結成編7話 天羽ガラクと射場トシゾー



無理難題を無茶振りしといて後のコトは投げっぱ、それが司令の得意技なのだが、第11番隊を結成させるとなると、いつものようにはいかなかったらしい。結成に備えて、精鋭兵を50名ばかり集めておいてくれたのだ。


白兵戦が取り柄の連中は特に防御に秀でていて、遠距離戦や特殊工作も得意な兵隊もいる。白兵攻撃手が多い白狼衆との兼ね合いを考えてのスカウト、司令は早くから11番隊結成の準備をしていたというコトか。ってコトは最強中隊長決定トーナメントはオレの部隊長適正を見る為のテストだったんだな?


「我々の能力はこんなところです、部隊長。」


集まった精鋭達には一通り、その能力を見せてもらった。さすが司令の眼鏡に叶った連中だ。アスラコマンドと遜色ない力を持っている。


「了解した。諸君らのお陰で、午後からテストする白狼衆はアタッカー主体で選抜出来そうだ。下がってよし!」


「ハッ!「邪眼持ちの悪魔」と機構軍に恐れられる異名兵士、剣狼率いる11番隊の隊員に選ばれて光栄であります。」


邪眼持ちの悪魔、か。黄色い悪魔ならタイガーマスク、白い悪魔ならアムロ・レイ、オレもちったぁ名が売れてきたらしいな。ま、司令のお陰で、実力十分なガード屋と中、後衛要員は確保出来た。彼らの力量に相応しいアタッカーを選抜しないとな。


───────────────


「あいうえお順で選抜テストを始める。天羽雅楽、前に出ろ!」


候補生の中からバネの利いた跳躍で、素質ある問題児は飛び出してきた。


「待ってましたっと!もう領地での訓練には飽き飽きだぜ!お館様を相手にいいところを見せれば合格なんだよな?」


「見せれるものならな。訓練に飽きたんなら実戦といこうか。」


「望むところだ!……お館様、合図はまだかい?」


「もう始まってる。」


「じゃあ、遠慮なく行くぜ!うりゃああぁぁ!!」


兵士としては技巧派タイプだが、性格は出会った頃のリックと同じか。


振り下ろされた訓練刀の切っ先を寸前で躱してから、電光石火で距離を潰し、土手っ腹に拳を埋めてやる。くの字になった体に回し蹴りを一閃すると、吐しゃ物を撒き散らしながら、天羽ガラクの体は宙を舞い、勢いよく地面に叩きつけられた。


「次!射場寿蔵いばとしぞう、前へ!」


「はいっ!自分は弓術が得意で…」


「待ってくれ!今のは油断しただけだ!今度こそ…」


気絶しない程度に加減してやったとはいえ、もう立ち上がってきたか。タフさもあるようだな。


「天羽、おまえはゾンビなのか?」


「え?」


「戦場で殺されてから"今のは油断しただけだ"って負け犬の遠吠えをほざきながら生き返るつもりかと訊いている。」


くの字に曲がった体を蹴り飛ばしてやったんだ。手加減されてたコトぐらい気付け。


「……そ、それは……」


「兵団のザハトはそんな特技を持っているって噂だが、おまえもそうなのか?」


「………」


「黙ってないで答えろ!どうなんだ!殺されても生き返る力があるのかないのか、どっちだ!」


「……そんな力はありません。」


「だったら終わりだ。今のでおまえは死んでいた。実戦なら蹴りでなく、刀を使って首を刎ねていたからな。それがわからんほど未熟じゃあるまい。……おまえなら、な?」


おまえわかるはずだ、こういう表現を使えば、この手のタイプもすんなり現実を理解する。これが、おまえ、と言えば途端に反発する。ストリンガーノートに記してあった教訓。兵士の個性を理解し、指導法を考えろ、大事なコトを教える時は、接続詞一つにも気を使え、と。


「……は、はい。格の差は理解しました。……でも、これは訓練で、実戦じゃ……」


「訓練には飽き飽きだぜ、おまえがそう言ったから、オレは実戦といこうかと答えた。そしたらおまえは"望むところだ"と応じたよな? 天羽、自分の言った言葉には責任を持て。皆、わかったな!言葉の軽いヤツは命も軽い。こうはならんようにしろ!」


