第十七章 結成編 剣狼カナタ、アスラコマンド部隊長に就任する
結成編1話 役員会の狼
「私達を追い出したら御門グループは立ちゆかなくなるぞ!それでいいんだな!」
御門グループ本社ビルで行われた役員会、解任を告げるオレの前に高級スーツどもが群がってきて怒号を上げる。
「見解の相違だな。アンタらに居座られたらグループが立ちゆかない。そう判断した。」
解任される役員達の殺意の篭もった目、だがコイツらは狼眼を持ってない。睨みつけられようが痛くも痒くもないね。
「二十歳の若僧にグループの何がわかる!私達あっての御門グループなのだ!」
急ごしらえのスーツの胸ぐらを掴み上げる手、少しだけ力を入れて握ってやると威勢だけいい元役員様はニワトリみたいな悲鳴を上げた。
「オレは二十一だよ。グループの何がわかるかって? わかるとも、おまえが特別背任に問われるってコトはな!」
傷のある脛を蹴って床に転がし、目を黄金に光らせてやると、オレを取り囲む役員達の輪が後退する。総帥の弟が睨んだだけで人を殺せる目を持つ男だってのはご存知のようだな。
自分達を守る権力の盾では直接武力を防ぐコトが出来ないと悟った役員達の声はトーンダウンした。ここで歯向かう根性があれば、グループを追われるコトはなかっただろうに……
「ミ、ミコト様と話をさせてくれ!ミコト様はこの事をご存知なのか!?」
解任される役員達の中で一番の大物、専務取締役は形勢の悪さを察したのか、ミコト様への直訴を考えたようだ。
「オレがミコト様に全権を委任された代理人であるコトは、役員会が始まる前に伝えたはずだが? 龍紋入りの委任状が見たいなら見せてやるぞ?」
御門家伝来の玉璽はリンドウ准将が守ってくれていた。准将が胃の中に隠し持っていたのだ。
「それは知っている!だが、とにかくミコト様と話がしたい!」
「ダメだ。ミコト様に泣き言を言ったところで決定は覆らない。……諦めろ。」
ミコト様に泥を被せない為にオレが出張って来てんだよ。それぐらい悟れ。
それでも言い募ろうと、一歩前に出るカンドリ専務。オレが睨みつけると一歩下がり、雑魚役員どもからの視線の圧力に背中を押されてまた一歩前に出てくる。せめて三歩歩いて二歩下がれよ。一歩歩いて一歩下がったんじゃ、足踏みしてんのと一緒だぞ。
「こんな乱暴な人事はない。落ち着いて話し合えばきっと…」
「話は話の通じる相手とするものだ。アンタらと我々の間には共通する理念も妥協する余地もない。」
「我々はガリュウ総帥によって任命された役員だ!ミコト様の名代に解任されるいわれはない!御門グループ総帥はまだガリュウ様のはずだ!」
オレの後ろに立っていたヒムノン室長が前に歩み出て、役員達に宣言する。
「照京企業法第10条を読みたまえ。企業の役員、株主が敵性勢力の虜囚となった場合、"第一血縁者に全ての権利、権限が移譲される"とある。同盟軍は"御門ガリュウ氏は機構軍の捕虜になった"と認定した。よって御門グループの全権限は現在、御門ミコト様が有している。天掛カナタ氏はそのミコト様から全権を委任された代理人、新総帥に代わって権限を行使出来るのだよ。法的に何も問題はない!」
「照京政府はクーデターによって崩壊した!照京企業法に則って我々を解任する事は出来ない!」
お~、頑張る頑張る。そりゃ特権階級に残れるかどうかの瀬戸際だからなぁ。頑張らざるをえないか。
「照京政府はミコト様を総帥としてリグリットに亡命政府を樹立した。亡命政府には元の政府が定めた法が適用される。同盟基本法、15条1項だ。」
「亡命政府を樹立!? 我々はそんな話を聞いていない!」
「今朝、同盟軍はミコト様を総帥とする照京亡命政府の樹立を了承した。夕方には記者発表が行われるはずだ。初耳だったかね?」
ヒムノン室長も意地悪だなぁ。話してないんだから初耳に決まってますって。
「……うぬぬ……こ、これは不当人事だ!こんな事が認められる訳が…」
「キミ達は不当人事だと裁判に訴える事は出来る。やってみたまえ。同じケースでの判例を見ればやる気を無くすとは思うがね。では、法廷で会おう。」
ヒムノン室長が指をパチンと鳴らすと、大会議室に警護兵達が入ってきた。警護兵達は見苦しくあがく役員達の腕を掴んで部屋の外へと連行してゆく。10分もしないうちに、このリグリット本社ビルから叩き出されるだろう。
「ヒムノン室長、お疲れ様でした。面倒事を頼んですみません。」
「この手の仕事は私の得意分野だ。カナタ君の力になれてよかったよ。」
「これからもよろしくお願いします、ヒムノン
「ふ、副社長!? カナタ君はいったい何を言って…」
「あ、副社長兼、顧問弁護士ですね。初耳でしたか?」
「初耳も初耳!大初耳だよ!!」
大初耳とかいう奇妙な
