再会編22話 神兵VS剣狼



二刀で交互に繰り出されるクランド中佐の剣撃は速く、鋭く、容赦がなかった。


交互のタイミングに慣れた瞬間、同時攻撃が襲ってくる。夢幻一刀流にも二刀を使った技、双牙双撃があるが、よく似てる。……当たり前か、夢幻一刀流も夢幻双刃流も源流となったのは夢幻流だ。


汎用剣法だった夢幻流、そこから一刀技に磨きをかけたのが夢幻一刀流で、二刀流を極めんとしたのが夢幻双刃流。その名残りで双方の流派に一刀技も二刀技も残っている。


オレの技はもう荒くない、司令はそう言ってくれたが、クランド中佐の技は鉄拳バクスウのように洗練された老練の極み。達人ジジィってのはどこの世界でも厄介だぜ。


技の比べ合いでは分が悪いと認めざるを得ないな。とはいえ予想された展開で既に実戦でも経験済み、なので焦りはない。


刀に向いた意識の死角から飛んできた蹴りを食らったオレは、芝生を足で削りながら後方へすっ飛ばされた。


「……大して効いておらんか。頑丈じゃの。」


「喰らう瞬間に熱交換ヒートコンバートシステムを使った。打撃じゃオレを倒せない。」


軍用コートの片肌を脱いで、蹴りを喰らった箇所を露出させる。熱交換システムで衝撃を熱に変換した余波で、シャツから水蒸気が発生していた。体熱コントロールアプリを使ってヒートダウン、と。


「戦術アプリを使ったコンボとはの、面倒な技を覚えよってからに。」


「力が足りなきゃ知恵で補う。剣術だけがオレの武器じゃないんでね。」


「その小賢しいオツムだけは褒めてやるわい!」


お褒めに預かった以上、もっと小賢しい真似をさせてもらうぜ。位置の調整が終わったら、だが。


距離を一気に詰めてきたクランド中佐の振るう刀は刀で受け、長脇差しは抜いた脇差しで受ける。


二刀で鍔迫り合いに持ち込み、力比べだ!


「ぬう!適合率が高いのは知っておったが、パワーでワシと渡り合うか!」


渡り合う? 技なら中佐だが……パワーならオレだ!もう少しで予定した位置で押し込める……


刃に渾身の力を込め、ギリギリと力づくで中佐の体を押してゆく。……!!……一気にパワーが増した!神威兵装オーバードライブモードか!


上等だ、そこまでやるってんだな!だったら目には目、歯には歯、オレも神威兵装モード発動だ!


よし、予定位置まで押し込んだ!鍔迫り合いは終わりだ。


刀を返して胴を薙ぐが飛び退って躱された。機敏な爺さまだ、そんで即座に踏み込んでくるよな!


飛び込んできての念真衝撃球は、念真衝撃球で中和、だがオレがやや押される。……衝撃球の精度は中佐が上か。だが予定位置に飛び込んできた事に変わりはない!


「なんじゃと!」


追撃をかけようとした中佐の顔に放水された水が当たって怯ませる。ただの水だが意表を突かれりゃビックリするよな!右手の刀を睨んで殺戮の力をチャージしながら左手の脇差しを捨てる。そして間髪を入れずに片肌脱いだ片袖を左手で握った。


「これがホントの年寄りの冷や水ってな!」


オレは右手で斬撃を繰り出し、受けようとする長脇差しは片袖で巻き取って、引き寄せながら態勢を崩す。


そして繰り出した渾身の斬撃が老兵の体を吹っ飛ばしていた。


───────────────────────────────


吹っ飛ばされた、いや、自分から絡め取られた長脇差しを捨てて飛んだ老兵は倒れるコトなく剣を構え、追撃に備えてみせた。


……勝負ありかと思ったが、やるな。完全に意表を突いたはずだが、咄嗟に念真障壁を形成しながら飛んでダメージを殺しやがった。


だが浅かったとはいえ、手応えはあった。チャージ時間が短かったとはいえ、殺戮の力が篭もった刃のダメージを殺し切れる訳はない。


片袖で巻き取った長脇差しは中庭の端にある池に投げ捨て、自分が捨てた脇差しはサイコキネシスで浮かせて納刀する。


オレにもダメージはあるが、神兵クランドといえど、今の一撃は効いただろう。長脇差しは池へ捨てた。これで夢幻双刃流を完全に無力化しただなんて思わないが、有利な状況には違いない。


考えろ、詰め手を誤るな。歴戦の猛者の怖さはこっからだぞ?


