第5話 電子レンジの忠告、そして…
「火傷に注意して取り出してくださイ」
電子レンジは定型文を丁寧に添えると、仕事を終えたとばかりに黙り込んでしまった。
代わりに『ユア・セクレタリー』がマダム・ガミーヌに向かって報告をした。
「ミズ・コレリック様はただいま火星のヘラス平原のルート325号を高速移動中でス。目的地までの到着時間を予測…リダイアル予定時刻は2時間後に設定しましタ。」
ところで、『みはるくん』は数ある体調管理システムの中からミズ・コレリックが吟味を重ねて選んだだけあって高性能にしてとても有能だ。
マダム・ガミーヌの生活を取り仕切ろうと躍起になる『ユア・セクレタリー』を尻目にテキパキと自分の仕事を進めて行く。
先ほどの宣告ののち、きっちり90秒後、ついに行動を開始した。
「非常連絡ボタン作動。かかりつけ医への緊急連絡を行いましタ。救急隊員の到着までいましばらくお待ち下さイ」
ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ。
一方、床に横たわる家主の体の脇には、先ほどから円盤型の自動掃除機『パワフルジョーズ』がまとわりついてしていた。
その姿はまるで眠っている主人にじゃれつくペットのように愛らしく見えた。
しかし『パワフルジョーズ』は大真面目だ。
そして、程なく問題を解決するために早速すべきことを始めた。
「床に巨大な障害物があるようでス。
これより強制排除モードに切り替わりまス。安全のためしばらく部屋より退出してくださイ」
すると『パワフルジョーズ』の後部にある蓋がぱかっと開いた。
そこには、このパラフルジョーズの奥の手である巨大なアームが収納されているのだ。
ジョーズがアームを展開する。
巨大なカニバサミのようにも見えるアームの耐荷重は100kg。
マダム・ガミーヌの体重は若かりし頃よりだいぶ太っものの、最近は食生活に気を使って冷蔵庫に体重管理してもらった結果、理想的なBMI値である55キロ程度をキープしている。
そして皮肉なことにこの程度の体重ならば、ジョーズにとって、軽々と持ち上げることができてしまう…。
ジョーズの頑丈なアームにしっかりホールドされた体が持ち上げられるにつれて、意識のないマダム・ガミーヌの腕がだらりと下がる。
バングルをはめた右手の指先の爪に塗られたミントグリーンのマニュキュアがのどかな朝の光に反射してキラリと光った時、ラグジュアリーワンが突然、陽気な声でしゃべり始めた。
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