第18転 谷にて

「おはよう」「おはようございます」

「あぁ おはよう」


挨拶を交わすケイメン達。執事は軽くかしこまり口は開かず挨拶した。護衛とのことだが二人ともマスクを被り表情は見えない。


「さぁ我が庭をより豊かにするために参ろうではないか」


いつになくテンションが高いケイメンを見てジンユも気分が盛り上がってきた。


「所で谷って言うけど近いの?」


「魔馬車なら3時間前後だろう 会話してたらあっという間さ」


「ケイメンの時間感覚もう少し何とかして欲しいんですけどぉぉ」


ふふっとミルミルが笑いながら馬車へと乗り込む。後に続き二人が乗り込んだのを確認して執事二人が魔馬車を操り目的地へと向かった。


「なぁモンスターってやっぱり学院で模擬戦闘するようなやつらなの?」


「まぁそういったのも居るし その土地固有のモンスターもいるぞ」


「俺結構不安で一杯なんだけど」


ミルミルがおっとりとした口調で


「ジンは魔力変換がまだ出来てないと聞いたけど変換ってのは個性だからね 基本的な戦闘であれば魔力操作さえしっかり出来ていれば困ることはないわよ」


「早く変換を出来るようになりたいよ」


「そうね これから先どんな修羅場に遭遇するか解らないし早ければ早いだけ自己の変換をよりイメージして強化できることが可能だからね でも焦ることないわよ歴史上で生涯変換出来なかった人はいないはずですからね」


ミルミルは安心させてくれようとしてるのは解るんだけども、例えが大きすぎやしないか?と突っ込みたいのをジンユはこらえミルミルへ


「ミルの住んでいた水の都ってどんな所なのかな?そこら中 水だらけなの?」


「それは否定しないけど多分ジンの想像とは大分違うと思うわ」


ジンユは素朴な疑問が浮かんだので聞いてみた。


「水の民って言うくらいだから住人は皆が水属性なの?」


「そうね一部例外は有るけれど基本的にそうかしらね それに生まれながらに水を基調とした生活をする環境だから水をイメージしやすいの それと属性とが相まって生まれる魔力に水の民と呼ばれるようになったとか」


