#02「進まぬ調査」
――芳しくないですね
時刻は夜十時。シブヤ・センター街の裏路地にて。
正宗は一人、壊れかけの電灯の下で物思いにふけっていた。
任務を受けてから、被害者達に話を聞きに行ったのだが――
「昼に住宅街をジョギングしてたら、急に女が現れてさ。そいつが右腕をつかんできたと思ったら――俺の腕は消えていたんだよ」
「夜、飲み屋帰りに家の周りを散歩していたら、突然後ろから抱き着かれてね。背中じゃない、脚にさ。何だコイツ!と思ったら急に脚が消えちまったんだよ」
「務めている香水店からの帰り道に、女に会いました。彼女が突然私の顔に手を伸ばしてきて――それだけです。その時に鼻を盗られたんでしょうね。家に帰って鏡を見たらビックリしましたよ。自分の顔の中心に、あるべきモノが無くなっていたんですから」
「昼に美術館のトイレで手を洗っていたら、背後に急に女が現れてな。そいつがオレの右目に手を伸ばして――盗っていきおったわ。このオレの目を! あらゆる美術品の価値を見定める我が神眼を!」
人体の
彼女がいつの間にか被害者達に近づき――あっという間に人体の一部を奪っていく。
人間ではありえない所業。女は間違いなく、妖魔だろう。
妖魔の事件には、普通の人間には手が出せない。どうすることも出来ないのだ。
被害者達も警察に届けるなり訴えるなりしたのだが――なしのつぶてだったらしい。
「なぁ頼むよ。警察も当てにならないし、もう誰に頼っていいかも分からないんだ。アンタに何かできるなら――頼むから、俺の腕を取り戻して欲しい。腕が無きゃ、俺はボールを投げられないんだ……そんな俺は、死んでいるも同然だ」
野球選手は悲痛な表情を浮かべて、正宗に懇願してきた。正宗は何も言わなかったが、彼から差し出された手を、しっかりと握り返した。
――妖魔死すべし。慈悲は無い。
ブゥーン、ブゥーン。
不意に、正宗の胸元からバイブ音がなる。携帯に着信だ。
開いた画面には「いの十五」。忍者同士の秘密連絡経路からの通信だ。
「――正宗」
『あやとりです。被害者からは何か分かりましたか?』
「妖魔が金髪の女姿をしているってことぐらいです。どうやって被害者に近づいたのか、どうやって被害者を選んでいるのか――皆目見当もつきません。あと一人、インタビューの相手は残っていますが――期待は出来ないですね」
『こちらは被害者の共通点を洗っている所です。後は事件の間隔ですかね。最初の被害者の野球選手、その次のマラソン選手、香水ソムリエ、美術鑑定士――彼らは木曜日の夜に襲われています』
「今日は水曜日です。ということは」
『このままでは明日にも新たな犠牲者が生まれるかもしれません』
「…………」
『…………』
重い沈黙。それを断ち切る様に、正宗が声を上げる。
「――次の犠牲者は出しません。自分は最後の犠牲者の所にインタビューに行きます」
『お願いします。私も、もう少し被害者達の情報を洗ってみます。何か、見落としている気がするので。次の連絡方法はろの三十で』
「了解」
ブツリと携帯が切れる。携帯を胸元に戻した正宗は、鋭い目で夜空を見上げた。
この空のどこかの下に、妖魔がいる。
――必ず、滅する。
胸中で呟き、正宗は歩き出した。
次の目的地はとある住宅街のマンションの一室。漫画家さんの仕事場だった。
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