第6話 内省


 私は一人暮らしだ。親から自立してもう数年になるか。身の丈に合わないこの豪奢な邸宅も、住めば都、案外悪くない居心地だと独りごちることはままあった。

 元来より内向的な人となりであることが所以してか、私に特別親しい人はいなかった。故に、幼い頃は自らの親の在り方に疑問を抱く由はなかった。それに気付いたのは、小学校三年生の遠足の時だった。如何に内向的であるとはいえ、幼心に心待ちにしていた私は、遠足への参加は当然のものと思っていたが、その時母が口にした言の葉、否、言の刃は、痛烈に幼い私の心を抉った。

『貴女、友達いないじゃない。行ったってどうせ独りぼっちなんだし、やめておきなさい』

 子供にとって親の発言は異様に圧がある。私はそれを身を以て知ると同時、反駁することによる意思表示ができず、苦汁を飲む破目となった。

 それから幾許かの時が流れ、私は半ば強引に両親からの自立を果たした。満足のいく生活は送れてはいないが、元来口下手なこの身の上、贅沢は言うまい。何よりそもそも(母の言葉を汲むのは癪だが)、私は比較的独りが好きなのかもしれなかった。

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