ビブリオにて
第65話 キス…?
「で?どうだった?」
「どうって何がだ?」
「そりゃもちろんキスよ」
「なっ⁉」
セイジの世界では口づけの事をキスと言うらしい。エアリィの世界でもそうだ。そしてこの世界でも口づけはキスと言う。
口づけとは口と口でする事だけを言うのではない。手や頬、体の一部に口をつける事も口づけという。
つまり私はセイジにキスをしたことになる。
「んっ、ふふふふふっ~♪」
「酔っ払いでもあるまいし気味の悪い笑い方をするんじゃない」
「で?どうなんよ~♪」
私の唇がセイジの頬に触れただけ。それだけの事だ。
「あれはただの事故だ」
「でも精霊はそれをキスって認めたわけでしょ?それで湖は綺麗になったんだし~♪」
「だから、別に、何もないぞ」
そうは言っても、なんだか落ち着かない。
嬉しいのか?いや、それは違う。嫌だったのか?それも違う。そもそもだ、口づけ、キスにしたって好意を寄せた相手にするものだ。エアリィが言うには挨拶として相手の手にキスをするという習慣はあるらしい。所変われば相手を抱きしめその頬にキスをする事もあるらしい。なら、私がしたことはなんだ?挨拶だったのか?
そもそも、私がしたわけではない。あれは事故に過ぎない。精霊様のイタズラだ。私が倒れてそこにセイジも倒れ込んできて、たまたま、私の唇に、セイジの頬が、当たった。ただそれだけの事だ。
なのにどうしてこんなに心がざわつくのだろう。
「実際のところイーレは清治の事どう思ってんのさ」
「へっ⁉…セイジは、その…」
「好き?嫌い?」
「好きとか嫌いとかじゃなくてだな…何と言うか、その……そうだ!仲間だ!仲間!」
「え~、仲間ー?つまんな~い」
「おい!エアリィ!お前まで酔っ払ってるんじゃないだろうな⁉」
「酔ってないよ。まだ朝だし。私飲まないし。そんなのあそこで飲んでるティレットくらいじゃない」
朝食を終え私達は食堂にいる。そして話をする私達を他所にティレットはいつもの場所で外を眺めて酒を飲んでいる。
セイジは朝食を済ませてすぐ仕事に行った。昨日の事もある。色々と滞った物を片付けなければならないのだと言っていた。それに一度トイレ作りを中断出来ないか市長さんに聞いてみるのだという。今は湖は前以上に綺麗になっている。だがそれも時間の問題だ。放っておけばまたあのように汚れてしまうのは明らかだ。
「そ・れ・よ・り・も!イーレの気持ちが問題よ!」
「だからセイジはただの仲間だ。それだけだ」
「ただの仲間はチューなんてしませんけど」
「それは、そうだが…」
認めよう。事故とはいえあれはキスだった。でも自分たちの意思でキスをしたわけではない。
「じゃあ、もう一度したいかで考えてみよう!」
もう一度したい?
分からない。
それ以前に私はセイジの事が好きなのか?
なら、私は、これから、どうしたいのだろう…。
「もしも~し。イーレさん?なんで~固まってるのん?」
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