第34話 真相


「終わったみたいだな」

「お疲れ様、イーレ。大変だったでしょう?」

「いや、大したことなかったぞ。あっと言う間終わってしまって拍子抜けだ。この世界の魔法使いなんてあんなものなんだろうか。精霊様の力を使っているのに」

「まさか魔法使いが全滅したのか⁉精鋭を五部隊は集めたのに!」

「結構早かったわね。こっちの方が早いと思ってたのに」

「ティレットもお疲れ様。あれ?メイド服は脱いじゃったの?似合ってたのに」

「動き難いから脱いだわ」

「勿体無い。脱ぐくらいなら私によこせ」

「門の外にあるから取ってくれば?」

「おい!お前!私の部下はどうした⁉」

「裏庭で伸びてるわよ」

「そんな!私直属の選抜部隊だぞ!」

「知らないわよそんなの。でも思ったより頼りないのね東方遠征軍って」

「それを言われると耳が痛いな」

「そちらの御仁はどなただ?」

「ああ、こちらは天川弥彦さん。この世界だとチュウ・セイ侯爵って言った方が分かりやすいかな」

「だいたいどうして貴方がここにおられるのです⁉」

「どうやら計画通りに事が運んだようですね。しかしこれっきりにして下さいね、エアリィ様。全く肝が冷えました」

「洋子さんもお疲れ。全部上手くいったよ。そこの将軍が清治を連れて来て人質にでもしてたらどうしたもんかと」

「セイジは?」

「まだ寝てるんじゃないか?」

「この騒ぎで起きないとはねぇ。洋子さんどんな薬盛ったの?」

「この世界ではありふれた睡眠薬ですよ」

「もう目覚めないって事じゃないよね?」

「もちろん。明日の朝には気持ちよく目覚めていただけるはずです」

「さ〜てと。ポール・バレンティヌス将軍。事情を話していただけますね?」



「一年前のあの大敗北の数日前、ヴァースィキ隊のクレンザー隊長が私の元にやって来て後退しろと言った。隊長の後ろには御手洗も控えていた。二人とも魔王軍の動きが妙だと言う、本来有るべき攻撃がないのだと。私はむしろ敵が疲弊してる好機だと言って応じなかった。そしてヴァースィキ隊を単独で戦場に向かわせた。結果、その直後に敵の大攻勢が発生し、ヴァースィキ隊を欠いた我々の軍は後退を余儀なくされた」

「なぜ進言を容れなかった」

「私には敵の行動が妙だとは思えなかったのです。攻勢に出ないのは純粋にそうする事が出来ないのだと」

「でもその隊長さんと御手洗さんには気付けたんでしょ?」

「おそらく彼らの培った戦場での経験がそうさせたのだろう。ヴァースィキ隊への無謀で無茶な命令は私も気になっていた。何度も止めるように言ったのだがなぁ」

「ヴァースィキ隊はどんな時も期待を裏切って戦果を上げてきた。困難な状況であればあるほどまるで楽しんでいるかのように。だから私は彼らに消えてほしかった」

「なんで?なんて聞くまでもないね。そんな陳腐な嫉妬心で殺されちゃたまらないね」

「私もそんな覚えあるわ。私がA(仮)の力を使うと士気が下がるんですって。全く勝手に連れて行っておいて酷い扱いよね」

「私の時はそんな事言われなかったぞ。やはりお前の力は黒魔術なのだ」

「黒魔術じゃないわA(仮)よ」

「A(仮)」

「あ、今の惜しかったわね」

「で、結局御手洗さんのいた部隊を単独で先行させた事が大敗北に繋がった、という事ね?」

「ああ、そうだ。…ちょっと待て、手記にこの事が書いてあったんじゃないのか?」

「いいえ?ここには浄化槽の知識しか書いてないわ」

「浄化槽…?それは御手洗の日記ではないのか?」

「んじゃあ、ここ見てよ。出だしのところ。ここの人でも読める字で書いてあるよ。日記なんて付ける性分じゃないってね」

「…なら私のしたことはなんだったんだ」

「ここにさっき言ったような事が書かれてて、それがバレると不味いって思っちゃってとんでもない事やらかして、んで捕まったって言うなんとも悲しい事件だったよ」

「そんな…。それではチュウ・セイ侯爵の軍団長復帰は」

「何言っとるんだお主は。私はもう引退する時期としては丁度いいと思って辞めただけだ。いつまでも老人が粘っていては若いもんに迷惑だからな。サン・セイもアル・キャリーも軍団長に相応しい実力は持っておる」

「では、私は」

「軍命もなく勝手に部隊を私的運用した挙げ句民間人にまで手を上げた。既にお前さんは軍人として最低限の資格すら捨てておる。大人しく裁きを受けろ」

「で、天川さん、あ、いやチュウ・セイ侯爵?この人はどうしましょう」

「ああ、こちらで引き受けよう。王都まで私の部隊が此奴の部隊全員も一緒に連れて行く。今日は本当に迷惑を掛けて申し訳なかった」

「いえいえ。こんな事とは言えお会いできて嬉しかったです。戦士の実力も目の当たりに出来ましたし」

「ああ、この歳でも案外動けるものだな。そうだ。一つ尋ねたいのだが」

「なんでしょう?」

「賢者と魔法使いが二人、それに腕の立つメイドもいる。その気になればこの国を盗る事だって出来るだろう。そんな君らがここで何をしてるんだね?」

「何をって、私達はただトイレが欲しいだけです。で、ここの庭に作ろうとしてるんです。色々あって大変でしたけど明日から建築開始です」

「トイレ!そうか!いや、随分と懐かしい言葉を聞いたな!」

「天川さんの世界にもありました?」

「ああ、あったとも。いやはや、無くて不便だとは思ったが作ろうとまでは思わなかったよ!」

「あ、やっぱり困りますよね?ないと」

「ああ、全く不便な人生だったよ!」


 そう言って天川さんは大声で笑って、そして将軍を連れて帰って行った。

 その後、彼の部隊の人が来て将軍の部下達を連れて行ったり市長さんとか団長さんとか隊長さんとか色んな人が代わる代わる来てバタバタして寝ることが出来たのは一時を過ぎていた。

「そうか、明日から小屋作りが始まるんだ」

 ベッドに横になって眠りに落ちる前ふとそんな事を思った。

 そうして慌ただしい一日が終わったのだった。


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