでは及んでないはずなのに逃げ出す素振りすら見せない黒トカゲにケイメンは疑問を抱いていた。

群れのボスならば戦いから逃げ出す行為が何を意味するのか解る。だが周りには手下も居らず固執する理由が有るとも思えない。モンスターで在ればこそ勝てないと悟った時は本来逃げ出すはず。

ケイメンがそこまで考えた時に黒トカゲは剣を振りかぶり投げつけ、かろうじて持っていた右手の剣を持ち換えてケイメンへと詰め寄った。

キィン 飛来する剣を払いのけると同時に魔力を更に高めた。

ガクンと黒トカゲが体制を崩した。ケイメンの草木遊戯にて地面に生えていた草が堅い凶器へと変わっていたのだ。


「終わりだ!」


ケイメンの剣が一文字に黒トカゲの首へと走る。

ドシャッッ

胴体が先に倒れ後を追って首が胴体へと落ちた。


「やった…」


「やりましたねケイメン」


「すみませんケイメン様 お見事です」


「皆無事で良かった」


そう会話するとケイメンの身体から碧の魔力と色がふっと消えて剣を支えに少し倒れこんだ。


「大丈夫ケイメン すごい汗だわ」


「俺は大丈夫だ とにかく早いところ帰ろう」


「応急処置ですが水流治療ウォーターヒール


「ありがとうミル」


「助かりますありがとうございます」


一行はまた同じようなモンスターが来ないとも言い切れない現状を考え、直ぐ様に帰宅の途へとついた。

ケイメンは去り際に戦場を一瞥いちべつしてその場を後にした。

黒トカゲの死体が霧に包まれて消えたのはそれから数時間後のことだった。


「予定通りだ ふふ」


戦場跡でボロのような物を羽織った者が何処からか現れて小さく笑っていた。









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