整列し、順番を待つ候補生達は大声で"イエッサー!"と唱和する。


「実戦なら俺は死んでいた、それは認めます。その上でもう一度だけ、チャンスをください!」


「天羽、チャンスの神様の後頭部はつるっ禿、なんでだか知ってるか?」


「なぜですか?」


「一度掴み損ねたら二度と掴めないからだ。おまえの訓練成績を見たが、手を抜いていただろう?」


「全身全霊を傾けたとは言いません。しかし十分なスコアを上げていたはずです!」


「他の者よりスコアが高けりゃそれでいい。そういう甘ったれの判断を自分で勝手に下した訳だ。なぜ全力を尽くさなかった? たかが訓練とナメていたのか? やる気になれば出来るからか? 誰も褒めてくれないからか? オレが欲しいのは、誰も見ていなかろうが、真摯に自分を高められるヤツだ。強ければそれでいい、そういう考えなら羅候へ行け。4番隊ならそれで通る。」


「……天羽家の人間は、白狼衆にならなきゃいけないんです!お願いします!もう一度だけ!」


譜代で血族の八乙女家が筆頭家老、外様で実力登用の天羽家は次席家老、名門の看板を背負ってるから引くに引けない、か。


一度の失敗で切り捨てるのはオレの主義じゃない。だが、実戦での失敗は仲間の命にかかわる、天羽にはそれを十分認識させておく必要がある。


「……いいだろう。だが条件がある。天羽と組んでオレと戦ってもいいというヤツは前に出ろ。2対1で有利になる分、採点は厳しくなる。もちろん、天羽と組んだヤツにとってはそれが入隊テストになるぞ?」


「みんな、俺の力は知って…」


オレは立ち並ぶ候補生達を振り返った天羽を掣肘する。


「天羽!口を開かず、後ろも見るな!テレパス通信を使ったのがわかれば、おまえを候補生からも除外する!今試してるのはおまえの人望だ!」


これで天羽がどういう日常を送ってきたかがわかる。


顔を見合わせた候補生達だったが、誰も前に出ようとはしなかった。案の定、有能な嫌われ者だったようだな。


「……残念だったな、小天狗。ちょっとばかりの才気に溺れた結果がこれだ。おまえ程度の力で天狗を気取れば人望なんぞ得られる訳もない。」


「……ち、ちきしょう……」


天狗の道は厳しいんだ。貫きたけりゃあ羅候の中隊長レベルの力が要る。トゼンさんみたいな大天狗になれば、畏敬の対象にすらなれるんだが……


「お待ちください!僕がガラクと組みます!」


誰もガラクと組もうとしないのを見かねて前に出た候補生。あいうえお順の二番目、射場寿蔵か。


「射場、天羽と組んでハードルの上がったテストを受ける、それでいいんだな?」


「はいっ!」


「トシゾー、おまえ……」


「僕が後衛、ガラクが前衛だ。いつもみたいな身勝手はしないでくれよ。お館様の力量はもうわかっただろ。」


「おう!今度は注意深くいく!格上相手には謙虚にいかないとな!」


そういうコトだ。考えナシの突貫野郎は図抜けた力がない限り、あっさり死ぬ。


「ではレギュレーションを言っておく。オレは左手と脇差しのみで戦ってやろう。それでも勝てないだろうが、少しはいいトコを見せてくれよ?」


「了解です!トシゾー、援護を頼む!」


「任せろ!お館様、いざ尋常に勝負です!」


……利き手と刀を封印した時点で尋常もなにもないもんだが。ま、その心意気やよしだ。


ガラクはさっきとは打って変わってすり足で距離を詰めながら、トシゾーに射角を確保させる、か。


射撃の援護を受けてから飛び込んでくるつもりだな?


