再会編19話 あっぱれカナタ、出覇一の兵
走る視界の端に貴賓席から敗退選手席まで降りてこられたミコト様が、両手をメガホン代わりに声援を送ってくれる姿が見えた。
そうだ、オレはミコト様を護る刃だ。誰が相手であろうと決して折れない!
挨拶代わりの咬龍をキーナム中尉は連節棍で受け、鉄球で反撃してくる。
オレは鉄球を屈んで躱し、脛を平蜘蛛で払ったがレッグガードで防御された。
「負ける要素はないと言ったが、そんな技で俺は倒せんぞ!」
「技で勝つなんて言った覚えはありません。」
トゲなし鉄球を握った拳で放たれるパンチ、だけどパイソンさんのパンチに比べりゃ安い安い。オレは左手でパンチを抑えて力比べを挑む。
「俺に力勝負を挑むだと!ナメるな!」
「オレには筋肉が足りてない、戦役の時にそう言ったでしょ? 足りてないかどうか、試してみな!」
上体の筋肉を隆起させたキーナム中尉はオレを抑え込もうと躍起になったが、押されながらも倒されはしない。
「ぐぬぬ……」
研究所で見た戦闘映像の中のアギトはパワーでも重量級を圧倒していた。ヤツと同じ体を持ち、準適合者になってるオレはパワーでもキーナム中尉と渡り合える!
「自慢のパワーはそんなもんですか?」
「抜かせ!これからよ!」
キーナム中尉が渾身の力を入れるタイミングで左腕を引く。前に流れるキーナム中尉の下がった顎に飛び膝蹴りを入れ、空中で一回転しながら回し蹴りで追い打ち。これはナツメに倣った技だ。
吹っ飛ばされて倒れたキーナム中尉が起こす上体を狼眼で睨む。
「ぐおっ!」
倒れた相手は追撃を警戒し、倒した相手を即、確認する。つまり、視線が必ずこちらを向くんだ。これはマリカさんから教わった。
目を抑えたキーナム中尉に素早く駆け寄り、横膝を刀で一撃する。出来る兵士ほど正中線を守る。人間の肉体は複雑な部位ほど壊しやすい。これはシオンから学んだ。
「思ったよりもやるな!だが俺の肉体はそんな攻撃では壊せん!」
両足をスパイラルさせて反撃しながら立ち上がったキーナム中尉は、まだまだ元気だ。
パワーもタフさも流石だが、特に驚きはない。死神に比べりゃ可愛いもんだ。
支えてくれる仲間、戦ってきた敵、全てがオレの財産だ。さあ、力を貸してくれ!
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「この!チョコマカと!」
連節棍の攻撃を流れるようなステップワーク、夢幻一刀流、流影脚で躱す。
「スピードで上回ってるんだ、活かすのは当然でしょ?」
回転の遅い連節棍の戻りに合わせて距離を詰め、迎撃してくる拳に空いてる左拳でカウンターを合わせる。これはシグレさんに習った技。
カウンターで拳が顔面にヒットしたのに、構わず腕を掴みにきますか。元プロレスラーらしいね。
コートはあげます、さようならっと。オレは軍用コートを変わり身に使って脱出した。サンキュー、シュリ。おまえの教えてくれた「羽織空蝉の術」しっかり役立ったぜ。
切れた唇の端から流れる血を手で拭ったキーナム中尉は、連節棍の鉄球をヒュンヒュン回して威嚇してくる。
バイケンや助九郎と戦った経験が生きてる。この手の武器への対処は体で覚えた。
飛んでくる鉄球を躱してダッシュ、置かれてる下段蹴りを軽く跳んで躱し、蹴り脚を蹴ってさらに跳ぶ。
ほらほら、オレの背中目がけて戻ってきた鉄球が自分に当たるぜ?
「かかったな!」
叫びながら吐かれた毒霧、だが口が開かれるのと同時にオレは夢幻一刀流、
戻ってきた鉄球をキャッチして殴ろうとしたキーナム中尉の腕に両足を絡め、地面に引き倒す。
「来ると思っていました。さっき唇を拭った時に口に含んだんですよね?」
「ぐぬぁ!腕関節がなんぼのもんじゃい!」
脚が絡んだままの左腕に構わず、強引にキーナム中尉は立ち上がって、オレを地面に叩きつけようとする。
おっと、叩きつけは御免だぜ。オレは顎先に蹴りを入れ、その反動で距離を取った。
最初のダウンの時、片膝を痛めつけた。そして今の強引な叩きつけへのトライで左腕も痛めたはず。元々回避は苦手なキーナム中尉に避ける術はない、片腕を痛めた今なら完全なブロックも不可能、ここで勝負だ!
「いくぜ!狼の牙を喰らえ!」
「やらいでか!こいっ!」
納刀したオレは滑るように駆け、四の太刀、咬龍、そして一の太刀、平蜘蛛へと繋ぐ。
そこから突きの連打の百舌神楽、天狼眼で怯ませての飛翔鷹爪撃、反撃してくる連節棍を啄木鳥で落として双牙双撃、身につけた技を状況に合わせてお見舞いする。
これが夢幻一刀流、九の太刀・破型、狼滅夢幻刃だ!
