結成編28話 失敗は忘れ、原因は忘れるな



「はじめまして、空蝉修理ノ助君に灯火蛍君。私は権藤杉男、カナタのパートナーだ。教授と呼んでくれると有り難い。どうぞよろしく。」


教授に挨拶された忍者夫妻は、口をあんぐり開けたまま絶句した。


「二人にはカナタが世話になっているようだ。……驚かせてしまったかな?」


驚くに決まってるだろ。これで驚かないなら、ソイツは心が死んでるよ。


「教授、ドッペルゲンガーを見れば誰だって驚くさ。それとオレがこの夫妻の世話になってるのは確かだけど、なんで保護者でもない教授がお礼を言うんだよ。それは余計なお世話ですぅ。」


「保護者ではないが、年長の協力者ではある。何かある度に二人に調査を依頼しているのは誰だ? 私は事実を指摘し、謝意を示しただけだ。何か問題があるのかね?」


「ありますぅ~。教授はオレのお父さんですかぁ?」


……いかん、これじゃタコ焼き女サクヤの言い草だぞ。オレはクールな二枚目キャラのはずだ。


「フフッ。カナタ、秋芳寺中尉の駄洒落癖だけでなく、此花少尉の神難弁も移ったようだな。」


嬉しそうに笑うなよ。ジョニーさんとサクヤのせいで、オレの築き上げてきた二枚目キャラが崩壊しそうなんだぞ。……やめよう。むなしくなってきた。体が変わって顔こそイケメンっぽくはなったが、所詮オレは三枚目なんだ。


「……シュ、シュリ、カナタが二人いるんだけど……」


「……だいたいの事情はわかったよ。カナタ、地球から来たのはカナタだけじゃなかったんだね?」


オレが頷くと友は憤慨しながら、ため息をついた。


「はぁ……まったく!まだ僕に隠し事をしてたんだな!」


「仕方ないだろ。教授に黙って事情を話す訳にはいかない。」


「それはそうかもしれないけど、納得いかないぞ!僕とカナタは…」


怒れる友に詰め寄られ、オレは椅子ごと後退る。


「なにがなんだかわからないけど、一つだけわかったわ。シュリは私に隠し事をしてたのよね!!」


これで形勢逆転だな。ほれほれ、オレに怒る前に恋人の怒りを鎮めたまえよ。


「う、うん。でもこれには事情があって…」


頑張れよ~。友として声には出せないが応援してるぜ~。


「それにカナタもよ!!二人で私に隠し事をしてた!間違いないわね?」


お鉢がオレにも回ってきたか。そりゃそうだわな。


「ホタルさん、お説教は後にしてオレの話を聞いてくれないかな?」


「いいでしょう!聞かせてもらいます!全部、ね!」


机を叩かないで。怖いじゃないか。


「え~と、どこから話したものかなぁ……」


「どこから話してもいいけど、洗いざらい話しなさいよ? さあ、どういう事なの!何を隠してたの!」


「かいつまんで言えば…」


「洗いざらいって言葉の意味はご存知? 今日は休日だから時間はたっぷりあるわ!事情説明の後は反省会だからね!」


説明会だけにしといてよ。反省会は勘弁だ。


────────────────


オレはオレの物語をホタルに話した。この星に来てからのコトは教授が補足説明もしてくれた。教授の補足説明は、オレの疑念も氷解させてくれた。爺ちゃんの親友、物部守矢も不思議な力を持っていて、夢の中で研究所にいたオレを幻視していたらしい。教授は物部の爺ちゃんから研究所のコトやオレの置かれた状況を聞き、準備をしてからこの世界へやって来たのだ。オレの置かれた状況や、基地の自爆装置の存在を知っていたのは、そういう訳だったか。


話を聞くホタルの目には涙が浮かび、話が終わる頃には涙が零れ始めた。見てるこっちが悲しくなるぐらいに悲痛な表情を浮かべたホタルは、オレを真っ直ぐに見据えて手を握り、口を開く。


「……ごめんなさい。平和な日本からいきなり戦乱の星に飛ばされて、辛い思いをしてるカナタに、私がとんだ言いがかりをつけて冷たくあたって……本当にごめんなさい!」


「いいんだ。それにオレは辛い思いなんかしていない。いや、戦場は過酷で辛いコトもあったけど、この星に来て良かった。シュリやホタルにマリカさん、それにリリスにナツメにシオン、ミコト様に……言いだしたらキリがないな。とにかくオレはみんなに出逢えた。地球では孤独だったけど、この星で家族や友達、仲間が出来たんだ。もし、地球に帰れる方法が見つかってもオレは帰らない。」


「でもカナタ、日本は戦乱なんて記憶の彼方にしかない国だったんだろ? 平和な故郷が恋しくないのかい?」


「そうよ。それにカナタの両親だって地球にいるんでしょう?」


「オレを捨てたお袋や見放した親父なんかに未練があるかよ!!……けどな、嫌いな親父だったが、いいコトも言ってた。その一つが"現実が気に入らないからといっても嘆くな、気に入らない現実があるのなら、自分の手で変えてみせろ"だ。上等だ、やってやろうじゃねえか。至る所でドンパチやってて生き辛え? だったら力ずくでも止めるまでだ!」


