再会編21話 エクストラステージ



最強中隊長決定トーナメントの優勝を決め、勝利者インタビューを終えたオレはみんなとロックタウンまで祝勝会に繰り出し、テンガロンハウスで夜明けまで騒いだ。


シズルさんはオレが優勝する前提で、テンガロンハウスに貸し切り予約を入れてくれていた。トーナメント開催日が発表された日に予約を入れたってんだから、先走りが過ぎる。オレが負けてたらどうしてたんだ?……残念会になるだけか。


祝勝会にはコンマ中隊や1番隊の面々だけでなく、敗退出場者のみんなまで顔を出してくれて宴はおおいに盛り上がった。トリクシーやアシリレラ少尉、グライリッヒ少尉、ランス少尉、フィネル少尉、マリーさん、それにハウ保安官まで参加した祝宴……豪華な面子だぜ。


違う部隊の名だたる異名兵士達と面識が出来たのは大きな財産だ。アスラコマンドは助っ人部隊、同じアスラ閥の援護救援は最優先で行う。だから彼らとは肩を並べて戦う機会がきっとある。アスラ閥の若手指揮官に横の繋がりを持たせる、それも司令が意図したところだろう。


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明け方まで続いたバカ騒ぎのお陰で、目覚めたのは昼過ぎだった。私室の布団から起き出し、執務室へ向かう。


寂助の手を借りながら執務をこなし、一息入れる為に珈琲を淹れてもらった。


「天下無敵の司令が書類だけは苦手にしてる理由がよくわかったよ。山積みになった書類の束に、戦う前から戦意を削がれる。」


しかもオレの執務能力は司令より断然下だしな。ため息をつきながら珈琲を啜るオレを、含み笑いを浮かべた寂助がフォローしてくれる。


「お館様は書類慣れしておられぬので、余計にそう思われるのです。じき、お慣れになりまする。」


これに慣れろってか。勘弁願いたいな。オレがもう一度ため息をつくのと同時に、コンコンコンと三度ドアがノックされて牛頭さんの声がした。


「お館様、牛頭丸にござる。一大事、っぽい事が起きまして。」


一大事っぽい事? なんだそりゃ?


「入ってくれ。」


入室してきた牛頭さんに事情を聞いてみる。


「牛頭さん、一大事っぽい事ってなんだ? 意味がわからん。」


「左様。牛頭殿、一大事なのか違うのかハッキリしてくだされ。」


「大会の全出場者と司令、シノノメ中将、オプケクル准将、エマーソン少佐といったお偉方が訪ねてこられました。要件は不明ですが、面子からしてただ事ではありますまい。」


確かに一大事っぽいな。一体なんだってんだ?


「寂助、執務は中断だ。牛頭さん、来客は客間か?」


「いえ、中庭でお待ちです。」


中庭? イヤな予感がしてきやがったぞ。珈琲を飲み干したオレは牛頭さんと寂助を伴って中庭に向かった。


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中庭にはサクヤも含めた全出場者と、お偉方がオレを待っていた。


オレの顔を見たサクヤはニンマリ笑って親指を立てた。よかった、もう出歩けるところまで回復したんだな。


司令はクランド中佐、オプケクル准将はストリンガー教官を連れてる。それにマリカさんやシグレさん、大師匠の姿まで見えるな。……最強中隊長決定トーナメントの関係者全員集合といったところだが、一体なにが始まるってんだ?


