結成編11話 龍の鼓動
「見ときぃ!これが此花家秘伝、スーパーグレートマーベラス超絶奥義!タコ焼き二刀流や!」
両手に千枚通しを持ったサクヤはバババババッとタコ焼きをひっくり返していく。相変わらずの見事な手業だな。ガーデンではアホのコ扱いされているサクヤだが、タコ焼きパーティーには引っ張り
「サクヤちゃん、また腕を上げたみたいやね。」
華麗な手捌きでタコ焼きの乗った船にカツオブシを振りかけていくサクヤ似の女性は、サクヤのお姉さんかな?
「当たり前やん!神難を離れても腕を錆び付かせたりせえへんで!エッチ君、ええとこきたな!焼き立てのタコ焼き、食べていき。レンゲ姉ちゃん、エッチ君にタコ焼き出したって!」
お姉さんはレンゲさんっていうのか。たぶん、姉達は花にちなんだ名前をつけてもらってるんだろう。
「はい、どうぞ。エッチさん、サクヤがお世話になってます。」
サクヤに年齢と落ち着きをトッピングしたっぽいお姉さんに船を手渡されたので、有り難く受け取る。でも、エッチさん、ってのは勘弁願いたい。
「天掛カナタ少尉です。あなたは此花レンゲさん、ですか?」
「ええ。サクヤちゃんの姉で6人兄弟の5番目なんよ。」
一番歳の近い姉さんか。口調はおっとりしてるけど、手の動きはサクヤに負けず劣らず早い。粉ものエリートの看板は伊達じゃなさそうだ。
香ばしいソースの匂いが誘蛾灯となり、
「レンゲ姉ちゃん、シオンさんとウォッカが来たで!こっからは戦争や!」
「はいはい。援軍も到着したよって、気張っていかんとあきませんね。」
援軍?……人混みをかき分けながらもう1台軽トラがやってきたな。
「アンタ!もう場があったまっとるみたいやで!」
軽トラの運転席からシュタッと飛び降りた、綺麗だけど気っ風のいいオバチャンが、助手席に座ったタコみたいな親父、略してタコ親父を手招きする。
「おう!レンゲはオカンを手伝え!ワイがタコ焼き焼いたるさかい!」
……サクヤママとサクヤパパまで参上かよ。
「なんや、オトンまで来てたんかい。」
会えて嬉しい癖に憎まれ口を叩くサクヤ。ホント、意地っぱりというか、素直じゃねえんだよなぁ。
「来るに決まっとるやろ!相変わらず頭と口の悪い娘やで。ホンマ、アホはいつまで経ってもアホなんやなぁ。」
「アホは余計や!ええから引っ込んどき!ここはウチ一人で十分やさかい!」
「ンな訳あるかい!おまえがワシに講釈垂れるなんて100万光年早いんじゃ、ダボが!」
スキンヘッドにタコさん柄のバンダナを巻き、ほっぺを叩いて気合いを入れるタコ親父。だがレンゲさんが冷静に突っ込む。
「お父ちゃん、光年は距離の単位で時間の単位やないんよ?」
……光年ギャグはもう封印しよう。サクヤやサクヤパパと同じレベルだと思われたくない。
「レンゲ、タコとアホに構うとらんと、お母ちゃんを手伝い。タコ焼きみたいなジャンクフードが此花の売りや思われたらあかんよって。」
「なにがジャンクフードなんじゃい!ええか、タコ焼きは丸い!丸は人生円満、家庭円満の象徴やろ!お好み焼きみたいな薄べったいモンと一緒にすんな!薄べったいのはおまえのおっぱいだけで十分やっちゅーねん!」
タコ親父は顔を真っ赤、口を丸くすぼめて怒鳴りつけた。ここまでタコっぽいなら、文句じゃなくてスミを吐いて欲しかったな。
「その薄べったいおっぱいをありがたがってんのはアンタやろ!子供6人も産ませたん誰や!」
「ワイでっけど文句ありまっか? みんなええ子に育ったんやからええやないけ!……末っ子だけはアホやったけどな。」
「……出し殻やさかい、しゃあないわ。バカな子ほど可愛いいうし、よしとしといてんか。アホもバカも似たようなモンやろ?」
おい、何気にヒドい言い草じゃねえか?
