結成編34話 蒼炎の刃と黄金の刃



速く鋭い刃を受けて跳ね上げ、反撃する。マリカさんはオレがシグレさんの弟子であるコトを知っている。この連撃はカウンター封じ、ならばマリカさんから習った技で反撃するまでだ!


蹴り足が交錯し、互いの蹴りで後退る。オレは空いてる左腕をくの字に曲げ、左右に軽くスイング。対するマリカさんは蝶のように舞い、ステップを踏む。


「コピー狼の本領発揮か。パイソンからも技をパクったのかい?」


「パクったとは人聞きの悪い。リスペクトを込めたオマージュですよ。」


繰り出した念真ジャブはことごとく躱される。オレはパイソンさんみたいに長くてしなる腕を持ってないからな。これが限界か。だったらこれはどうかな? オレは左右に腕を振るモーションと見せかけて、ベルトに挟んだナイフを投擲した。


残像が見えるような速さでナイフをかいくぐったマリカさんは、最速の足+爆縮で一気に距離を潰してきた。


「バイパーのナイフ技まで使うとはね!だがアタイに勝てない兵士の技で、アタイに勝てる訳ないだろう!」


ごもっとも!でも"次は何やらかすんだ、コイツ!"とは思ったでしょ?


一流同士の戦いは心理戦だ。虚像であろうと自分を大きく見せた側が主導権を握る!


迫る刃に刃を合わせ……ここだ!足でこうやるんなら、腕ならこうだろ!


「腕の爆縮!? 一度見ただけでパクりやがったか!」


「足の爆縮は猛特訓しましたから。足で出来たんだから腕でだって出来るでしょ?」


マリカさんを腕力かいなぢからで押し返し、追撃するものの、やはり世界最速の足の前に刃は空を切る。


「そういやカナタは鉄拳バクスウの捻転交差法を一度喰らっただけで覚えたんだっけな。」


「攻防一体の便利な技ですよね。腕に穴を開けられた甲斐はありましたよ。」


「……なるほど。部隊長連中が"学習する怪物"なんて言い出す訳だ。それじゃあパクれない技で勝負しようか!」


緋眼の輝きが増し、一瞬、意識が朦朧とする。狼眼に開眼したての頃に邪眼の能力比べで敗北を喫したが、あの頃とは違う!八熾の魂、二対の勾玉が顕現したこの天狼眼が邪眼勝負で負けるものか!


黄金の瞳に全精力を傾注し、真紅の邪眼と睨み合う。緋色の邪眼は歴代の里長が継承してきた火隠の誇り、だがオレの天狼眼も八熾宗家に脈々と受け継がれてきた狼の象徴だ!


瞳を輝かせながら睨み合うコト暫し、互いの額から流れた汗が顎を伝って地面に落ちた。邪眼の勝負は五分と五分、ならば先に動くか? いや、マリカさんの気性なら……


やはり先に動いてきたか!顔面目がけて投げつけられた苦無クナイを、刀で弾く。一瞬ではあるが刃で塞がれた視界、でもマリカさんにとっては一瞬で十分だった。


赤い稲妻の繰り出したダッシュキックが、ガードの左腕をかいくぐって胸板にヒットし、オレはよろめいた。だが追撃はこない。相打ち覚悟で繰り出したオレの斬撃がマリカさんの左腕を捉えていたからだ。


「左腕には念真重力壁を纏わせといたんだけどねえ。なるほど、苦無を弾いて視界が塞がれたんじゃない、刃に力を込める為の動きだったってのかい。油断も隙もない小僧、いや、男になったな。」


ご名答。でも一瞬のチャージでは念真重力壁を抜くのが手一杯で、さほどの有効打にはならなかったな。神速の蹴撃と念真重力壁の形成を同時にやってのけるとは、さすがだぜ。いや、マリカさんが十分な練気を行えば、チャージが不十分な狼眼刃で重力壁を抜くのは無理だっただろう。そこんとこはお互い様、か。


バックステップして距離を取ったマリカさんは左手で印を結び、炎術で攻撃してくる。飛んでくる炎の矢群は強度も速度も精度も最高だぜ、炎術が伸び悩んでるトシゾーにレクチャーを頼もうかな。


躱せる矢は躱し、躱し切れない矢は念真重力壁を張って防御っと。オレの対抗手段は、狼眼、もしくは銃で反撃するか、距離を潰して接近戦に持ち込むかの二択だが……この距離なら狼眼を使っても、緋眼で相殺されるだろう。狼眼弾の銃撃はどうだ?……それも難しいな、マリカさんなら弾に力をチャージする隙を見逃さない。やはり炎術使いの最高峰を相手に、中距離戦は分が悪いか。


距離を潰して接近戦に持ち込む!爆縮で最短距離をダッシュしてから脇差しを抜いての双牙双撃、意識を上に振っての平蜘蛛、と。足を払う刃を跳んで躱したところに、飛翔鷹爪撃で追撃……なにぃ!