「これはテストですから、お館様に弓を引かせてもらいます!お覚悟!」


トシゾーは一度に3本の矢をつがえ、オレに目がけて矢を放つ。オレが飛来する矢を脇差しで払い落とすと同時にガラクはダッシュし抜刀、四の太刀、咬龍を放ってきた。まだ荒さの見える咬龍を側転して躱し、返しの一撃を見舞ったが、ガラクは辛うじて刀で受けた。が、受けはしたもののガラクは地面を擦って後退する。


「なんてパワーだ!左手一本でこれかよ!」


後退させたガラクを追撃しようとするオレの鼻先を二の矢が通過する。


「相手を誰だと思ってるんだよ!あのシズル様が"とうてい敵わぬ"と仰られてるお館様だぞ!」


追撃ルートに矢を置いておく、か。トシゾーはそれなりに戦機を読めるようだな。


それから数度の攻防を繰り返してみたが、パターンに変化はない。


二人一組ツーマンセルの戦術はトシゾーの射撃で脇差しを使わせ、ガラクが攻撃。急ごしらえのコンビの割には息が合ってる。そこは評価出来るが……


トシゾー、教科書通りに射角を確保するのはいいが、あまりに単調だと……健気な射手の動く先に向かって脇差しを投げてやろう!


「うわっ!」


「トシゾー、アウトだ。」


「はいっ!でもチャンスだよ、ガラク!」


「わかってらぁ!」


獲物を失ったオレにここぞとばかりにラッシュをかけてくるガラク。だがオレは猛ラッシュに脇差しの鞘で応戦する。


「鞘だとぉ!」


「脇差ししか使わないと言ったが、鞘も脇差しではあるからな。」


「だったら俺も切り札を使わせてもらうぜ!」


パキパキと軍靴を覆う霜柱、だが……


オレはなに事もなかったかのように足を動かし、ガラクの体を打ちすえた。


──────────────────


「氷結能力での足止めはもったいぶらずにサッサと使っておくべきだったな。足を止めさせ、トシゾーの矢で仕留める。プランとしてはそっちのがスマートだった。ガラクには自分がサポートに回るという発想が欠けている。」


「……通じてなかったじゃん。俺の氷結能力……」


そりゃ、シオンのに比べりゃ速度も拘束力も足りてないからな。あの程度なら力ずくで対処可能だ。


「それにしたって先に使っておけば、オレには通じないとわかったはずだ。クズ札を切り札と勘違いした結果がこれさ。トシゾー、レポートには"射場寿蔵は火炎のパイロキネシス能力を持っている"と書かれていたが、なぜ使わなかった?」


「僕の射出速度では躱されるだけです。ガラクとの最初の立合いで、お館様の最高速は見ましたから……」


ガラクは氷結強度に、トシゾーは射出速度に難アリか。ま、一般兵が相手なら必殺だろうが……


「あれが最高速じゃないんだがな。100mを4,4秒の快速はあんなもんじゃないぞ?」


とうとうスピードでもナツメと同等の域にまで達したからな。ガーデン短距離走ランキングのトップは4秒フラットのマリカさんだけど……


「……お館様は化け物です。」 「マジかよ……信じらんねえ。」


「伊達に修羅場をくぐってきた訳じゃないさ。両名とも不合格と言いたいが、条件によっては合格にしてもいい。」


なにがなんでも自分で決めたい積極性の塊と、どうせ通じないと諦めて能力を使いもしない慎重屋か。天羽ガラクには慎重さが、射場トシゾーには積極性が欠けている。だったら……


「僕もガラクも合格!お館様、本当ですか!」 「条件ってのを教えてくれよ!」


「おまえ達は一人一人なら非力だが、二人一組ツーマンセルならそうでもない。二人でコンビを組み、助け合う事。これが条件だ。」


顔を見合わせた二人はガッチリと握手した。話は決まったようだな。


血気盛んなガラクと、冷静なトシゾー。ガラクはトシゾーのクレバーさを学び、トシゾーはガラクの積極性を学べば、いい方向に成長するだろう。


「二人とも下がってよし。残る候補生諸君、シンキングタイムだ。一人で挑んでくるもよし、何人かで組んでもよし。組んだ人数によってハードルが上がる仕様は同じ、さあ、考えろ!」




整列を崩して相談を始める候補生達。どんな答えを出してくるのか楽しみだぜ。


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