ボクんちのネコ

櫛木 亮

女帝暴君とおっとり系お人好し

 ボクんちにはネコがふたりいる。

 なぜ、二匹ではなく、ふたりなのか?

 ひとまずはそれは、置いておこう。

 のちに、解ります。たぶん。


 五年前の四月も終わりに差しかかった新緑がとても気持ちがいい午後。一本の電話がその日が休みだった僕にかかってくる。僕は眠い目をこすりながら、その電話に出た。


「もしもし?」

「おお! 出た出た! 亮って、猫に詳しいか?」

「ああ〜 うん、たぶん。 実家に居た時に数匹飼ってたよ?」

「なら話は早いな! 子猫の育てかたを教えてくれ!」


「子猫おお? なになに? 猫を飼うの?」

 子猫と聞いた途端に、僕は重かった頭と眠気が一気にぶっ飛んでしまった。


「うちの納屋で野良が産んだんだよ」

「ありゃりゃ〜 それはそれは。 で?」

「それを二匹保護した」


 友人のその言い方で、少しだが胸騒ぎがした。



「……保護ねえ〜 親猫はどうしたの?」

「追い払ってやった!」

「……はあ?」

「いや、飼い犬のエサを毎度泥棒しに来る嫌な猫でさ〜」


 その時点で僕は些か、口には出さないが不機嫌になっていた。


「それで保護したんだ?」

「そうなんだよ〜 写真送るからオスかメスか見てくれっか?」

「ああ〜、うん。いいよ」

 

 しばらくすると、携帯電話に数枚の写真が送られてきた。僕はその写真を見て、呆気にとられた。まだ目が開いて数日の片手に乗るほどの小さな子猫。しかも二匹だった。茶色のトラとキジトラが一匹づつ。写真を見るには茶トラがオスで、キジトラがメスだろうと僕は認識するが、若干のブレがあったので正確には答えることが出来ず、自信はなかったが、そのままを伝えた。


「何食わせたらいい? 何をどうしたらいい?」

「食わせるって……そんだけチビちゃんだとまだ食えんし、ミルクだし。まだ目に膜が張ってるから目もまだ見えてねえよ、たぶん」

「で、どうすりゃいいのよ!」

「牛乳は与えないでよ? 子猫専用のミルクがあるからね!」

「ああ〜 ふーん。猫ミルクね?」

 友人のものの言い方は昔から悪い。口調もだが、デリカシーもないのです。


「僕が分かる範囲なら教えれるけど、メモとってくれる?」

「LINEかメールしてよ!」

「ああ〜うん。とにかく待ってて」

 僕は言われたまま必要な物のリストと、僕が分かることを書いて送る。

 すぐに電話が鳴り、買い揃えに行くと言いながら電話を切らずに友人はベラベラと大声で話す。


「ペットボトルにお湯を入れて、タオルで包んで猫がヤケドしないようにダンボール箱に入れてあげて。寒さはそれでしのげるよ! あと自分で排泄できないから濡れたタオルでおしりを刺激してあげて、もちろん優しくだよ? 目ヤニが出てるなら同じく濡れたタオルで拭いて! もちろんそれも優しくだからね!」



 ここで説明させていただきます。

 僕が友人になぜ、病院に行けと言わないのかです。世は連休です。しかも友人は田舎に住んでいて、近くの動物病院は全て空いていないと言い切ったのだ。こいつは僕の意見を曲げます。何を言っても聞き流します。正直に言うとそこは昔から、いけすかないところだったのです。


「とにかくわかった! 連休明けまでなんとか頑張ってみるわ〜」


 「連休明けまで」このセリフに嫌な予感を抱きながら、僕は電話を切った。


 毎日のように何通ものLINEが送られてくる。おまえは僕の彼女か? おかんか? というくらいに送られてくる。不安なのかもと、僕は何も言わないで、何度も返答をした。


 途中で「二匹を大事に飼ってくれるならこれでもいいか」くらいに僕は思っていた。


 が、甘かった。


 自体は急変する。


「ネコの子育てめちゃくちゃ大変」とLINEが飛んできた。

 そりゃそうだろうよ。簡単で手軽な命のやり取りなんてあるか! と僕は何気なく友人に電話をかけてみた。


「連休中で役所がやってないんだよね〜」


「は?」


「やっぱり、うちには犬が居るから無理だわ〜 連休明けに保健所にもっていこうと思って〜」

 その言い方に、さすがの僕も動きが止まった。


「ごめん……ちょっと電話一回切るね?」

 僕はすぐに一緒に住んでいるツレに電話をかけた。何度目かのコールで、出ないので電話を切る。やっぱり仕事中か……と思いメッセージを送る。

「ねえ……ねこ欲しい? これに気がついたら至急連絡くれたし!」そう僕はツレに送った。


 夕方にツレからメッセージが飛んできた。

「猫ちゃんほしい!」

「めちゃくちゃ小さな子猫なんだが……」と子猫の写真を数枚添えて返事をする。

 すると、すぐに電話がかかってきた。


「亮ちゃん! 五日って休みじゃなかった?」

「ああ〜、休みだったかな……ああ〜 休み休み!」

「だったら! 朝から引き取りに行こう!」

「いいの?」

「良いもなにも、こんなに頑張って生きてるのに! 処分とか無理だよ〜」

「……うん。ありがとう、ありがとう……」

「……亮ちゃん、泣いてない?」

「……知らん……聞くなや」

「んふふふふ〜とにかく車で朝から行こうね?」

「わかった! そう伝えるよ」


 ツレは、あっけらかんとした性格だ。良い奴で、お人好しで、僕よりも泣き虫だ。まあ、それはいい。今は猫のエッセイだ。



 五月五日は子供の日。

 川崎某所から茨城県某所までの車でのお迎えが始まる。意外と長い道のりに、腰とケツが痛くなるくらいだ。

 僕らは、みかん箱に入れられた子猫をもらい受け、家路に急ぐ。


 帰りの車の中でナマエは何にしよう? となった。その頃、モンスターハンターにハマっていたツレは「アイルーとメラルーは?」と言い出した。


 安直……


「いや、それはなくないか?」

「じゃー……カツオとワカメ」


 サザエさんか……


「適当か……」

「んん〜……ウサギとトラ」


 TIGER & BUNNY……そういや、ツレ好きだったね?


「猫にウサギってネーミングセンスは如何なものかな……」

「やっぱりダメ?」

「うん。それはない……」


「じゃー亮ちゃんが決めてよ!」


 ああ〜始まった……こうなるとややこしいんだよね、うちは。


 どうしたもんか。呼びやすくて、愛嬌のあるナマエ……男の子と女の子。女の子の方が活発でちょっぴり強気。男の子の方がおっとり系……


「ムサシとコジロウは?」

 いや、自分、人のこと言えない……安直……


「……亮ちゃん、それってロケット団?」

 ツレが冷たいような、呆れた声になる。やっぱりダメか〜っ、となった矢先にツレが大声を車内で出した。そして、赤で止まった瞬間に僕の顔を見た。


「なんだかとってもいい感じ〜」

「ええ?」

「強い感じしない?」

「……いや、むしろ弱いかと」

「ちがうちがう! 何にもへこたれないの! 強いよ? そのナマエ強いよ!」


 そんなこんなでふたりは晴れて「ムサシとコジロウ」になった。




 余談ですが、友人とはそれっきりです。


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ボクんちのネコ 櫛木 亮 @kushi-koma

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