「やろう、僕達の手で戦争を終わらせるんだ。」 「ええ、私達ならきっと出来る!」


「うむ。私もカナタの言う"場合によっては力ずく"を、影からサポートさせてもらおう。事情説明は終わったし、作戦会議に移行しようか。小さな事からコツコツと、という訳ではないが、ファーストミッションは犯罪組織が相手だ。アンチェロッティファミリーというマフィアが存在する。彼らは……」


教授は机の上にホログラムビジョンを表示し、公共の敵パブリック・エネミーについて説明を始めた。


────────────────


教授から作戦の概要を聞かされたホタルは近未来の良人に提案した。


「シュリ、また探偵旅行をしましょう。」


「そうだね。アンチェロッティファミリーの情報は僕らで集める。作戦はカナタと教授で立ててくれ。」


「わかった。アンチェロッティのとるであろう行動を予想しておこう。消去屋ロッシが消された以上、ドン・アンチェロッティは後釜探しに奔走するだろう。教授の話じゃドンの息子アンジェロが抗争を指揮したがっているようだが、アンジェロはリーダーの器じゃない。ロッシの別荘で見つけたレポートによると「アンジェロ・アンチェロッティは粗暴で短気、言動行動も直情径行が目立ち、指揮官の適性は著しく低い」とあった。ドンからの依頼で息子の軍事教育を任されたロッシの評価が当たっているなら、必ず後任を探すはずだ。」


「雇われの身分でずいぶん言いたい放題だね。ドンの不興を買わないのかな?」


「シュリ君、ロッシは遠慮なくドンに直言出来る立場だった。そしてロッシの忠告が的を射ているからこそ、ドンはロッシを賓客として遇していたのだ。」


教授の言う通り、ロッシは一流の軍人ではあった。残念ながら超一流にはなれなかっただけだ。だがド素人のギャング達にとっては神に等しい。アンジェロへの評価は妥当なものだろう。


「教授、ドンからの依頼を受けそうな軍人崩れのリストは用意出来るか?」


「軍事顧問の候補になりそうな人間のリストは既に用意してある。元軍人、というフィルターを通せばさらに絞り込めそうだが……間違いないのか?」


「ドンは武闘派気取りの犯罪者チンピラと、本物の軍人の違いを知っている。必ず元軍人を雇おうとするだろう。人間は成功体験を忘れる事は出来ない。個人的な見解を言わせてもらえば、覚えておくべきは失敗した経験で、成功体験こそ早く忘れるべきなんだがな。少し違うか、"失敗そのものは早く忘れてしまえ、じゃが失敗した原因だけは忘れるでない"って爺ちゃんは言ってたよ。」


「さすが八熾家当主の羚厳様、お言葉に含蓄があるわね。」


よかったな、爺ちゃん。ホタルさんからお褒めの言葉に預かったぞ。


「カナタの頭に納豆菌を仕込んだのは羚厳様だったんだね。知恵者に育つ訳だよ。」


「……カナタの知恵の全部が全部、八熾羚厳の薫陶によるものとは限らんと思うが……」


シュリとホタルの視線を受けた教授は咳払いをした。


「ゴホン。カナタは師事した火隠大尉や壬生大尉の影響だって受けているだろう。もちろんキミ達の影響だってある。カナタは周囲の人間みんなに育てられて、剣狼になったのだよ。」


「僕とホタルが? う~ん、あまり僕達がカナタに影響を与えてるとは思えないんだけど……」


「ンなコトねえ。二人から学んだコトだっていっぱいあるさ。」


「そう思うなら軍服のボタンはちゃんと留めて頂戴。部隊長なのにだらしないわよ?」


「イヤですぅ。だらしないのが好きなんですぅ~。」


だいたい部隊長でちゃんとした着こなしをしてんの、シグレさんと大師匠ぐらいだぞ。オレは多数派に与しただけだ。


「……子供か。話を戻そう。シュリ君、ホタル君、来月の13日に作戦を開始する。なのでアンジェロの13日の所在地を優先して掴んで欲しい。」


「教授、子供のオレにはわからないんだが、その日に何かあるのか?」


「そうむくれるな。来月の13日は金曜日、相棒が家族を奪われたのは13年前、……13日の金曜日だった。」


「わかった。今作戦を「13日の金曜日」と呼称する。オレ達は序盤だけの参加で、その後は教授が作戦を遂行してくれ。公共の敵でオレ達の敵には、世界から退場してもらおう。」


マフィア同士で共食いさせて、な。巨大犯罪組織が二つ消えれば、汚れきった世界が少しは綺麗になるだろう。


「了解。謀殺は気が進まないけど、やむを得ないわね。」


「市民に理不尽を強いてきた連中が、理不尽を強いられる側になるだけだ。無関係の人間を巻き込まない為にも、僕達の働きが重要だね。」


夫妻の言葉を聞いた教授はテーブルの上で手を組み、答えた。


「抗争に市民を巻き込まないよう全力を尽くす。もし市民に犠牲が出てもそれは私の責任で、キミ達に責任はない。作戦開始だ!」


教授が号令をかけ、全員が席を立つ。




ドン・アンチェロッティ、棺桶の準備をしておけよ? モリアーティ教授より始末に悪い権藤教授に的をかけられた時点で、おまえはもうお終いなんだからな。


※作者より 明日の更新は今回の話の光平視点バージョンです。違いを楽しめるかと思うのでお遊びしてみますね。



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