#03「密室の謎」

「あの日は私、一人でこの部屋に籠ってたわ。漫画の締め切り直前で、集中しなくちゃいけなくて――」


言って、漫画家・島津蛮は右手で頭を抱えた。左腕は無い。妖魔に奪われたからだ。


「随分と物々しいセキュリティですね。窓は分厚いし、マンションの入り口にもカードキーが必要でした」


「ここは私の仕事場――それも修羅場用だから。誰にも会えないように、外にも出られないように、窓もドアも鍵も厳重にロックしてるの」


正宗は部屋の様子をチェックした。窓は分厚く、ゴツイロックがついている。ドアには三重の鍵。それ以外に人が出入り出来そうな場所は無い。蟻の子一匹侵入出来そうに無い部屋だった。


――忍者でも、何かしらの術を使わなければ不可能でしょうね。


正宗がそう思えるほどに。この部屋は――


「密室、みたいですね」


「というか密室そのものよ。だからこそビックリしたわ――夜中に突然あの金髪女が現れたんですもの!」


「この部屋の中に、金髪の女が現れたんですか?」


「ええ。この密室に突然。そして私の左腕を奪っていった」


彼女が悔し気に、左腕があった場所を見る。


「私の漫画、最近ようやく人気が出てきたのよ。週刊連載は大変だけど、充実してた。それなのに……!」


ギリリ、と通すべき左腕の無い、空の袖を握りしめる。


「私は漫画が全てだった。左手ごと、私は漫画を奪われた。こんな理不尽、あります!?」


激情を叩きつけられ、正宗は何も言えなかった。

自分の全てを奪われる。そんな地獄のような経験を、軽々しく分かる、等とは言えない。

正宗はただ、じっと聞いていた。拳をギリリと握りながら。


「――ってごめんね。貴方に言っても仕方のない事なのに――ちょっと待ってもらえます? コーヒーでも煎れますわ」


少し落ち着いた様子の島津が、部屋の一画へと近づいた。


そこには、小さいながらもコンロと水場が用意されていた。簡易キッチンの様だった。


「部屋にキッチンがついているのですか」


「ええ。仕事中にコーヒーとか軽食を作るのにね」


言って、彼女はカップを用意し、インスタントの粉を片腕で四苦八苦しながら入れ始める。

正宗は手伝おうかとキッチンに近づき――ふと、あるもの・・・・が見えた。


――アレは――

――アレを使えば、もしかして――

――つまり妖魔は――


「すいません! ちょっと急用が出来たので、おいとさせていただきます!」


「あら? コーヒーももう少しで入るのですけど……」


「すいません、先を急ぐので――」


ドタバタと騒がし気に正宗は島津の仕事部屋から出ていった。

その様子を、彼女はポカンと見送るのだった。

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