第79話 汚泥の処理方法 其の伍



 私自身専門家ではないのである程度聞いて覚えていた知識と足りない部分は想像で補うより他ない。だがトイレを作ろうと思ったらその前提として下水の処理は必須となる。まずは処理方法から考えねばなるまい。

 そもそも水を綺麗にする事それ自体はそう難しくはない。

 まずは汚水を一度水槽内で静置して滞留物を沈殿させる。その後分離した上澄みを別の水槽に移し再度静置し沈殿させる。この時に微生物の働きを利用する。これを何回か繰り返せば水そのものは綺麗に出来る。

 この時に働く微生物については目星が付いている。と言っても目に見える物ではないので結果からの推測でしかない。実験の結果、取り敢えず水は綺麗になった。それでもその水の中に存在するであろう大腸菌などの細菌については自然での分解に期待しよう。私が行おうとしているのは汚水から飲料水を確保する事ではなく汚水による環境破壊が起こらないようにする事だ。

 実験では瓶に川の水とその辺の茂みで採った土(出来るだけ『新鮮』な物だ)を使った。かき混ぜ、汚水にして、それを数時間静置したところ水と汚泥に分かれた。その水を掬い上げ別の容器に移し、この時にその辺の茂みに生えている草を幾つか混ぜておいた。この世界でトイレの役目を果たしている茂みでは排泄物の分解が速い。つまり強力な分解者がいるのだ。問題はその分解者が水中で生きていられるかどうかだ。私はこの分解者が茂みの植物に自生しているのではないかと仮定しこのように実験をするに至ったのである。そしてその仮定は確かで先述の通り水を澄んだものにする事が出来た。

 これを大規模な施設として作る場合やはり川の側が適している。私のいた世界の下水処理場もやはり川の側にあった。そもそも人間の居住する土地としては古くから、それこそエジプト文明の時代から川の側が適している事は分かっている。人間の住む場所と川、それに下水処理場は密接な位置関係にある。それに川の側ならば動力源も期待できる。水車ならそれを作る技術はこの世界にもあるし木材や鉄もある。また川の側ならば風にも期待できる。風が吹くならば風車が作れる。風と水。電気もモーターも、石油もエンジンもないこの世界でも動力を得ることが出来る。それならば水槽から水槽へ水を送るポンプだって作ることが出来るだろう。いや、水車そのものを利用したっていいのだ。

 さて、一番の問題は汚泥である。いくら微生物の力を借りた所で完全に分解することは出来ない。水槽から取り出して汚泥の水分を抜いてしまえば体積は減らすことが出来る。遠心分離機を使うのもいい。私は詳しくは知らないがビブリオという場所ならきっとその製法が見つかるだろう。私のようにこの世界に来た異世界人は沢山いるのだ。中には遠心分離機について知恵を残した人もいるだろう。

 この汚泥の処理に私は頭を悩ませた。その結果導き出した結論と方策を以下に記述する。この方法が広まればこの世界にトイレを作る事は夢物語ではなくなるはずだ。




「見つかった! これだ! この本に書いてある方法を使えば解決する事が出来る!」


 僕は興奮していた。探し求めていた物が今手の中にあるのだ。


 ページを捲る。


「なんだ…、これは」


 捲ったページは、一面、真っ黒に塗り潰されていた。

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