「そっかぁ てっきり水の民って言うから常に水に浸かって生活したり水の中でも呼吸出来たりするもんだと思ってたよ」


「まぁ それはイメージと言う名の偏見ですわね」


ミルミルが笑いながら返答すると馬車が止まり扉が開かれ


「ケイメン様 目的地です」


「ありがとう 基本的にこちらで特訓を兼ねて行動するので緊急時以外は見守っててくれ」


「かしこまりました」


ケイメン達は谷の方を一望する。魔鳥の類いの声が遠くに聴こえ、濃い霧が有り視界が遮られている。ケイメンが荷台を開くと


「二人とも必要な物があれば持ち出してくれ」


そこには大剣小剣ハンマー鞭メイス等一通りの武器と軽装防具それに軽食、回復薬などが整頓されて積まれていた。


「私は愛用のスティックが有るから」


ミルミルは軽く荷物を一見して言った。

ジンユは荷物を見ながらあれこれと悩んでいる。


「俺って考えてみたら得意な武器ってのがないな どれもこれも扱えるんだけども これだ!ってのがないんだよなぁ」


そう言いながら腰に小剣を装備してハンマーを担ぐと


「これでいってみるかな」


「中々見ない組み合わせで選ぶんだな」


ケイメンは意外そうな表情で一言。ケイメンは両刃の中剣を選ぶと小型の盾を肩に掛けてポーチへと幾つかの薬剤を詰め込んだ。


「さて わが庭の新しい家族を迎えに行こうか」


「ケイメンに家族候補なら毎日来てるじゃん」


ケイメンはそれを聞いてふっと笑いながらゆっくりと谷の方へ向かう。

ミルミルもジンユの横をニコニコとしながら追い越して前へ。


「口に出すもんじゃなかったかな」


心の中で突っ込んどくべきだったかなと少し思い直したが二人の笑顔を想って、まぁいいかと納得するジンユだった。

しばらく歩くと先を歩いていた二人が立ち止まり武器を構えた。


「早速歓迎されてるようだな」


目の前に現れたのはトカゲが二足歩行しているとしか表現が難しいモンスターだった。

数は2匹だったのだがゲェッゲエッゲエッと鳴くと、濃霧の中からゾロゾロと3人の前に現れ威嚇しながら数を増していった。


「私に任せないでください」


いきなり力強く発された言葉にケイメンとジンユはちらりと目線を合わせて笑い出す。


「いやいやこの状況でミルちゃんに任せる奴とかいるの?」


「くくっ あっはっはっ」


ケイメンの笑い声に反応したトカゲたちが距離を詰め始める。


「主導権は譲ってくれるようだな」


そう言うとケイメンが踏み込み中剣を居合い切りのように抜刀しトカゲへと切りかかった。トカゲ達は声高々と奇声を発すると次々と襲いかかってくるがケイメンの素早い剣捌きの前に倒れていく。


「ジンユ 後ろは任せた」


「わかってるって任されなくても任されるつもりだからよ」


ジンユはハンマーを振り当ててトカゲを動けなくしていく。ハンマーの重さで大振りになってしまった隙をトカゲがタイミング良く爪を振りかざしてきた所に


水流槍ウォータースピア


小さな水の槍がトカゲに突き刺さる。


「おお ミルちゃん助かる」


「ふふ 任せないでくださいね」


ケイメンは笑いながら剣を振り次々と致命傷を与えていった。40体ほど倒しただろうか。もっと居たような気配があったが気付くと動くのはケイメン達3人だけになっていた。


「ふぅ いいウォーミングアップなったな」


「ええ そうですわね」


「出来ればウォーミングアップで帰りたいな しばらくは団体様からの歓迎会はお断りしよう」


そう言い各自呼吸を調えて装備を軽く手入れし濃霧の中をまた歩き始めた。ジンユはチラリと後方を見ると護衛執事が一定の距離を保ちながら着いてきているのを確認した。


「あった水辺に咲くミツクリ草だ」


「ミツクリ草は咲く場所によって宿す実が変化する草でしたね ですが持ち帰ってもあちらで植えてしまうのであれば同じ実ができてしまうのでは?」


「確かにその通りだミル だが何かしらの影響を与えて栽培出来ないかと思ってなぁ」


「でしたら私がこちらの水を持ち帰り調べてみましょうか」


「おお 水のスペシャリストのミルに頼めるならこの上ないな ありがとう」


「お力に成れるかまだ解りませんがやれるだけやってみますね」


ケイメンはミツクリ草をポーチにしまい、ミルミルはケイメンより受け取った小瓶に水を入れてその場から離れようとした。

その時、後方にいた執事が大きく叫んだ。


「襲撃です 戦闘体制を」


先程のトカゲの集団に加えて大きな恐竜のようなモンスターに股がり槍や剣を持った者まで現れた。


「もう団体はごめんだって言ったのによぉぉぉぉ」


「これはちと数が多いな 護衛の二人も戦闘に参加を」


「はっ かしこまりました」


護衛二人が剣を抜き前衛両脇を堅め中央をケイメン、ジンユ後方にミルミルの陣形に自然となった。


「押し進みながら中央突発で抜けるか!?」


「お言葉ですがこの数だと失敗したときに囲まれる恐れがあります このまま水辺を背に数を減らした方が良いかと思います」


「そうしよう先ずは数を減らそう」


ケイメンは剣を振っては襲いかかるトカゲを地に伏せていく。トカゲ達の後方から槍が飛来し始めた。


「これは…まずい」


「おいおいこいつらなんでこんなに躍起になって俺達を襲うんだよ」


降りかかる槍を払い除けながらトカゲ達との終わらない戦いに徐々に疲弊し始める。

暫く静かに詠唱していたミルミルが大きく叫んだ。


水流通路ウォーターロード


後ろの水辺がうねりをあげて吹き上がる。


「ケイメン ジン下がって! 正面に撃ち込むからその後で内側の水を圧縮させて外側を強化させますから中を通ってこの場を突き抜けましょう」


その言葉を聞いた二人が同時にバックステップを取りミルミルの前左右に位置取る。

確認したミルミルがスティックを振り落とすとうねりと共に凄まじい水流が前方のトカゲ達を吹き飛ばしながら一行の前に水壁円型の通路を造り出した。


「今です!行きましょう!」


「ミルちゃんすげぇ」


「走るぞ!」


水壁に守られながら駆け抜けるケイメン達。だがジンユを除いた4人は並行して付いてくるモンスターの存在に気づいていた。

まだ油断の出来ない状況下に一行は立たされていた。





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