「そこまで!」


大師匠はそう宣言し、司令に向き直った。


「司令、これ以上の勝負は必要ないと思うが如何? カナタ君は神兵クランドと互角以上に渡り合った。もう十分かと。」


「うむ。カナタ、クランド、この勝負、これまでだ。」


「イスカ様、まだ勝敗はついておりません。」


クランド中佐は不服そうだったが、司令は首を振った。


「クランドの負けだと言っているのではない。だがカナタの狡っ辛さを甘くみたな。クランドは最初からカナタの術中に嵌まっていたのだぞ?」


「最初からですと!」


「そうだ。カナタはイラついて刀を折ったり、ナメるなと怒鳴ったりしていたが、あれは演技だ。演技に皆を注目させ、こっそりサイコキネシスを使っていた。芝生に散水する為に埋め込まれている水道の蓋を開け、蛇口を上向きにイジる為にな。」


ばれてーら。この下屋敷はオレのホームグラウンド。あるものは利用させてもらうまでさ。


「そしてカナタ、おまえはトゼンの奥の手をパクったな? 片袖を脱いだのはその為の布石だった。」


「ええ。夢幻一刀流、「小袖返こそでがえし」と命名しました。伝えられる技を伝承していくばかりでは先人達に申し訳ない。新たな技を創始し、伝えていくのが今を生きる者の使命。もっとも小袖返しはパクった技ですけど……」


「トゼン君も散々、他流派から技を盗んでいる。盗品を盗まれたからといって文句は言うまいよ。」


大師匠のお許しも出たし、小袖返しは夢幻一刀流の技に加えさせてもらおっと。


「ちぇっ!なんだか随分置いてかれた気分だぜ。」


「ダニーちゃんよぉ、ボヤく前に出すもん出しない。」


パイソンさんが長い腕を伸ばし、長い指でチョイチョイとダニーの肩をつつく。


ダニーは唇を尖らせながら丸めた紙幣をパイソンさんの手に握らせた。


「ホントに狡っ辛い野郎だぜ。刀の仕掛けに気付くか、普通?」


「ケッヘッヘッ、あんちゃんの狡さを信じてよかったぜぇ。」


ろくでもねえ賭けしやがって。どうしようもないゴロツキどもだよ。


「ツバキ、カナタさんが御門の企業傭兵の総指揮を執る件、異存はありませんね?」


「剣狼の兵士としての強さは認めます。しかしながら兄のように指揮官としても有能かどうか……個の強さとは別問題かと。」


歯切れの悪いツバキさん、その姿を冷笑する司令。そしてお得意の無茶振りがきた。


「私の見立てでは竜胆少尉はもちろん、「昇り龍」サナイより指揮官としても上だと思うがな。納得がいくよう、カナタの指揮官としての適正を判断する場を用意しよう。私が大軍の指揮の執り方とその戦術を叩き込んでから、だがな。」


マジっすか!? 司令のレクチャーはスパルタっぽいんだけど……


「あらあら少尉、一難去ってまた一難ね?」


嬉しそうだな、リリス。オレの受難がそんなに可笑しいか?


「毒舌小娘、おまえもだ。アタイとイスカで特訓してやるからな。」


ネコ耳生やしたリリスさんが脱兎、いや脱猫のように逃げ出す前に、マリカさんの手が首根っこを捕まえていた。


「マリカ隊長、私も参加させてください。隊長の力になりたいんです!」


「シオンは最初から頭数に入ってる。ナツメは集団戦術のレクチャーからは外すが、集団をサポートする個のレッスンを受けてもらうよ。」


「うん、頑張るの!」


「カナタ、リックとビーチャム、それにギャバンにも声をかけとけ。……逃げるな便利屋、あと一歩でも動けば殺すよ?」


ロブ、いくらおまえが隠密移動も得意っつってもマリカさんが見逃す訳ないだろ。諦めろ。


……アスラ最強の女傑二人が講師を務める地獄のレッスンか。だがやるしかねえな。ミコト様を護る為に、オレは御門の兵達の先頭に立たなきゃいけないんだ。




初代帝、御門聖龍から連なる龍の島きっての名門御門家。その守護役が三流大学中退の元大学生とか、なんの冗談なのかねえ。戦乱終結の大義を掲げ、出覇統一の偉業を為した神祖様も、人材の払底を嘆かれているに違いない。



※作者より

週4のペースで更新してきましたがちょっとペースダウンします。新作がなかなか好調なので勢いのあるうちに少し話を進めたいので。

週4のペースは変わりませんが、クローン兵士か、新作か、外伝のどれかの更新になります。

時間的に週4が限界なのでやむを得ない。新作は15万字前後で納める予定なのでそう長くはかからないとは思うのですが、まとめ下手なのでどうなるやら。




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