オレの全てを賭けた怒濤の連続攻撃をキーナム中尉はよく耐え忍んだが、連撃のダメージで腕が下がったところに百舌神楽がフルヒット、ローマ彫刻のような肉体美を誇った筋肉の巨塔が傾き、ゆっくりと倒れた。
やっぱりサクヤの杖牙龍のダメージが腕に残っていたようだな。神難女の意地と根性が勝利をアシストしてくれた。サクヤにたこ焼きを奢ってやんなきゃな。
司令がオレの右腕を取って掲げ、会場に響く美声で宣言した。
「勝負あり!勝者、天掛カナタ!!」
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オレを称える拍手と歓声に包まれたスタジアム。思えば何かで一番になったのって生まれて初めてかもな。
司令が担架で運ばれていくキーナム中尉を横目で見ながら、オレに話しかけてきた。
「完勝だったな。驚いたぞ。」
「最大の要因は相性です。オレは鎖付の投擲武器に慣れてましたし、回避が苦手なパワーファイター相手なら、技が荒くてもなんとかなるんで。」
「おまえの技はもう荒くない、荒い技ならキーナムはなんとか出来ていた。高い技術と重量級並みのパワー、そして軽量級を超えるスピード、さらに最強の殺戮力を持つ邪眼。総合力でキーナムより上だったのだ。」
「だといいんですが……」
「なにより、おまえはこの大会中にまた成長した。一回戦より二回戦、準決勝より決勝と、階段を昇るように強くなった。出来るものなら一回戦を戦った時のカナタと、今のカナタを戦わせてやりたいものだ。そうすれば成長を感じ取れるだろう。」
オレはテレパス通信で司令に答えた。
(司令、オレはもう自分と同じ顔をしたヤツと戦うのは御免です。)
ドッペルゲンガーと戦うのはもう十分だ。なんせ4度も戦ったんだから。
(フフッ、そうだな。……この大会を主催した甲斐があった。)
……まさか司令はオレの為にトーナメントを主催してくれたのだろうか?……いやいや、それは自惚れすぎです、カナタ君。優勝出来たもんだから、ちょっと天狗になってますな。
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アシリレラ少尉の作った砂の滑り台を使って闘技場に降りたミコト様とイナホちゃんがオレに駆け寄ってきた。
「あっぱれですわ、カナタさん!まさに
ミコト様、それは真田。大阪夏の陣で勇戦した真田信繁(幸村)は真田
「ミコト様、出覇一はちょっと……龍の島出身の異名兵士にはマリカさんや司令がいますから……」
「カナタさんはいずれ、マリカさんや御堂司令さえ超える兵になりますわ!」 「なるのです!」
そのハードル、滅茶苦茶高いんですけど。マリカさんや司令以上って世界最強ってコトですよ?
オレはぴょんぴょん跳ねてるイナホちゃんを抱え上げ、肩に乗っけてみた。オレの左肩の上で観客に両手を振るイナホちゃんに倣って、オレは右手を振ってみる。
「イナホ!代わんなさいよ!そこは私の席!」
「仕方ないからリリスは私が肩車してあげる。」
「隊長、おめでとうございます!」
「お見事です、お館様!」
三人娘にシズルさんも乱入してきましたか。
「おめでとさん、大将。なに奢ってくれるんだ?」 「肉に決まってんだろ!肉、肉、肉だぁ!」
ロブにダニーも降りてきたか。お祭り好きだな。
「肉は構わないが、野菜もちゃんと摂ろう。いいかい、食事はバランスが大事で……」
「そうよ。バランスのいい食生活は常日頃からの習慣付けが大事で……」
そこの似た者夫婦、お小言はまたにしようよ……
「めでてえ時は
ウォッカは毎日牛丼だよな?
「部下として自分も鼻が高いのであります!あ、もちろんお肉のご相伴には預かりますです!」
「ロックタウンにもいい店があるよ。こう見えて僕は肉にはうるさい方でね、同盟全土の肉の名店はあらかた制覇したグルメなんだ。」
「……坊ちゃん、以前にご無体かました俺らがロックタウンの店に行ったら、塩を撒かれるのがオチですぜ……」
わいわいがやがや、やかましいなぁ。おいおい、同志アクセルにコトネ、ゲンさん、雪風、ラセンさん、と。みんな闘技場に降りてきちまったのね……
「みんなで兄貴を胴上げだぁ!コンマツー、ゴー!」
「イエッサー!」 「大兄貴最強ー!」 「さすが私達コンマ中隊のリーダーです!」
みんなに胴上げされながらオレは叫んだ。
「やったぜ、母ちゃん!今夜は焼き肉だぁ!」
……考えてみれば、母の顔を知らないオレだった。めでたいからいっか。
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