結成編8話 アスラ部隊第11番隊「スケアクロウ」
ガーデン内の屋外教練場で行われる結成式、ついこないだ衛刃のに出たばっかりだけど、今度の主賓はオレ達だ。
ラウラさんが出席出来ないのは残念だけど、司令からの特命任務遂行中じゃ仕方ない。結成の記念写真は、さもいたかのように合成してもらうしかないな。修学旅行を病欠した学生みたいな扱いだけど……
「天掛カナタ特務少尉を第11番隊隊長に任ずる!また第00番隊の後任隊長として鷲羽クランド中佐を任命する。天掛少尉、鷲羽中佐、前へ!」
司令の声で我に返り、クランド中佐と共に壇上に歩を進める。
オレと中佐は司令から任命書を受け取り、見物にきたゴロツキどもからの拍手を受けた。
小隊指揮官以上の役職持ちは出席が義務付けられているが、この人だかりは半端ない。ガーデンに待機中のゴロツキが全員いるんじゃねえか? みんなどんだけ暇なんだよ。
「ボーイ、出世しやがったなぁ!階級は大尉にならないのかい?」
「それがよぉ兄ぃ。カナタは"部隊長連の末っ子ポジションは死守したい"なんて言って、特務少尉のまんまで通したみたいだぜぇ。」
ツートンカラーブラザーズ、少し静かにしてください。いいでしょ、別に。ナツメじゃないが末っ子ポジションは維持したい。オレは最年少の部隊長なんだし!
それに、司令以外の命令を拒否出来るって特権も役に立ちそうだしな。
「カナタは小物だねえ。部隊長でございってふんぞり返ればいいモンを。」
「ウロコさん、偉ぶらないのがカナタさんのいいトコなんでさぁ。ま、小市民臭が抜けないだけだと思いやぁすがね。」
ウロコさん、サンピンさん、祝いに来てるんですか、
キングオブゴロツキの総大将たるトゼンさんは、腰から下げた
「4番隊のゴロツキどもは黙れ。今度喋ったら永遠に黙らせる。00番隊は隊長交代により、副隊長が空席となった。よってマリー・ロール・デメル中尉を後任にあてる。デメル中尉、前へ!」
「はいですわ!」
司令の声に呼応してパイプ椅子から立ち上がるマリーさんは超張り切ってる。クランド中佐は第1中隊の隊長でもあったから、新たな中隊長の任命はないみたいだな。00番隊は役職が変わっただけで体制はそのまま維持か。
「マリーよ、今回の抜擢は実務能力を買っての事じゃ。ワシの目から見て、戦闘能力はまだまだ足りん。副隊長就任を機にさらなる研鑽に励むのじゃぞ?」
旧副隊長から新副隊長への厳しい訓示、喜色満面だったマリーさんの表情が引き締まる。
「イエッサー!副隊長の名に恥じぬよう、修練を積みますわ!」
金髪縦ロールがラブリーなマリーさんがクランド中佐の後任か。良かったですね。昇進もしたし、副隊長の地位も得た。これでデメル家再興に一歩前進、かな?
