第30話 ウロボロス
「えっ⁉なに!何⁉何が起こったの⁉」
その大蛇はその巨躯に似合わない口調でしゃべり出した。
「なに、なになに!何がどうしてどうなった!」
大蛇の目を覚まさせたのはイーレとティレットの力がぶつかりあって生まれた天地を揺るがすような轟音だった。
「あのー!」
それでも負けじと声を張り上げて清治は呼びかける。
「へっ⁉なんぞ⁉」
声の主に気付いた大蛇はその電車のような太さを持つ頭の鼻先を清治に向ける。
「あのー、すみません!こんな事になっちゃって!」
「え?あ、うん。うん?」
側ではイーレとティレットがお互いの力をぶつけ合って戦っている。
「あのー!僕は川谷清治って言います!色々あってここに来たんですけど!」
「あ、そんなに声張り上げなくても聞こえてるから大丈夫」
「へ?そうです?」
「うん、そのくらいでも大丈夫」
大蛇はその凶悪な見た目に反してえらく物腰の柔らかい感じだった。
「ところでこの状況を教えてほしいんだけど」
「あー、そのですね。僕らここの街道が使えなくなって困ってるって聞いて来たんですけど」
「ふむ」
「そしたらあなたがいましてね。どうしようかって話になりまして」
「うん。あ、ここなんて世界?」
「ティレナイって言うらしいです」
「え、そんなとこに来ちゃってたの?ごめんごめん。すぐ出てくわ」
「へ?」
「むかーし、昔に色々あってさ。あんま寄り付かないようにしてたんだけど知り合いのヨルムンと世界間レースしてたらつい夢中になっちゃってさ、なんか疲れてここに来てたみたいね。あ、ちなみに俺の名前はウロボロスね」
「はあ。ヨルムンってヨルムンガンド?」
「そうそう、よく知ってるね」
「で、あなたがウロボロス?」
「そうそう。聞いたことある?」
「いや、なんか漫画とかゲームで聞いただけなんですけど」
「あ、ひょっとして異世界人?」
「そうですけど」
「やっぱり。ゲームとか漫画とかいいよね」
「はぁ」
「どした?」
「いや、なんか拍子抜けしてるんです」
私は二人のやり取りを呆気に取られて見ている。
「そう?あ、敬語やめて。くすぐったい。もっとフランクに行こうよ♪」
「あ、うん」
「そうそう」
「ところでなんで日本語通じてんの?」
「なんでって君らが僕らの真似してるだけじゃん?もう忘れちゃった?たかだか三千年くらいの話なのに」
「へ?」
「あ、待てよ。ひょっとして、ああ、うん。面倒くさいことあったもんね。君らんとこ」
フランクに話す大蛇。本気でわけが分からない。
「ま、いいや。で、なんで精霊使いとA(仮)の使い手が喧嘩してるの?」
「え?あ、ああ。実はあんたを見てどうするかって話してて、あっちの金髪の方がティレットって言うんだけどあんたを消し飛ばすって言ったんだ。で今そのティレットと戦ってる銀髪の方、イーレって言うんだけど、彼女が怒ってね。それで喧嘩を始めちゃったんだ」
「イーレたん!頑張れえええええ!A(仮)の使い手なんかに負けるなああああああ!」
ウロボロスと名乗った大蛇の言動は色んな意味で計り知れない。
「ひょっとして二人の使ってる力のことなんか知ってる?」
「うん。なんだかあの組み合わせは懐かしいねぇ。しっかしA(仮)使いはホント不遜なやつらだなぁ。前見たヤツもいけ好かないヤツだったよ。あの金髪の娘は可愛いし美人だからまだマシだよ、うん」
「あの、昔にもこんな事あったんですか?」
私はウロボロスの見た目と言動のギャップに戸惑いながらも声を掛けてみる。
「ん?君は…」
「あ、私エアリィって言います」
「可愛いね!イイ!」
「は?」
やっぱりこの蛇よく分かんない…。
「で、どした?」
「あの、その前の事なんですけ…」
私が言い終わる前にイーレが放ったのかティレットが放ったのか分からない火球がこちらに向かってきた。
「エアリィ様!」
とっさに洋子さんが庇ってくれる。
「ったく危ないなぁ。もう周り全然見えてないよ、あの二人」
その火球はウロボロスの胴体によって遮られた。
「全く俺が守らなければ即死だったよ」
「あ、ありがとう!」
「うへぇ、女の子のありがとうってたまらん♪」
私が礼を言うとウロボロスは妙な反応をする。
「あの二人止めてもらえないか?」
「そりゃ無理だわ」
「へ?」
「言っとくけどあれが直撃したら俺だって痛いんだからな!もう三百年くらいはぐぬぬってなる」
「三百年?」
「よく分からない?君らで言ったら指先の笹向けが半年間くらい治らないようなもんだ」
「軽いじゃん!」
「三百年だよ?しんどいよ」
強いのか弱いのかよく分からない。
「とにかくこのまま見守るしかないよ。もう少ししたら電池切れ起こして収まるから」
「ちなみにAの力であなたを倒す事は出来るの?」
「AじゃなくてA(仮)ね。出来るよ一応。あの娘の全力ならね。まぁ千年くらいかければ復活するけどね!」
人間には想像も付かない長い年月を生きているのは分かった。
「取り敢えず君らの事は俺がバリア張って守ってあげるから安心してくれていいよ」
「清治、今のうちに用件を」
私は清治に言うとすっかり忘れてたみたいだった
「そうだ。あのさっきの出て行ってくれるって話だけどさ」
「ああ、それは確かだよ。俺としてもこの世界で目立つことはしたくないんだ」
「助かるよ」
「でもなんでここが通れなくて困ってたんだ?」
「木材が高騰してるんだ」
「木材?ああ、戦場で使うもんな。人間のやることは本当に奇妙だよね。それで木材が高いと君らは何か困るの?」
「ああ、実はトイレを作ろうとしてるんだよ」
清治がそう言うとウロボロスは大声を上げて笑い始めた。
顔を洗い身なりを整え客間のドアをノックする。
彼について知ったのはポール将軍について調べている時だった。
正直に言って驚いた。
だが色々と腑に落ちるところもあったしこうして呼びつけてなお出向いてくれる理由も容易に納得出来るものだ。よくもここまで偶然が重なってくれたものだ。
少し緊張する。ひょっとしたら待たされて怒っているだろうか。こうして招いた事は失礼な事だったんじゃないか。
相手が相手だ。腰の抜けた市長とはわけが違う。そして私が頼むことは正しいのだろうか、相手の機嫌を損ねないかと不安になる。これが最後のピースなのだ。もしも駄目だったら計画は変更を余儀なくされる。そうなった時の事は全く頭にない。
「はい」
聞いてた印象よりもより温和そうに聞こえる声で返事が帰ってくる。その声に怒気はない。
私は意を決して客間のドアを開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます