第16転 一夜明けて
「今回の仕事の報告書です 私見ですが大型人狼がもしかしたら操られていた若しくは特殊個体だった可能性を捨てきれません」
そうウィルフが学院内部職務委員会に説明をすると質問が返ってくる。
「仮にその個体が操られていたとして目的は何でしょう また特殊個体だった場合はどのようにお考えですか?分析官としての意見を求めたく存じます」
「そうですね 仮に操作されていた場合だと狙いは実習生ではなく私かマルス先生の失脚などではないかと そして特殊個体だった場合は人為的に放たれた可能性も考慮して別荘の持ち主の近辺調査も同時に行うことにより精度の高い検証が出来るのではないかと思います」
「なるほど ゼカ先生のお考えは一つの意見として受け止めておきます 現状で仕事内容が終了してしまっているため現時点では究明に乗り出せないのが本音です」
ウィルフは只の杞憂であれば良いのだがと思いながら一礼してその場を立ち去った。
不安を拭い切れず考えながら歩くウィルフの前に手を降りながら近寄るジンユが
「ウィルちゃぁぁん どしたのそんなに悩ましげに歩いて何かあったんの?」
「おい学院では先生と呼べと言ってるだろう」
ジンユはあれ?ウィルちゃんって呼び名には突っ込まないんだと思いながら左手を上げて満面の笑顔で
「はーい先生」
「やれやれバンプは悩みが無さそうで羨ましいな」
そう言い小さくため息をついてジンユの前を立ち去った。ジンユはウィルフの様子を見て何かあったのだろうとは予想したが無理に聞こうとはしなかった。それは自分がまだ何も力になれるレベルじゃないと思っている事も要因だった。
一方、魔力操作訓練室に先日のメンバーが集められウィルフとマルスを待っていた。先にマルスがついたが間もなくしてウィルフも入室したためマルスも実習生に言おうと思っていたことをとりあえず呑み込んだ。
ウィルフがマルスを見てから実習生に視線を移す。
「先日は御苦労様だった 中には何度か補佐に入ってる者もいたが未経験者も多い中で良くやったと思うわ」
ウィルフの言葉に少し顔が緩む生徒達。ウィルフは更に続けた。
「だが危険な場面も有ったわね 1歩間違えば大怪我 最悪の場合は死に至ったかもしれない場面もあったわ 恐らく言わなくても理解してるだろうから強くは言わないけども今後に必ず活かせるようにしてください」
ウィルフはもっと言いたい気持ちも有ったがマルスを見て
「マルス先生からもどうぞ」
「私の言いたいことがゼカ先生からほぼ言われてしまったので事務的な事だけ伝えておきます 今回の補佐の実績と賃金は学院に入学時に登録された所定の口座に振り込まれます それと今後は自らの意思で補佐を希望出来るようになりましたので自分の適性に合いそうな仕事が有るときは積極的に参加してくださいね 以上です本当にお疲れさまでした」
各自報告書も人数分あるのを確認したウィルフは
「これにて解散にします 魔力の乱れを感じたり不安なものは医務室で検診を受けるように それとレド・ルルンは残りなさい では解散」
そう言い切るとマルスを先頭に皆退出していった。ウィルフはそれを確認した後で
「ルルン昨日は見事だったと同時に下手したら今頃は首が繋がってなかったのかもしれなかったわね」
「ごめんなさいウィルフ」
素直に謝るルルンに
「初めての戦闘なのに本当に良くやったと思うげども次回からは例え相手が倒れても油断せず挙動を見るようにね」
度重なる重複注意もルルンはウィルフの表情を見たらウィルフの感情がとても伝わってきて思わず抱きついてしまった。
「お おぃなんだなんだ私はそんな趣味はないぞ」
「知ってるよ」
「それに私は先生として怒ってるんだぞ」
「うん知ってるよ ありがとう」
抱きついてから暫く離れないルルンにウィルフはルルンの胸を小さな手でまさぐると
「キャッちょっと何するのよ」
「ははっ こうでもしないと離れてくれそうになかったからね」
ルルンがウィルフを目を細めてジーっと見つめて
「そんな趣味ないとか言う割には私結構ウィルフに身体触られてる気がする」
「おぃおぃバンプじゃああるまいしごめんなさいだよぉ」
二人でどっと笑い出す 二人とも何時ぶりにこんなに笑ったのだろうと思った位に声を出して笑ったのであった。
「思ったんだけどウィルフっていつの間に先生なんてなったの?馴染み過ぎてて最早違和感ないんだけど」
「あー分析官として仕事探す予定だったのだけど学院の方からお声かけを頂いてね お見合いに決着がつくまでは良いかなって引き受けたんだよね」
ウィルフはお見合いと言ってるがケイメンに会ったのは一度きりでまだ2度目は無かった。それも理由があり勿論ケイメンが多忙ということもあったが何より自分を分析する時間も欲しかったのである。何故あそこまで引かれたのか、これが一目惚れなのか又そうだった場合何故一目惚れしてしまったのか。ウィルフの仕事柄と言うより性格柄だろう。そこに理由など要らないとは思えないのだ。だから探究せずにはいられない。
「ルルンはそろそろ覚悟はできたのか?」
「覚悟…私は…」
ルルンは当初お見合いが公募されたとき不安や焦り哀しみ絶望感など沢山の感情が生まれていた。それと同時にクルに対する気持ちを強く再考させられることになったのだ。これが恋人募集といったものなら恥ずかしながらも即座に参加したのかも知れない。だがそれを飛ばして嫁募集となると如何にクルに好意を寄せながら育ってきたルルンと言えど、考えずに参加しますとは言えなかったのである。ましてや数えきれないだろうである参加者を想像するだけで胸が痛むのであった。
「覚悟は…正直まだ無いかな」
ウィルフはルルンの表情を見て
「それでいい自分で悩んで悩んで探し当てた答えが出るまで悩むといいさ」
「うん…今はそうする」
「まっ 最もその答えが出る頃には私がクル・ウィルフになってるかも知れないけどね」
ニヤリと笑うウィルフにルルンは感情を抑えきれずまた抱きついてしまった。
「ちょ こらやめろって」
「やーめなぃよーだ」
二人がからかい合う教室内はいつもより狭く温かく感じたルルンであった。
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