第8転 食事懇話

「あなたさえよければ少し話さない?」


ウィルフの問いにルルンは私と?と疑問を抱いていたが断る理由も無かったので小さく返事した。


「うん」


「あれ!?ねねっ!ウィルちゃん俺は俺は!?話したい話されたいどっちでもいける魔人だぜ!」


片目をつむり親指をグッと立て、そう話すジンユに


「あぁ あんたもいたわねバンプ 特にあなたと話すことはないから居ても居なくてもいいわよ用が有るのはルルンだから」


ジンユは我ながら忍耐力有ったんだなと思いながら


「おっけー!ほんじゃ一緒にいるねー!一緒に帰りまーす!」


ウィルフは小さくため息をついてからボソッとつぶやいた。


「うるさかったり邪魔したら吹き飛ばすからね」


ルルンには聞こえてなかったようだがジンユには聞こえていた。ジンユはそれでもウィルフに笑顔で返した。


「あの話しって…」


ルルンは歯切れ悪く言いかけると、すぐさまに


「立ち話しも何だからどこかゆっくり話せる場所へいこう お腹空いてる?何か食べながらでも構わないわよ」


ルルンとバンプは顔を合わせて確認するかのように


「私はお小遣いがあまり残ってないから…」


「俺も今日はあまり持ち合わせが…」


それを聞いたウィルフが


「持ち合わせが無いだけでお腹は空いてる感じなんだね いいわ お近づきのお礼に今日は私がごちそうするからどこか行きましょう」


「そんな 悪いですからいいですよ 平気です 家に帰ればご飯も有りますから」


そう言ったタイミングでルルンのお腹から可愛い悲鳴が鳴り響く キュウゥゥゥン

咄嗟にお腹を押さえて赤面するルルンにジンユは、おいおいこのタイミングでお腹鳴らせるってどこのアニメですか!と心の中で突っ込んだ。


「ははっ 気にしなくていい 先程も言った通りお礼も兼ねているのだ それに最近細々とした仕事も片付いて懐には自信があるからな」


二人は驚きを隠せずにほぼ同時に


「仕事してるんですか!?」


「もちろんだ 私は分析官をしているのだが仕事柄で多種多様な依頼が多くてね 見合い前に粗方片付けてきたのよ」


二人は顔に出るくらい驚いていた。種族により多少の差異はあるだろうがプーギンスで仕事をこなすと言うことは最低でも魔力応用出来てかつ実用出来るレベルに達してないといけないからだ。さらにウィルフの口ぶりからも当たり前のように仕事をこなしてるのが伝わってきたから二人が驚くのも無理は無かった。


「そんなに驚くこと? まぁその反応も珍しくないからもう慣れたけどねぇ さっ行きましょう 私はこの辺りはよく知らないから二人がお勧めしてくれると嬉しいんだけどね」


「そーゆうことでしたらウィルちゃんに甘えちゃいますぜっ」


「じゃあ すいませんご馳走になります」


二人はそう言うと、どこが良いだろうと相談し始めた。そしてわずかの時間をおいて公園内にあるオープンテラス型のお店に決めた。


「少しだけ歩きますけど大丈夫ですか?」


「もちろんっ!決まったのなら向かいましょっ!」


3人は並んで歩きながら軽いおしゃべりを楽しんだ。主にジンユはツッコミしかしてないのだが。無論心の中でである。


「いらっしゃぁぃ~3名様~ご案内~」


おっとりした口調の店員が3人を席に案内してくれた。3人はメニューを見てルルンとバンプはそれほど悩まずに決めた。ウィルフだけがこれも美味しそう、これも捨てがたいとボソボソ言ってるのが聞こえた。程なくして


「よしっ!決めたっ!頼もう!」


「決まったかしら~」


お客がまだ少ない事と、ウィルフの高い声が相まって呼ぶ必要なく先程の店員が注文を取りに来た。


「私は深海魚パスタで」


「俺は魔牛の業火炒めで!」


「むっ!バンプと1品被ったか!まぁいいわ それじゃ魔牛の業火炒め追加と魔樹菜園直送ミックスサラダに魔渓谷産極鳥のふんわりセットでっ!」


ルルンとジンユは注文を聞いてるうちに、そんなに食べれるわけないじゃんと思いながらも、ここは持ち帰りも自由だからとあえて注意することもなくオーダーを終わらせた。


「さてと話しと改まって言うのもなんなのだけどもルルンはクル様、いやクル殿を好いてるみたいだけどお見合いには参加したの?」


「えっ!」


いきなりの質問に戸惑うルルンにウィルフは


「いや、もしも私の勘違いならそれで構わないんだけど仕事柄でつい色々と見てしまう癖があってさ」


ルルンは少し迷ったがウィルフの率直な性格の前に嘘をつこうなどとは考えもしなかった。


「うん そうだよ私はクルが好き 良くわかったね」


とルルンは返す。


「ふっ!この分析官ウィルフの前ではみんな裸のようなものよ」


得意気に話すウィルフを前にジンユは、いやいや分析官じゃなくても見てればすぐにわかるからねっ!と突っ込んだ。もちろん心の中でだ。


「ルルン参加しないの?」


「私は…」


言葉が出てこないルルンにウィルフが


「これは私の見立てだけどね 参加しなかったら他の誰かとクル殿が結婚してその結果、私も参加していたらって後で後悔することになるでしょうね もちろんクル殿が誰も選ばずに時が流れる可能性も否定出来ないけど、あれだけ大きく募集してるのだから確率の問題になっていくと思うわよ」