シノノメ中将がオレに投げて寄越した訓練刀をキャッチ……そういうコトか。


「中将、エクストラステージってコトですか?」


「うむ。このステージは非公開、大会の関係者のみが観戦する。頑張ってくれたまえ。」


「ちょっと待ちなさいよ!それってズッコくない? 誰と戦わせるつもりか知らないけど、少尉は何も準備が出来てないわ!」


「全くだ!司令殿、これではお館様に不利すぎる!」


駆け付けてきたシズルさんと肩車されたリリスが文句を言ったが司令は取り合わない。


「シズルさん、リリス、これから奇襲をかけますって宣言してくる敵がどこにいる? 戦場に勝負始めの合図やゴングはない。で?……誰がオレの相手をするんだ?」


「……ワシだ。」


よりによって「神兵」クランドか。ま、司令じゃなかっただけマシだと思おう。


「シャングリラホテルで稽古をつけてもらって以来ですね。おっと、ミコト様もお見えになられた。王族を立ち見させる訳にはいかん。寂助、椅子を。」


椅子に腰掛けたミコト様とイナホちゃんが、心配そうな視線をオレに送ってきたので笑顔を返す。


二人の後ろに立ってるシオンとナツメは司令に文句を言いたげなので、目で制した。


「審判は私がやろう。クランド中佐、カナタ君、中庭中央へ。」


審判は大師匠が務めてくださるようだ。オレと中佐は中庭の真ん中で対峙し、刀を抜いた。観客ギャラリーは中庭外縁部に散って大きな円陣を作り、勝負が始まるのを待つ。


クランド中佐が蒼天を舞う鷹の如く上段に構えたので、対抗するべく地に伏せる狼のように下段に刀を構える。


「司令、先に確認しておきますが、オレは武器なしのハンデ戦なんですね?」


このエクストラステージの仕掛け人は司令以外にあり得ないからな。


「どういう意味だ?」


オレは訓練刀の根元に入ったわずかな亀裂を指で叩いてみせた。


「気付いたか、目ざとい奴め。」


不意打ちのエクストラステージ、さらなる仕掛けがないか警戒するのは当然でしょ? ましてや自分が大会で使った手だ。


司令から投げられた訓練刀を左手で受け取り、オレは右手に握っていた亀裂の入った訓練刀を地面に叩きつけてへし折った。


中庭にバキッと大きな音を響かせながら、折れた訓練刀が回転し、高く宙を舞う。


カランカランと地面を転がる訓練刀の残骸を見やった中佐は呟いた。


「荒れとるのう、カナタ。」


「その上段一刀構えにイラついてんだよ。……ナメてんのか?」


「ナメとる?」


「アンタ本当は二刀構えのはずだろうが!いつまでもヒヨッコ扱いしてんじゃねえ!夢幻双刃流剣士、鷲羽クランド!」


秘伝剣法、古武術については普段から調べてんだ!オレの使う夢幻一刀流は夢幻流から派生し、八熾家の秘伝剣法として伝授されてきた。


そして夢幻流から派生した剣法はもう一派ある。それが夢幻双刃流、御堂家の秘伝剣法……


「……イスカ様、見せてよろしいですか?」


「ああ。……見せてやれ。夢幻双刃流筆頭師範、鷲羽クランドの技を。」


頷いたクランド中佐は、腰の長脇差しを抜き、構えた。右手の刀を垂直、左手の長脇差しは水平、L字型の構え。これが司令やクランド中佐の本来の構えか。


……大したもんだぜ。夢幻双刃流の継承者と筆頭師範は今までの実戦でも本来の姿は見せてなかったんだ。


「兵団の一六九六にのまえむくろと戦こうて以来じゃのう、双刃流を使うのは……」


朧月真陰流の継承者と筆頭師範、夢幻双刃流の継承者と筆頭師範は二年前に戦っている。……その時以来なのか。


「さて、どこまで持ちこたえられるかな? 剣狼カナタよ!!」


長脇差しの一撃を啄木鳥で落として、百舌神楽で反撃。突きの連撃を繰り出しながら天狼眼でおのが刃を睨み、黄金に輝く刃と為した。


威力を増した突きを捌き損ねたクランド中佐の首筋に刀がかすり、皮膚装甲の一部が死滅する。


「持ちこたえられる? それがナメてるつってんだ!……殺す気でこい!」


そうそう、その目だ。やっと本気になったみたいだな。


オレに負けたパイソンさんやキーナム中尉、マリーさんにダニーが見てる。相手が誰であろうと無様は許されねえ!




勝った者は負けた者の想いを背負って戦わなければならない。……それが勝者の義務だ。



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