結成編9話 新しい船出
赤茶けた荒野に二本の
「アレスの開発班もなかなかいい仕事をしてくれたじゃない。このシート、いい革を使ってあるわ。」
艦長席のお隣に設えられた補助席に座ったリリスもご満悦だ。舵輪を握るラウラさんが口笛を吹いてるお子ちゃまに種明かしをしてくれる。
「その補助シートはリリスの好みに合わせた特注品です。ぶっちゃけ、艦長席よりお金がかかってますよ?」
そりゃそりゃ、いらん気遣いをさせちまったな。でもウチのお子ちゃまには貴族趣味でいて欲しい。リリスにはすごく似合ってるから。
「さて、どこに向かったモンかな。
塩分濃度が高すぎて魚のいない湖だが、ガーデンから一番近いのは塩湖だ。
「艦長、まさに本艦は塩湖に向かっております。塩湖のほとりに結成記念パーティーの準備がしてありますので。」
手回しのいいコトだ。今日はめでたい酒を心おきなく飲もう。
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塩湖のほとりには撞木鮫が停泊していて、クルー達が宴の準備をしていてくれた。物言わぬ鋼鉄の鮫も、立派な角を持ったデカい新入りを歓迎してくれてるように感じる。
眼旗魚がロールアウトされたからって撞木鮫の出番が無くなる訳じゃない。変則編成のスケアクロウは6中隊を擁している。撞木鮫には軽巡の艦長経験があるロブに搭乗してもらい、偵察と火力支援を担ってもらうつもりだ。ワイドソナーを搭載出来る撞木鮫は索敵範囲なら眼旗魚を上回る。場合によってはワイドキャノンに換装し、火力支援も可能な撞木鮫は、今までと変わらず大切な仲間だ。
眼旗魚は撞木鮫の隣に停泊し、11番隊の案山子どもは野外宴会場に散って小瓶のビールをパスし合い、盃に酒を注ぐ。乾杯の準備は整ったようだな。
オレもリックにパスしてもらった小瓶の栓を親指の力だけで開けて、子供ビールを持った赤毛のそばかす娘を促した。
「乾杯の音頭はビーチャムが取れ。今度は噛むなよ?」
最年少の幹部に軽く無茶振りをしてみた。
「は、はいっ!え~、皆様、ほ、本日はお日柄も良く…」
案の定、カカシの徽章を付けた
「やかましい!文句のある奴はかかってこい!剣山で刺したみたいに穴だらけにしてやんぞ!」
赤毛を逆立てて恫喝するビーチャム。頼もしくなってきたな。
「コホン!ただいまより、第11番隊スケアクロウの結成記念パーティーは始めるであります。我ら案山子軍団に栄光を!乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ビールの小瓶や盃が打ち鳴らされ、酒宴が始まった。オレはビールを一気飲みして小瓶を投げ捨て、地面に落下する前に電光石火の居合切りで5つに切り裂く。
「大将、ポイ捨てはよくねえぜ?」
身だしなみには無頓着なロブだが、野外生活のマナーには厳しい。苦言を呈しながら、段ボール箱にポリ袋を入れ込んだゴミ箱を差し出してくる。
「ポイ捨てはしてない。よくみろ、ロブ。まだ残骸は接地してないだろ?」
輪切りになったビール瓶は拳一つほどの隙間を開けて、空中に浮いている。
「そういや大将はサイコキネシスを持ってんだったな。」
オレはパチンと指を鳴らし、ロブの構えたゴミ箱に残骸を放り込んだ。
「ささ、お館様、どうぞこちらに!シズルが腕によりをかけて料理をこしらえて参りました。」
地面に敷かれた御座に足を崩して座ってるシズルさんが、おいでおいでと手招きする。八熾の家紋が入った重箱には豪勢なご馳走がところ狭しと詰め込まれている。どれも美味しそうだな。シズルさんって料理上手なんだよね。
「カナタはコッチ!ほら、お肉が焼けてるの!」
ナツメはバーベキューセットを囲むパイプ椅子に座り、シオン&リリスと一緒に空いてる椅子を指さす。
「何を言う!お館様はスケアクロウの隊長である前に我ら八熾一族の当主なのだ!さあ、お館様。どうぞこちらに!」
立ち上がったシズルさんはオレの右腕を掴んでグイグイと引っ張る。
「シズル!天掛カナタは八熾家当主である前に私達の隊長です!時系列でもそうなってるでしょう? 私の隊長は渡しませんから!」
シオンに左腕を引っ張られ、オレを綱に見立てた綱引きが始まってしまった。
「あの~、キミ達、仲良くなったんじゃなかったの?」
「お館様、それとこれとは話が別です!」
「隊長、女には負けられない戦いがあるんです!」
引っ張り合いを演じながら、火花を散らす家人頭と副隊長。
この状況、どっちに味方してもヒドい目に遭うのはオレだよなぁ。……ええい!オレにどうせいっちゅーの!
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八熾一族と娘三人は実力行使寸前までいったが、思い直して調停を始め、不毛な紛争を緩衝地帯を設けるコトで解決した。要は、両者の勢力範囲の真ん中にパイプ椅子を置いて、オレを座らせるコトにしたのだ。
「お館様、蒸しエビなど如何ですか? 神楼直送の天然物です。それに数の子もありますから。」
お重を片手にオーダーを聞いてくるシズルさん。どれも美味しそうだけど……
「それより昆布締めを頂戴。オレの好物なんだよね。あと、カマボコも。」
トングで肉をひっくり返し、焼け具合を観察していたリリスが骨付き肉を挟み上げた。
「少尉はホント小市民よね~。はい、
小皿に山盛りになったご馳走をツマミに飲むお酒は最高だ。これから苦難も激闘も待ってるんだろうが、楽しむ時は楽しむ。それがガーデンのルールだ。
「そう言えば侘寂兄弟はどうした? 姿が見えないが……」
「ミコト様とイナホ様のお供です。じきに合流してくるでしょう。」
妹に酒を注いでもらいながら、牛頭さんが答えてくれた。
「ガーデンからここまでは僅かな距離だが、護衛は侘寂兄弟だけか?」
オレは質問しながら盃を傾ける。空になった手中の盃にも、馬頭さんは悪代官大吟醸を注いでくれた。
「マリカ様やシグレ様といった隊長達も一緒ですわ。兵団が攻めてこようが、御身を害する事など出来ませぬ。」
だったら問題ないな。ミコト様にはオレが護身術を指南して差し上げているが、イナホちゃんにはなんの心得もない。鏡眼を持っているから将来は有望そうなんだが……
「少し席を外す。ミコト様がお見えになる前に、中隊長達の席に顔を出しておかないとな。」
酒が回る前に、談義しておきたいコトもある。オレは緩衝地帯に設えられた席を立って、中隊長達の囲む宴席を回ってみる事にした。
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