カチャカチャ 音が聞こえ店員が間に入ってくるかのように料理をテーブルへと並べていく。


「お待たせ~どれも自信作ですから~ごゆっくり~」


店員が立ち去るのを見届けながらウィルフが続ける


「私は初対面だからクル殿の好みや性格等は全く分からないが、それでも今日会って一目でクル殿に惹かれた 同じようにクル殿も今後会う参加者に惹かれる可能性も有るわけだ」


黙りこむルルンを横目で確認したジンユが


「まっまっ!冷めないうちに食べましょ!腹が減ってはお見合いはできないってねっ!」


上手いこと言ったつもりのバンプだったがルルンはさらに神妙な面持ちになっていた。

少しの間を置いてルルンは


「ねぇウィルフはどうして私にそんな忠告をしてくれるの?もし私が参加したら恋敵ライバルなるんだよ?」


ウィルフは少し微笑みながら


「まずは食べよう もうこれだけの料理を前にしては恋よりもまずは腹を満たそうじゃないか」


そう言うと料理にフォークを付け口に運び始めた。その発言と行動に少し空気が柔らかくなったのかジンユも続けて料理を頬張り始めた。


「うっめー!!やっぱり魔牛最高!」


「うむ!これは味付けも素材もいいなっ!身体に吸い込まれていくようだっ!」


実際に吸い込まれていくような速さで料理を食べるウィルフを見てジンユは噛んでいる口が止まり、ルルンは驚きで目を見開いていたがウィルフの


「ん?食べないのか?食べないならそのパスタも私が食べるぞ?」


この言葉でようやく料理に手を付け始めた。


「ウィルフすごい その身体でそれだけ食べれるんだ」


「その身体とはなんだ!まだまだ未発達でこれから より大人のセクシーエルフになるんだから むしろこのくらい食べて当然よっ!」


ルルンもジンユも多種族に関しては詳しくもなく、そんなものなのかなと納得せざるを得なかった。それにしてもすごい食欲だとは思ったが。


「話しを戻すが どうして?と言ったな そうだなぁ 先程の庭園で私の魔法…ゴホンゴホン 庭園で吹いた風がとても気持ち良くてね ルルンもクル殿も風にとてもいい魔力を感じさせてくれたの 私は風が伝えてくれる情報に嘘はないと確信してるからね だからルルンあなたのこともクル殿とは違う意味で興味が出たってわけなの 一言で表すなら好きになれそうってとこね」


ジンユはそれを聞いて内心でおおおー!?これはきたぁぁぁっっ!!と妄想を膨らませながら


「ウィルちゃんウィルちゃん!俺は俺はっ!?」


「ん?あぁバンプには特に何も感じなかったわ 」


ジンユは前向きに捉えて言う


「あの風に遊ばれるウィルちゃんを前にしても紳士でいたこのジンユを見定めたってとこですかね」


はぁー ウィルフは小さくため息をついてジンユの発言を流してルルンを見つめ直し


「だからね それと同時にルルンの悩みって言うか焦りと言うか、抽象的でごめんなさいなんだけどね そんなものを感じ取ったからおせっかいとは思ったけど口出ししちゃったわけなのよね」


ルルンは料理をゆっくり食べながらもウィルフの話しを真剣に聞いている。


「ライバルとも言ってたけども私は私に出来ることをするだけだからね ルルンが参加してクル殿がルルンを選ぶならそれまでってことだしね」


先程と違い冷静さを取り戻したウィルフの胸中には自分が何故あそこまで惹かれたのか、今こうして冷静でいられるのは何故かと分析することに興味が膨らんできていた。


「よし しばらくはここで簡単な仕事でもしながら分析に励むとしようかなっ」


そう言って残りの料理を次々と食べていく。

ルルンはそんなウィルフをみて笑顔で


「私ウィルフとは良い友達になれそう!」


「ははっ 私は友達が少ないからね 素直に嬉しいわ」


そう笑顔で返すウィルフだったが隠れて見えない耳は真っ赤になっていた。

続けてジンユも


「俺もウィルちゃんとは良い友達になれそうだなぁ」


「本当にバンプって冗談が上手いと言うかおもしろいわね」


と笑顔で返すウィルフにジンユも笑顔で返す。深く考えたく無かったのかもしれない。


「さて食べ終わったことだし出るとしようか」


「美味しかった~ご馳走さまでしたー!」


そう言って立ち上がろうとテーブルに屈んだルルンの胸元のペンダントがチャラリと顔を出した。


「ん んん!?ルルン!そのペンダントは!?」









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