「オトン、お母ちゃん!誰が出し殻やねん、誰が!」
「おまえや、おまえ。」 「出し殻娘のアンタや。」
「なんや、やっぱりウチの事かぁ……ってちゃうわ!それが可愛い娘に言う台詞かい!」
「大丈夫やで、運動神経はサクヤちゃんが一番ええんやから。その分、頭に回らんかっただけやんねえ。」
レンゲさんが慰めを装った追い打ちをかけた。一家揃って容赦がないな。
「うん!ウチ、運動神経には自信があんねん!……待たんかい!おまえらとはやっとられんわ!」
千枚通しを放り投げて地面に大の字になるサクヤ。ボケとツッコミからのキリキリバターン、台本でも書いてたみたいにオチが着いたか。
……しかしおもろい家族やな、ホンマ。
─────────────────
長男がリグリットから送ってくれたというぼっかけをツマミに酒を飲みながら、レンゲさんにもらったチラシを眺めてみる。
「本場神難の味、此花ロックタウン支店がオープン!」ねえ。商魂逞しい一家は店の宣伝も兼ねて駆け付けてくれたってコトらしい。昼はランチ営業のみで、夜は居酒屋ってスタイルは街の特性に合わせてるんだな。待機部隊が多い時はガーデンの歓楽区にも出張してくるってんだから気合いが入ってるぜ。
フムフム、ランチのタコ焼きとお好み焼きも多種多様で美味しそうだが、夜の居酒屋メニューもなかなか魅力的だな。このぼっかけ単品もメニューに入ってるし、トンペイ焼きにソーセージ盛り合わせもあんのか。それにチーズ焼きやサラダ類もバラエティーに富んでる。これは事前に入念なリサーチを行っていたに違いない。おそらくアホのコから得た情報を元に、出店計画を練り上げていたんだろう。ガーデンの他の店には置いてない銘柄の酒がメニューにあるのがその証拠だ。
「カナタさん、楽しんでいるみたいですね。」
「ようこそ、ミコト様。……ぼっかけ食べます?」
「ぼっかけ、ですか? 食べた事はありませんが、美味しそうですね。」
まあ、ぼっかけがミコト様の食卓に上ったコトはないだろうな。下町料理っちゃ下町料理なんだし。
「牛すじ肉とコンニャクを出汁で甘辛く煮込んだ料理です。単品でも美味しいですが、焼きそばやうどん、カレーなんかに入れても美味しいんですよ。主役も張れるが脇役にもなれる、いいプレーヤーですね。」
「ふふっ、まるでカナタさんみたいですね。あら、美味しい!」
お気に召したようでなにより。オレは足を崩して座ったミコト様と、仲良く並んでぼっかけを食べてみる。
「あまがけカナタからぼっかけカナタに改名しようかな?」
改名と言えばもうじき錦城少佐がガーデンにやって来るらしい。すぐにでもリンドウ准将の墓参りに来たかっただろうに、照京の陥落で神難は最前線になってしまった。神難軍幹部である錦城少佐は動くに動けなかったのだろう。友の死を悼むコトさえままならないとは、軍人ってのは因果な商売だぜ。
「それはダメです。すじ肉とコンニャクを弟に持った覚えはありません。……!!……」
ミコト様の視線が虚空に放たれる。視点の定まった先には、丘陵の崖が見えた。
「どうかしましたか?」
あの崖に曲者でもいたのか?……計算しろ。……大丈夫、いたとしても危害は加えられない。最長射程の狙撃銃でもここは射程外。ミコト様の御身は安全だ。
「……鼓動を、息吹を感じました。」
「鼓動? 息吹?」
「はい。龍の鼓動、そして息吹です。」
気のせいだ、と切り捨てる訳にはいかないな。ミコト様は最強の精神感応能力者だ。オレ達には感じられない気配でも、感知出来る。
「龍の気配。まさか刻龍の目を持つという朧月セツナが……それはないな。兵団の大将がガーデンのお膝元に現れるとは思えない。」
「いえ、感じた鼓動は私の同類。心龍の力です。」
「しかしミコト様、囚われの身であるお父上がこんなところに現れる訳はありません。」
「父上ではありません。父の微弱な力とは比べ物にならない程の大いなる力。その力は……私さえ越えているやも……」
ミコト様を越える心龍の力だと!? ミコト様以外にも心龍の力を受け継ぐ者がいるのか? いや、それより今は!
「何者であれ、正体を突き止めてみせます!」
マリカさんも雪風もいる。相手が誰であれ、逃しはしない!
「待ってください!彼女は敵ではありません!」
「彼女!? ソイツは女なんですか?」
「おそらく。ほんの一瞬ですが、心と心が触れ合いました。彼女に敵意はなく、感じたのは……悲しみ、です。姿を隠すのには何か理由があるのでしょう。カナタさん、待ちましょう。彼女が私達の前に姿を現す時を。」
「隠れて覗き見してる女が、オレ達の前に姿を現す時を待て、と?」
「はい。彼女は必ず私達の前に現れるはずです。"必ず逢いにゆく"と、強い思念を感じましたから。」
敵ではないが姿を見せない謎の女か。……何者だろう? まず事実として、心龍の力を持った者がミコト様以外にもいた。これは確かだ。ガリュウ総帥に隠し子でもいたのか? そうは思えないが……わからんな……
心を重ね合わせたミコト様が敵ではないと仰るなら、彼女は敵ではないのだろう。……いずれ姿を現すというなら、待ってみるか。
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