「司令の許可は取ってあります。御堂財閥と御門グループの友好関係の為、人柱になってください。」
「聞いてない!そんなお話、私は一言も聞いてな~い!!」
諦めましょうね。御門グループの発展には、ヒムノン室長の力が必要なんです。うっしっし、してやったりだぜ。
─────────────────
腹を括った、いや、無理矢理腹を括らされたヒムノン室長だが、そこは仕事人間。辞令が下りる前にお仕事を始めるつもりらしい。
リグリット本社ビルに働き者のヒムノン室長を残し、オレはミコト様が滞在している照京首都公館、明日から亡命政府本館となる屋敷に戻った。
そのミコト様はといえば、私室で護衛の三人娘と麻雀に興じていらっしゃったか。
「カナタさん、お帰りなさい。寂助、これはどの牌を切ればよいのでしょうか?」
ミコト様の背後に佇立していた寂助は、黙って牌を一つ倒す。
「リーチ、でございます。」
こ、これが執事付き貴族麻雀か。
「むう、リーチときたの。え~と、待ちは……」
頭の上に?マークが浮かんだナツメにリリスがアドバイスする。
「ピンズの2ー5ー8が本線、でも寂助は引っ掛け待ちもやる雀士だから、単騎待ちも警戒よ。」
「となると、
「ロン、でございます。奥様なら
「やられたわね。寂助さん、お見事。」
振り込んだってのにシオンさんは嬉しそうだ。
「恐縮にございます、奥様。」
「その奥様ってのはヤメなさいよ!少尉の奥様は私!」
リリスが手牌を撒き散らしながら抗議する。侘寂兄弟はシオンさんをオレの嫁とみなして奥様って呼んでるんだよな。
「じゃあ私は嫁二号、これでシオンも私のお姉ちゃん……」
一人っ子だが、末っ子ポジションが大好きなナツメは、シオンも姉にしようと狙っているようだ。
「ふふっ、カナタさん。役員会は無事に終わったのですね?」
微笑ましい修羅場に頬を緩めたミコト様は、席を立って恒例のハグハグをしてくださる。いい匂いのするミコト様のお胸の感触を楽しむオレ、もちろん、爪先はシオンに踏まれ、尻にはリリスの単分子鞭が刺さっている。こういう時は鷹揚というか無関心なナツメの
主に代わって代打ちを始めた侘助と三人娘を横目に、オレとミコト様は奥の間に移動した。
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奥の間でお姫様謹製のお珈琲など頂きながら、役員会の報告を済ませる。教授の立てたプラン通りの結末を迎えた訳だから、報告といっても簡素なものだが。
「……全て教授のプラン通りにいったのですね。改革には痛みを伴うものとはいえ、気が沈みます……」
「留任した役員達は自らの役目の重要性を肝に銘じ、職務に邁進してきました。追放された者達にはそれが欠けていただけです。ミコト様がお気に病む必要はありません。」
ガリュウ総帥が任命したってのに、そんな忠義な人材が役員の半数もいたってのが驚きだよ。照京の人的能力ってえらく高いよな。だからこそトップがアレなのに、世界に冠する企業体であり続けたんだろうけど。
「本来、私が矢面に立つべきなのに、カナタさんに嫌な仕事をさせてしまいました。ありがとう。」
「生まれ変わる御門グループの旗頭に立つミコト様に泥を被せる訳にはいきません。八熾は御門を護る狼、爺ちゃんが生きていれば、きっと同じコトをしたでしょう。」
「頼もしい弟を持って姉さんは幸せです。ヒムノン室長は副社長就任を了承してくださいましたか?」
「ええ。とても喜んでいました。」
「それはよかった。急な話なので驚かれたでしょうに。」
うん、アゴが外れたみたいにあんぐりお口を開けてました。写真を撮っときゃよかったな。
「あ、カナタさん、この書類にサインをしてくださいね。」
書類にサイン?
「……これは株式移譲書……待ってください!この内容だと御門グループの株式の20%をオレが所有するコトになりますよ!」
「はい、今日からカナタさんは御門グループの大株主です。相応の責任が生じますから、覚悟してくださいね?」
「待って待って!ミコト様、
「カナタさんはもう二十一ですよね? 十八歳で御堂財閥の全株式を継承した司令に比べればなんのコトはありません。これからカナタさんは役員ではなく大株主として、御門グループの再建に携わるのです。」
「ええ~~!!」
悲鳴を上げるオレの手に羽根ペンを握らせ、満面の笑顔でサインを迫るミコト様。心龍眼がなくてもミコト様のお心が読める。サインするまで部屋から出しませんって顔に書いてあるから。
人を呪わば穴二つ、とはよく言ったものだ。ヒムノン室長をハメた報いがもう返ってきやがったぜ。
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