「第11番隊隊長、天掛カナタ。部隊名と編成を発表し、副隊長、中隊長を任命せよ!」
おっと、オレの番か。いよいよ11番隊のお披露目だな。
「ハッ!オレの率いる第11番隊は「スケアクロウ」と命名する!」
「
ボーリング爺ィはホントに小言が好きだな。オレの隊なんだからほっとけよ。
「別にいいでしょ。案山子よりはマシってコトで。スケアクロウ副隊長、第2中隊隊長にシオン・イグナチェフ少尉を任命する!」
立ち上がったシオンはピンと背筋を伸ばし、オレに向かって敬礼する。
「副隊長任命、ありがとうございます!いたらぬこの身ながら、我が隊の為、微力を尽くします!」
ホントは副隊長は中尉をあてるべきなんだが、オレの末っ子へのこだわりのせいでシオンにはワリを食わせちゃったなぁ。給与の件は司令になんとかしてもらったけど、オレに出来る埋め合わせはしないと。
「第3中隊隊長はロバート・ウォルスコット少尉!」
「あいよ、大将。ま、よろしく頼まぁ。」
寝グセのついた頭をボリボリと掻きながら、やる気を感じさせないお返事。ロブはいつでもマイペースだ。だけど、どんな局面にでも対応可能なバイプレーヤーは部隊のキーパーソンでもある。11番隊幹部の中では最年長だし、ご意見番兼相談役としても期待させてもらうぜ。
「第4中隊隊長はリッキー・ヒンクリー准尉だ!」
「おうよ!部隊の斬り込み隊長は俺に任せてくれ!死体の山ぁ築いてやんぜ!」
デカい体の太い指をポキポキ鳴らしながら幅広の肩を回すリック。リック隊はオレの指揮中隊に次ぐ白兵戦力だ。自慢の豪勇を奮ってもらおう。
「第5中隊隊長にはキンバリー・ビーチャム准尉を任命する!」
おおっとどよめくゴロツキ達。この大抜擢はさすがに意外だったらしい。
「は、は、は、はいっ!若輩ですが大任を、は、果たしてみせまう!もとい、み、みせます!」
ビーチャム、噛み過ぎだ。緊張するのはわかるが、今からそんなんじゃ先が思いやられる。見ろ、みんな大爆笑してんじゃねえか。ま、本番と修羅場には強いソバカス娘だ。一緒に戦ったコトがない連中は、その本質を知らないだけさ。
「第11番隊には予備中隊も編成される。予備中隊隊長、ロベール・ギャバン少尉!」
「名こそ予備だけど、主力級に働いてみせるよ。期待してくれたまえ。」
ホントに頼むぜ。司令に無理を言ってねじ込んでもらったんだからな。ま、ギャバン少尉がガス欠を起こすまでなら戦闘能力は高い隊だ。心配する必要はなさそうだが……
司令が一歩前に出て右手を水平に伸ばすと、ゴロツキ達の爆笑はピタリと止んだ。
「アスラ部隊12人の部隊長、今後は彼らを十二神将、共用語で
「女帝」、「軍神の娘」と称される司令だが、いよいよ二代目「軍神」を襲名するつもりらしい。軍神イスカ率いる十二神将か、司令の計算通り、これほど同盟の士気を高揚させるネタはない。広報部の連中は今ごろ小躍りしてるだろう。……でも十二神将って確か仏教用語だよな? 司令は一応、雷神ナルカミの信徒で、アミタラ様を奉じちゃいなかったはずだが……
そんな細かい話はどうでもいいコトか。"
「部隊長どもは壇上に上がれ!記念に一枚、撮っておこう。」
千両役者の司令は愛刀を腰から外して鞘を左手で持ち、束頭に右手を置いて大きいお胸を張った。刀を杖代わりに壇上から周囲を睥睨するその姿からは、圧倒的な存在感とカリスマ性が溢れている。これが大物オーラってヤツか。
そんな司令の回りに集結する部隊長達、オレはそ~っと隅っこに立ってみたが、マリカさんに袖を引っ張られた。
「カナタはアタイの隣だ。ほら、もっと胸を張んな!」
「うむ、それにもう少し景気のいい顔をするのだ。」
マリカさんとシグレさんにサンドウィッチにされてしまった。嬉しいんだけど、あんまり目立ちたくなかったなぁ……
「んじゃあアタシはカナタの後ろに立ってみるか。」
アビー姉さんに真後ろに立たれ、オレの逃げ場はなくなった。やれやれ、これじゃあ嫌でも目立っちまうな。
そしてお高そうなカメラを首から提げたチッチ少尉が壇上に上がってきて三脚をセットし始める。やっぱりというか、当然というか、ガーデンに来てたんだな。
「あの~、大蛇大尉、せめてお顔だけでもコッチに向けてくれませんか?」
「あぁ?」
カメラに背を向けた人斬り先生は記念撮影に協力する気は皆無らしい。不機嫌な声の威嚇に、チッチ少尉の額から汗が流れる。
「トゼン君、顔だけでもカメラに向けたまえ。記念撮影だよ?」
落ち着き払った大師匠がそう言ったものの、トゼンさんは蛇の目で大師匠まで威嚇する。
「俺に指図すんじゃねえ!」
「……そうか。皆、聞いてくれるかな? むか~し昔、トゼン君が私の道場にいた頃に…」
「黙れ!!おい、壬生の親父!カビの生えた証文をいつまで…」
「背中は向けたままでも、首ぐらいは回せるだろう? あくまで意地を張るのなら、私も昔話を続けるまでだが……」
「……チッ、しゃあねえな……」
トゼンさんは唾を吐いてから、首だけを回した。これで横顔ぐらいはファインダーに収まりそうだけど……
「それで結構です!