跳ぶところまでは読めていた。だが、跳躍の速さと高さが尋常じゃない。オレより高く跳んだマリカさんは、空中で念真皿を形成、皿を蹴った反動で猛禽のように反撃に転じてくる。最高高度から飛来した最高速度の連撃は、サイコキネシスを使った腕封じと念真重力壁&両手の刀をクロスさせた十字守鶴で凌ぎ切る。


「炎を纏った神速の連撃、今の技は火隠忍術の奥義ですね?」


「そうだ。火隠忍術奥義、龍滅連舞剣。だが、よくぞ凌ぎ切ったな。十字守鶴は鉄壁の守りを発揮する剣拳両用技、って事か。」


炎を纏った刃を構えたマリカさんに対抗するべく、オレも刃に殺戮の力を込める。オレも奥義である狼滅夢幻刃をお見舞いしたいが、無駄だな。最高速度と最高高度のタイトルホルダーであるマリカさんなら、技と技の継ぎ目を狙って距離を取るのは難しくない。となれば……死神戦法しかない。


「マリカさん、覚悟してもらいますよ!」


「覚悟なんざとっくに出来てンよ!きな!」


死神戦法は諸刃の剣だ。だが、タフさが上なら実に合理的で有効な戦法でもある!問題は……マリカさんもタフだってコトだがな!


「こっ、これは!」


半ば捨て身で、相打ち狙いの消耗戦に持ち込んだオレの決断にはマリカさんも驚いたようだった。"どんな達人名人であろうと攻撃する時には足が止まる"これは戦技の真理だ。いかに最強兵士のマリカさんといえど、こればっかりは例外じゃない。オレには死神みたいに全身をくまなく纏う多重念真重力壁なんてイカれた芸当もなけりゃ、体全部が装甲化されたような馬鹿げたタフネスもない。


……だが死神と違って、オレには鍛えに鍛えた剣技と体術がある。喰らうとわかってるんなら、致命傷を回避する技を身に付けてるんだ。それに技術のない死神とは違って、オレは相打ちを狙うべき技、そうでない技の判別も出来る。ハイリスクではあるが、実行可能な戦法のはずだ!


二度ほど攻撃を交換しただけで、マリカさんは大きく距離を取って息を整えた。最強兵士も相打ちはお嫌いらしい。だよな、足を殺し合えばアドバンテージが消える。足を殺される前にオレを殺すか、それとも……さらなる奥義を見せてくるか……


コオォォォと大きく息を吐いたマリカさんは握る刃の火勢を強める。


「……カナタ、火隠忍術の秘中の秘を見せてやろう。炎ってのはな、実は赤くないって知ってるかい?」


「知ってます。炎が赤いのは不完全燃焼を起こしてるからで、青が本来の色なんですよね?」


完全燃焼してるガスコンロの炎は青だもんな。


「ああ。火隠の忍者は炎術を得意とする。その極みを見せてやろう。」


訓練刀の刀身が青く染まりつつある。最終奥義には最終奥義を以て応える……オレの心に棲まう狼よ。咆哮を上げろ!


「火隠忍術奥義の極みか……面白い。極限の奥義には、極限の奥義を以て応えるまで!」


夢幻刃・終焉は瞳に輝く二対の勾玉を組み合わせ、一つの至玉と為すコトで力を倍加させた殺戮技の極み。威力において、我が終焉を超える技など……ない!


対峙しながら力を溜める兵士二人。蒼き炎を纏う刃と黄金に輝く刃を携え、雌雄を決する時は来たれり!


「火隠忍術極限奥義、蒼炎刃・極!!」


「夢幻一刀流最終奥義、夢幻刃・終焉!!」


蒼炎の刃と黄金の刃は激突し、眩い光と共に双方の刃が粉々に砕け散った。互いに折れた刃を投げ捨て、徒手の構えを取った時に……マリカさんの腕時計のアラームが鳴り響いた。


「……引き分けだな、カナタ。」


「……ですね。ありがとうございました!」


構えを解いて一礼するオレの頭を掴んで、クシャクシャにかき回すマリカさん。最強兵士を相手に負けずに済んだ。上出来としておくべきだろう。時間制限がなければとか、愛刀を使った勝負だったらとか、思うところは色々あるが……意味はないか。結果が全てが兵士の世界だ。




でもオレは……結果よりも過程を大事に生きたい。マリカさんと出逢って、ここまで強くなれた。この過程こそがオレの宝物だ。


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