再会編35話 三本足の烏
昨晩、全ての秘密を盛大にシュリにぶっちゃけたオレは、ホタルにも話していいと言ったのだが、シュリはいずれは話すが今はまだ秘密にしておくと答えた。密談の最後はこう締めくくられたのだ。
「この話は状況が変化するまでは、カナタとミコト様、それに僕だけで留めておこう。」
「シュリ、それじゃあおまえに秘密を抱えたホタルとおんなじコトになるぞ?」
「ああ、これでお互い様になるね。でも、ホタルの秘密は僕とホタルの間だけで済む話だったけど、カナタの秘密はカナタのみならず、同盟軍、八熾一族やミコト様にも影響を与える話なんだ。機密保持には万全を尽くしたい。」
「それはそうなんだが……いいのか?」
「秘密を知った時にホタルは怒るだろうけど、わかってもくれる。カナタはホタルにとっても大切な親友だからね。それに……」
「それに?」
「……話したくても話せないカナタの苦しみを僕も共有したいんだ。」
シュリ、おまえってヤツは、どこまで不器用な男前なんだよ……
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サンブレイズ財団の軍事部門はまだ正式名称が決まっていない。ミコト様からは"指揮官であるカナタさんが命名してくださいね"と言われて、色々と考えてはいたのだが決めきれないでいた。そしてグラドサルで司令の奸計を知ったオレはシュリとホタルを理事に引っ張り込んでから三人で相談して決めようと思って、命名を保留していた。今日は休息日、シュリ夫妻を交えた昼食会で財団の話をする。財団軍事部門の命名も議題の俎上に上げる予定だ。
今日は休息日だが、シュガーポットでは大規模演習が繰り返されている。"異名兵士は戦闘不可"というレギュレーションが課されたのは初日だけで、以降の訓練は連れてきた全部隊を投入し、シチュエーションを変えた実戦方式の演習を行った。財団軍事部門を一刻も早く実戦投入可能段階に引き揚げるのが司令とオレの目下の目標。おかげでシュガーポットの医療ポットは連日フル回転だ。だけど流す血と汗の甲斐あって、財団軍事部門は飛躍的にその練度を高め、高度な連携をこなせるようになってきた。少々勇ましい名前を付けたところで名前負けしない程に……
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御門グループが母体のピザチェーン店「ボルカーノ・ピザ」の個室を借りて昼食会兼財団理事会を開く。理事はオレ達以外にもいるが、軍事部門に関してはオレが全て決めていいコトになっている。
若干21歳で財団理事に就任する羽目になった同い年三人は、ピザを片手に昨日までの演習の分析から仕事を始める。
「カナタは戦争の天才だったのね。昨日の演習終了後に少将に食事会に招待されたのだけど、とても驚かれていたわ。」
「驚くというより嘆かれていたね。"古参兵の恐ろしさを教えてやるつもりが、この有り様だ。まさかこんな短期間でここまで成長するとはな。剣狼はもう戦術でも俺と互角に張り合い始めた。俺の
「ま~た過大評価されてるなぁ。ぶっちゃけな、オレがどうこうって話じゃなくて、財団軍事部門が精鋭兵なんだって話だよ。照京動乱をくぐり抜け、ミコト様の為には命を惜しまぬ強者揃い、そして同盟最高の索敵能力を持つホタルがいる。そしてその戦術情報を元に小技の達人、シュリが嫌がらせだ。」
「……嫌がらせ……陽動って言ってくれ。嫌がらせじゃ僕が小舅みたいじゃないか。」
「戦術の穴を器用に塞いでくれるバイプレーヤーのロブ、それに戦術指揮を補佐してくれる参謀リリス、オレが戦闘に手を取られてもシオンやシズルさんがカバーしてくれるし、ナツメを始めとして個々に高い能力を持つ兵士も多数抱えてる。これで戦えなきゃ嘘だろ。」
「どれだけタレントが揃ってても司令塔が無能なら意味がないわ。カナタは自信を持つべきよ。」
「自信は持ってるさ。このチームなら戦えるってね。んで、話なんだが、このチームに名前を付けよう。サンブレイズ財団設立が公表される日に、財団軍事部門の部隊名も発表しなきゃなんないからな。理事のお二人、何かいい案はないか?」
話を振られた夫妻は思案し始めた。"そんなの指揮官やってるおまえが考えろ!"ってブン投げせずに真剣に考えちゃうのが真面目人間の弱点だな。
あ~でもない、こ~でもないと出て来た案を検討してみたが、これ!という点に欠ける。
オレの頭が煮詰まりかけた時、思案を巡らすシュリの未来嫁の頭上で豆電球が光ったのが見えた。
「う~ん……そうだわ!
こっちの世界にも八咫烏はいらっしゃるんだよな。神鳥というのも一緒だ。この世界ではアマテラスは最高神ではなく大神の一柱で太陽神とされているが、八咫烏がその遣いであるという立場は変わらない。
この世界にも太陽神アポロンに似た神様はいらっしゃって、その遣いはやっぱりカラスだし、いいかもしんないな。
「いいね。でも機構軍からは死体に群がるカラス扱いされそうだけど。」
シュリの言うコトはもっともだが、財団
「事実そうだろ。敵にとっては不吉なカラスのエンブレムになるさ。軍事部門には覇人ではない兵士もいるし、人種にこだわらず門戸を開く為にも八咫烏ではなく、スリーフットレイブンを正式名称としよう。エンブレムには八咫烏の姿をお借りするけどな。シュリ、ホタル、オレと一緒にスリーフットレイブンを支える足になってくれ。」
八咫烏は三本足の神鳥。財団理事であるこの三人がその三本の足だ。八咫烏のエンブレムを良しとする理由はオレ達三人の結束を象徴もしてくれそうだからさ。
「八咫烏の足は三本、僕達も三人、か。決まりだね。」 「うん。シュリ、カナタ、三人で力を合わせましょう!」
実際は皆で力を合わせるんだが、理事であるオレ達はその先頭に立たなきゃいけない。
「エンブレムのデザインはホタルが考えてくれ。とびっきりカッコいいのを頼むぜ。」
「任せて!そういうのは得意だから!」
知ってるよ。オレやバイパーさんに作ってくれたホタル謹製ラメシャツには超カッコいい狼や蛇の刺繍が入ってたからな。
「二人とも、チーズで汚れた手を拭いてくれ。」
ナプキンで手を拭ったオレ達三人は、手を取り合った。シュリの右手が俺の左手を、俺の右手がホタルの左手を、そしてホタルの右手がシュリの左手としっかり結ばれる。この腕が織り成す三角形で、どんな風雪にも耐えてみせる。
「僕とカナタは「程々に妥協出来る世界を創る」と誓いを立てた。その誓いにホタルも加わってくれ。」
「うん!三人で創りましょう。程々に妥協出来る世界を!」 「ああ、約束だ!」
サンブレイズ財団軍事部門「スリーフットレイブン」か。三本足の烏がこの歪んだ世界に光を導き、照らし出せるかはオレ達三人に懸かっている。だけどオレ達ならやれる。毛利の三矢の教えじゃないが、三人で手を携える限り、決して折れるコトはない。
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