第12転 クル家にて

「おはようございますケイメン様」


コンコン ドアを軽くノックする音とジスの挨拶で静かに目が覚めたケイメン。


「あぁ おはようジス 目覚めは良いがまだ少し眠いなぁ」


「いつもと変わらぬお時間で参りました 慣れない日常に身体がお疲れになっているのでございましょう明日からはもう少し時間を伸ばして参りましょうか?」


ケイメンはベットからゆっくりと起き上がりジスを見て


「いや問題ない 只でさえ予定が詰まってると聞くからな このペースで大丈夫だ 倒れるまでは御免だがなぁ」


そう軽く笑いながら着替えを始めるケイメン。


「学院は仕方ないとしても基本俺の生活に合うように管理を頼むぞ」


「もちろんでごさいますケイメン様 このお見合いには絶対的な条件というものが有りませんのでケイメン様がそのように望むので有れば滞りなくそのように取り計らうように致します」


チラリと時計を見てジスは確認を取る。


「間もなく朝食のお時間になりますが同時にお見合いを開始させて宜しいのですね?」


ケイメンは再度ジスを見ながら


「勿論だ 時間が合わない参加者は後日に回すか、無理なようであれば丁重に断ってくれ」


「かしこまりました そのように取り計らいます」


そう言うとジスは部屋からドアの方へ歩きドアに手をかけた後に振り返りケイメンに


「ケイメン様此度のお見合い本気で嫁をお取りになるお気持ちでおられますでしょうか?」


「ジスにしては異なことを聞くもんだな 父の命により確実に順守するのだろう?俺の気持ちがどこにあろうともいずれは嫁を取らなければならないのだろ?」


ジスは深く頭を下げて


「大変失礼致しましたケイメン様 私としても心苦しいのですが せめてケイメン様にそのようなお気持ちが生まれてくださればと思い僭越ながらお聞き致しました」


「いやジスすまない 俺も意地の悪い言い方をしてしまった 父の命とクル家のためとあらば俺の意思などそれほど重要ではあるまい だが相手とて意思持たぬ木石ではないからな 可能な限り良い縁談にしたいとは思っているそれが今の正直な気持ちだ」


ジスは身体を起こしケイメンを真っ直ぐみて


「ありがとうございますケイメン様 そこまでお考えになられてましたので有れば私の要らぬ心配でございました それでは庭樹苑の方へ朝食の支度をして参ります」


「あぁ よろしく頼む」


ケイメンは着替える手を止めて一時の間、目を閉じ軽く頭を下げ考えた。

俺の気持ち…か

ケイメンは目を開き着替えを済ませると部屋を後にして庭樹苑へと歩き向かった。


「お待ちしてましたケイメン様 あちらに朝食の支度ができています。それと参加者の方達がお待ちです」


ケイメンは静かに頷いてゆっくりと庭樹苑中央にある円卓に向かう。


「あっ こられましたわ! 」


円卓に座り込んでいる参加者が我先にと立ち上がり笑顔で手を降る。ケイメンも軽く笑顔で答えながら円卓の前まで着くと


「初めまして今代当主クル・ケイメンです よろしく」


「お初にお目にかかります私はミリタス…」


言いかけている声を遮るかのように軽く一礼して席に座ると一斉に名乗りを上げようとする参加者にケイメンは


「みなさんの資料は参加の際に頂いておりますので自己紹介を省かせてもらいますね それと俺自身頭が良くないので皆さんに今、名前をお聞きしても覚えきれなくて…すいません」


そう軽く微笑みながら言うと参加者達は静まり返り、ケイメンが朝食を取る音と鳥達の声だけが庭園で聞こえる音となった。

少しの時間を置いて参加者の一人がケイメンに質問した。


「あのクル様は毎日こちらでお食事をとられてるのですか?」


「そうですね基本的にここで食事を取ります 好きなんですここが」


「ええ とっても素敵なお庭だと思いますわ」


その質問を皮切りに次々と質問が始まった。


「クル様はどういった女性が好みなのでしょうか?」


「自分でもまだ良くわからないんです 何が結婚に必要なのかも全て今学んでいるつもりなのですが中々…」


ケイメンは自分で上手く笑えているだろうかと心配に思ったが参加者達の表情を見渡す限りは大丈夫そうだなと思った。


「クル様の御趣味は?」


「趣味ですか…趣味と言えるかわかりませんが、この庭園にて鳥の声を聞きのんびりとしたり瞑想したりする時間が多く、好きですね」


「本当ここは素晴らしいお庭ですものね」


質問は取るに足らない内容のものも多かったがある質問でクルの微笑みが瞬間に真顔へと変わった。


「クル様の先代は御隠居生活をなされてるのでしょうか?」


「…いえ先代はある任務の最中に行方知れずで戻らぬ者となりました 国の判断基準では死亡として処理されています」


「知らぬとはいえこれは大変失礼を致しました」


頭を下げる婦人をみてケイメンは微笑み


「どうぞ頭を上げてください 気にしないでください」


その後ケイメンは食事を終わらせ静かに目を閉じると魔力操作を始め瞑想状態に入った。そしてその瞑想の時間に耐えきれない参加者はジスに静かに挨拶をしては帰っていった。空いた円卓の席には新たな参加者がジスより現状の説明を受けてから座り込んだがどの参加者もその静かな時間に痺れを切らして庭園苑を後にしていった。それも無理はなかった。ケイメンが魔力操作を始めてから既に9時間になろうとしてたからだ。


「ふぅぅ」


ケイメンが浅く息を吐きながら静かに目を開くと円卓に座っている参加者は只一人だった。ケイメンは少々の不思議さと中々の驚きを受けたが顔には出さないように努めた。そして


「朝食の時からいらっしゃいましたよね お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


ケイメンの言葉に少し遅れてからハッと気づいたようにして彼女は言った。


「水の都ディナから参りました ホース・ミルミルと申します」














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