第15 初めての戦闘

「おはようごさいまーす」


「あぁおはよう~」


「おはようごさいます」


先生と生徒のやり取りが成され集合予定時間より大分早くに全員が揃っていた。

引率代表ゼカ・ウィルフ

副担 スイト・マルス

補佐実習生 6名


「よーし そんじゃサッと行ってサッと終わらせるぞー」


副担のスイト・マルス 魔人種で主に学院での簡単な模擬戦闘や仮仕事等に組み込まれる事が多い。短めの赤髪でどちらかと言うと子供っぽい印象が強い。そんな副担の彼女が


「あのゼカ先生 もう少し具体的な指示なり説明をしておきませんと何か有ってからでは…」


「ん そうだね 補佐実習生の皆に言えることだけどね まずは見ること先生を敵をそして自分を その上で自分の立ち位置で何が出来るのか何をするべきなのかこれ等の判断が戦闘になった場合は常に迫られます 魔力操作する時と同じ様にイメージしてくださいね そして大切なのは無理をしないこと今回は人数も多く無理をするような事にはならないとは思うけど とにかく無理をしないように動いてね」


ウィルフの話しを聞いて今までの模擬戦闘とは違うんだなと改めて実感する。

一行は大型の魔馬車に乗り込むと依頼が有った森林地帯へと向かった。

カカッ カカッ時間と共に森に入り込むと緑豊かな匂いと鳥のさえずりが馬車内まで入り込む。少し揺れが激しくなったのかと思った頃に魔馬車を操作しているウィルフが


「目的地に着いたぞ~ まずは周りの様子を各自よく見て~爪痕がないか糞がないか襲われた小動物がいないか等」


別荘周りを一通り見回したがこれといった手掛かりは無かった。そこでウィルフはマルスと相談して4人編成のチームで少し距離を拡げて操作しようと決めた。

ルルンはマルスとのパーティになった。別荘を正面に右手と左手に別れ捜索することに。

どちらのパーティも同じくらい森に入り込んだであろう時にウィルフが馬の鳴き声を感知した。まさか小型人狼が我々の隙を狙って来たのか?疑問を抱きながら別荘へと駆け付ける。


「これは馬に悪いことをしてしまった 仇はとる」


別荘の前には恐らく別荘裏手側から現れたであろう人狼が群れを成してウィルフ達が乗ってきた馬車を囲み襲っていた。

ウィルフは信号弾を空に打ち上げると大きな声で


「総員戦闘準備 敵を侮ることなく自己の保身を第一に戦うように」


信号弾に一瞬怯んだ人狼もこちらを改めて敵と認識したのであろうか、ウィルフ達を取り囲むようにして周回を始めた。

ウィルフは落ち着いた声で


「いいかーこいつらは群れでしか襲ってこれないレベルの生物だ ひと度攻撃が開始されると次々くるからなー覚悟しておくように~」


実習生達は周回する人狼を見回しては既に臨戦体勢に入っていた。一瞬目を離した人狼が実習生へと飛び掛かった。

実習生の一人が素早く反応して体を入れ換えると後ろにいた実習生の剣にて命を絶ち切られた。

だが怯むことなく周回をやめず次々と飛び掛かってくる。

ウィルフは全く手を出すことなく状況分析をしていた。

このパーティは皆が近距離型なのか、それとも能力を発揮するまえに緊張でやられてるのか。ウィルフが思考している間にウィルフ自身が手を出すことなくゆっくりだが実習生だけで粗方の人狼は動かぬ塊となっていった。そこにマルス達のパーティが駆け付けると同時に別荘裏手から新たな群れがパーティに襲い掛かってきた。


「ゼカ先生少しはお力を貸した方が宜しいのでは?」


「マルス先生この程度ならば実習生に任せましょう 今後どのような仕事に従事しようとも戦闘は必ずと言ってもいいほど付いてきます 少しでも経験値として活きるように彼らに任せることを私なら考えますよ」


前線で善処しながら戦う後ろでウィルフとマルスが状況を見ながら会話する。

そんな中でウィルフは一つの疑念を抱き始めていた。小型人狼がこの季節に何故ここまで執拗に襲ってくる?餌ならば今ここで私たちを諦めた所で森にいくらでもあるはずだ。

いくら大きな群れとしても此処までの犠牲がでれば本来逃げてもいいものなのだが…。

そう思考を重ねていた瞬間、前に出すぎていた実習生の一人が勢いよく吹き飛ばされて後衛にいたウィルフの横へと転がってきた。


「ぐぁ」


別荘裏手から一際大きな個体が現れて雄叫びをした瞬間先程まで殺気立っていた群れが後ろに下がり様子を見るように座り込んだ。

マルスが実習生に治癒魔法をかけながら叫んだ。


「魔力が乱れているものは下がりなさい 相手は先程とは違いますよ!」


実習生が下がると同時に距離を詰めた大型は大きな爪を振りかざす。

ルルンは考えるよりも先に身体が動いていた。


「よせルルン!」


ガキン!爪がルルンの手首にある網目上のリストブロックでその勢いを止めた。

ウィルフが飛び出したと同時にルルン


「吹き飛ばしたいこぶし


メキメキメキラッ 骨が砕けるような音と共にルルンの拳が突き刺さるかのように大型の脇腹へ入ると時間差を置いて爆風がルルンの拳に乗り後押しするように大型を別荘へと吹き飛ばした。

ズカシャーン別荘の窓が割れて大型が地面へと叩きつけられた。後ろにいる実習生もウィルフもマルスも皆が驚いていた。

そして大型が地面で痙攣してるのを目の当たりにした小型人狼は散り散りに逃げていった。


「やりました先生」


嬉しそうに後ろを振り向き手を振ろうとした瞬間ウィルフが既に横にいた。

キィン 先程と同じ様に爪を防ぐ音が鳴り響く。ウィルフの小剣がルルンの首元を守った音だった。


「下がれルルンまだ終わってないぞ 止めを刺すまで油断するな」


そう言いながらもウィルフは明らかにおかしい様子の大型に違和感を覚えていた。

負傷してるはずなのに其れを庇う様子もなく執拗に襲ってくる。本来ならばこれだけの力量を感じさせたなら逃げるものだ。人為的な操作か?それとも変異型個体なのか?

全ての攻撃を小剣で捌ききっていると大型は前のめりに倒れ込んだ。


「ふむ完全に絶命したようだな」


ウィルフは疑問の答えを出す前に大型に死なれたことに少々苛立ちを覚えたが顔には出さずに


「皆が無事で良かった これより帰還準備に入る 暗くなる前に森を出よう」


そう言い小剣を軽く大型の死体に擦り付けて鞘へとしまった。この大型が縄張りのボスなら匂い自体がモンスター避けになるだろうと思っての行動であった。

その行動が正解だったのか森より帰還する最中にモンスターには1度も遭遇することなく無事に抜ける事が出来た。


「さて皆無事で何よりだが各自の意見を入れた報告書を作成して提出するようにね」


ウィルフが話してる間にマルスが魔通信にて手配していた魔馬車が一行を迎えに来た。

皆が無事に帰宅できたのは日付が変わる直前であった。


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