第6転 小さな幸せを運ぶ風
静寂をそっと壊すようにジンユが
「ゼカ・ウィルフ…それじゃあウィルちゃんでいいのかな?」
ピキッ
「あのねぇ!なんで初対面かつ言葉の暴力を行使してくるようなあんたに略称で呼ばれなきゃいけないのよ!吹き飛ばされたいの!?」
異世界プーギンスにおいて略称で呼び合うのはかなり親しい部類に入る。もちろん例外はあるが基本的には姓で呼び名前で呼び、そして略称で呼ぶのだ。
「1000歩譲ったとしてもゼカさんでしょうが!」
ルルンは納得しつつもそこまで強調して言わなくてもと思った。そんな顔をウィルフは見ながら
「お二人はクル殿の友人か学友といったところかな?」
「はい 私は学友のレド・ルルンです クルとは幼なじみです」
続けてジンユが口を開き
「俺はバンプ…」
「あーあー結構だ どうせもう会うこともないだろうからな 私のことも今日限り、いや今限りで忘れてくれていい」
可愛い見た目とは裏腹に歯に衣着せぬウィルフに二人は押され気味だった。
「ウィル…」
キッ!鋭い眼差しがジンユに向けられる。
「ゼカちゃん こんなこと言うのもなんだけど万が一お見合いが上手く回ったらこれからも会う機会があると思うんだけど…」
ルルンは複雑な面持ちだったが静かにウィルフを見ていた。大きな間もなくウィルフが
「それはない 私が参加したのは兄が勝手に参加登録したからだ 私の意思ではない だから私を思ってくれた兄とクル家への礼節を通したら、すぐにでも故郷に戻るつもりだ」
それを聞いた二人は顔を合わせた後ルルンは心の中でホッとしていた。そう思わせるほどにウィルフの容姿だけはとても可愛いく見えるのだ。
「こちらにおられましたかゼカ様」
ジスが現れて続けざまに
「レド様 バンプ様もよくおいでになられました本日はゼカ様のお見合いにてケイメン様もお時間が空く予定ですので良ければ別館にてお待ちになられますか?」
それを聞いていたウィルフが
「私は魔人族の礼節には詳しくないのだが、クル殿さえ良ければここで顔合わせしてもらって構わないですよ 友人が居られれば普段通りのクル殿も見られようというもの」
ウィルフは丁寧な口調でそう言ったが、どのみち顔合わせで終わらせて破談とするつもりだったので手短に済ませてしまおうという魂胆であった。
「そういったことであればその旨をケイメン様にお伝えして参ります ケイメン様のお人柄ですとすぐに此方へ参られると思います ので今しばらくお待ちを」
そう言いきるとジスは走ってるかのような速度でその場から立ち去った。それを見計らってウィルフが
「別れを言う時間も無いだろうから前以て言っておく 短い間だったが達者でな」
それを聞いたジンユは短い間柄だったが世話なったなじゃないのか? と突っ込まずにはいられなかったが口に出さなかったのは言うほど世話してないなと自らにも突っ込んだからだ。
「お待たせしました 間もなくケイメン様が参ります」
「ようやくクル殿とお会いできるのね 胸がはち切れんばかりに楽しみにしてましたわ」
ルルンはウィルフの言葉に驚きながらも遠目に近づいてきているクルに視線を移した。
ジンユはチラリとウィルフの胸元に目を写したが、どうやったらその胸がはち切れるんだ!?と思ったが勿論口には出さなかった。
ザッザッザッ ウィルフの背後からケイメンが
「お待たせしましたゼカさん」
振り返りながらウィルフは
「初めましてゼカ…」
ズッシャァァァン!!
雷に打たれるとはこのこのとか!
雷に打たれたことなど無いがその他の表現がすぐさま見つからないほどの衝撃だった。
「ゼカさん?どうなされました?ゼカさん?」
ハッと我を取り戻したウィルフは
「いえ!なんでもありませんわ!クル様!」
あわてふためくウィルフは口元を隠し誰にも聞こえない程の声で詠唱した
「
ウィルフの足元から風が巻き起こる。
「キャーなになにーいきなりえっちな風がぁぁ」
両手でスカートを押さえ込むウィルフ。突然の変わり身と出来事にルルンは呆気に取られる。
ジンユは心のなかでおおおー!?と叫びながらウィルフを凝視。
ジスは表情ひとつ変えずに静観している。
ケイメンはその風に揺らされる庭園の草木を見渡しているようだった。ウィルフのスモールハッピーウィンドがその勢いを失いながらルルンの方へと吹き抜けていく。
「きゃっ!」
ルルンの髪が風で巻き上がる。もうなんなのと思いながらも髪を整えながらクルの方を見ると、いつもより目を見開いてるかのようなクルと目が合った。
なんだか少しだけ嬉しい気持ちになったルルンは髪を整えながら笑顔でクルを見つめ直したのであった。
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