これほど難儀な被写体は、チッチ少尉も初めてだろうなぁ。お気の毒。
「シッシッ!アッチ行け、ダミアン。おまえはコッチに来んな。」 「そうそう、いつも色男を気取ってやがんのがムカつくんだよ。」 「俺と比べられたくないだろ? このトッド様の完勝なんだからな!」
なんだかんだで仲のいいガーデン三バカトリオは、男衆では一番見栄えのするダミアンをハミゴにするつもりらしい。……なんて大人げないんだ。
「……別に気取ってるつもりはないのだが……」
「ダミアン、気にするな。バカ三人には近付かないのが吉、伝染してもつまらんからな。」
冤罪をかけられて当惑するダミアンの傍には、玄武岩のように厳めしい顔付きのイッカクさんが並ぶ。
すったもんだの末、なんとか構図も決まり、チッチ少尉が記念撮影をしてくれた。
司令を中心にしたこの記念写真、コルクボートの写真展がまた賑やかになるな。
──────────────────
ゴゴゴゴ、と炎素エンジンの唸る音が屋外式典会場に聞こえてくる。部隊長達は全員ここにいる。陸上戦艦は全て係留中のはずだ。まさか、敵襲か!?
「慌てるな。少し待て。」
司令の声に身構えた隊長達は緊張を解く。そっか、シノノメ中将がお祝いにでも駆け付けてきたんだろう。
地平線の向こうから姿を現した真っ白な船影。船首像の先から伸びる
「艦長!ラウラ・ラコーニが新鋭戦艦を受領し、帰還しました!この艦はアレス重工の最新鋭試作戦艦、開発名は「
スピーカーから聞こえるラウラさんの声。司令がラウラさんに命じた特命任務とは新型試作戦艦の受領だったのか。
「カナタ、あれがおまえの船だ。気に入ったか?」
「はい。司令が手配してくれたんですね?」
「私からの就任祝いだ。カナタ、なんと名付ける?」
「
建造されたのは撞木鮫のが先なんだから、弟分になるのかな? ガタイは眼旗魚のが数倍デカいんだが……
「衝角を剣に見立てて
「アイアイ、新鋭戦艦ソードフィッシュ!本日ただいまより就艦致しました!」
司令のよく通る声は、全影が見えるほど近付いてきた戦艦の集音マイクで拾えたようだ。ラウラさんの弾む声に共鳴し、オレの鼓動も高鳴る。
「スケアクロウ軍旗曹長、貝ノ音侘助、貝ノ音寂助!隊旗を掲げよ!軍旗曹長を先頭に各隊で縦隊を組め!これより乗艦し、訓練航行に出発する!」
隊旗を手に、席を立った侘寂兄弟がオレの隣に歩み出てきて、ガーデンの名デザイナー、ホタル先生が考案してくれた案山子のマークが入った隊旗を掲げる。
双子の後にオレが続き、オレの後には自分の隊を従えた中隊長達が続く。眼旗魚のメインハッチから下艦してきたラウラさんとクルーが持った紅白のテープを居合切りでカット、これがこの艦の除幕式だ。テープカットが終わった直後に、口笛を吹きながら艦の上部甲板や船窓から姿を現すクルー達。クルー達は紙吹雪が舞い散らせ、クラッカーを打ち鳴らす。
「ナツメ!隊旗を船首に掲揚しろ!」
「待ってましたなの!」
侘助から隊旗を手渡されたナツメが、得意の飛び石ジャンプで高々と飛翔し、眼旗魚の艦頭に案山子の旗を取り付けてくれる。……拍手喝采でテンションがアゲアゲなのはわかるが、アイドル顔で横ピースまでしなくていい。一応軍艦なんだぞ、この船は……
オレは眩しい陽光に照らされ、輝く船首に翻る隊旗を見上げつつ、敬礼した。
……よろしくな、ソードフィッシュ。オレ達の船よ……
「しかし大将、凶悪な面構えの案山子だな。牙を生やした口でニヤつく悪い顔がなんとも
ロブの言葉にオレは頷く。最高のデザインだぜ、ホタル先生。ありがとな。
風を受けてたなびく凶悪な面構えの案山子の旗印、これがオレ達、「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます