再会編18話 試作機マニアの垂涎の的



控室に戻ったオレは椅子に腰掛け、大きく息をつく。わかっちゃいたが強敵だった。少しでもダメージを回復させなきゃいけない。


「隊長、視界に影響はありますか?」


心配性のシオンが腫れた瞼にアイスパックをあててくれる。


「問題ない。そんな心配そうな顔するなって。」


「少尉、とうとう決勝まできたわね!」


「ここまできたら優勝しかないの!」


「大将、優勝賞金で奢ってくれよ?」


ナツメとロブは気が早えな。セイウンさんもキーナム中尉もヤバい相手なんだぞ?


さて、どっちが上がってくるのか、見せてもらおうか。


──────────────────────────────────


準決勝第二試合、帰ってきた次元流剣士と正体バレバレのマスクマンの対決は静かな立ち上がりを見せた。


寄らば斬る、とばかりにどっしり構えたセイウンさんのジリジリと距離を詰めるキーナム中尉。ハンマーの投擲はセイウンさんに通用しないと踏んだみたいだな。


一歩踏み込めば連節棍の射程距離、だがセイウンさんの踏み込みはキーナム中尉を上回る。実際の射程距離はほぼ互角と見た。


強者同士の無言のせめぎ合いを、息を飲んで見守る観客達。ロックタウンを囲む山々に太陽が近付き、スタジアムの照明が点灯するのと同時にセイウンさんが動いた。セイウンさんはスタジアム照明を背後に、この瞬間を待っていたのだ。


だがキーナム中尉はそれを読んでいた。澱みない動きで居合を連節棍で受け、丸太のような足でキック、アテが外れたセイウンさんに浅手を負わせる。


「オープニングヒットはキーナム中尉が取ったか。逆光を読んでたみたいだな。」


ロブが呟き、リリスが毒を吐く。


「見た目は完全に脳筋だけど、ちょっとはオツムも回るみたいね。開始直後からサーモヴィジョンを使ってたんでしょう。」


だろうな。サクヤ戦で見せた投擲槌の奇襲といい、頭が回る。……スレッジハマーの副隊長がバカの訳ないか。


「それに鋭いキックでした。マットを倒したのもプロレス技、キーナム中尉は格闘も得意と見ていいですね。」


「シオン、キーナムは元プロレスラーなの。姉さんがそんな事言ってた。」


マジかよ。……おおかたアビー姉さんに負けてアスラに入ったんだろうなぁ。


プロレス上がりのパワーファイターは、力を技とし攻勢に出る。セイウンさんも体格はいいが、純粋なパワー比べでは分が悪い。けれど鍛えた技を駆使して互角に戦う。力と技の対決、軍配はどっちにあがるかな?


戦いの行方は一進一退、身体能力をトータルすればキーナム中尉が上に見えるが、セイウンさんはここぞの場面で攻撃を見切ってのカウンター、この逆撃にはキーナム中尉も手を焼いてる。迂闊に決めにいけば逆転を許すからだ。


少し下がって距離を取ったキーナム中尉は顔の前で両手を交差させながらパンプアップ、さらにパワー増した力技で一気に攻勢に出た。


「やっぱりキーナムは力技で決める気なの。」


ナツメ、それはどうかな?


「……そう思わせたいってコトかもな。」


「少尉、それはどういう意味?」


「パンプアップするのに両手をクロスさせる必要があるか?」


しかも顔の前でだ。なにかやったんじゃないか……そう、袖口に仕込んだなにかを口に含むとかな。


「隊長、元プロレスラーだけに派手なパフォーマンスが好きなのかもしれませんよ? この試合はプロレスじゃありませんけど。」


「いや、キーナム中尉はをやる気なんだ。」


力技の猛攻を見切ったセイウンさんの狙い澄ましたカウンターが繰り出される瞬間に、キーナム中尉は特大の毒霧を吐き、視界を奪う。


不発に終わった渾身のカウンターに、キーナム中尉のカウンターが決まり、決着がついた。


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メインイベントである決勝戦の前に設けられた一時間のインターバル、闘技場を舞台にショーが始まる。


ショーだけじゃなく、協賛しているアレス重工の新型バイクのデモンストレーションもやるのか。


「皆様、これが大会優勝者に贈られる新型バイク、「カブトGX」であります!」


ああ、そんなのもあったな。新型戦闘バイクねえ。


オレは何の気なしに、広報担当の解説するカブトGXの性能を聞いていたのだが……おいおい、スーパーマシンなんじゃないの、それ?


各種の最新鋭装備に武装、脳波誘導システムも搭載。だが愁眉なのは炎素エンジンだ。カブトGXの炎素エンジンは純結晶から抽出された炎素が使われているらしい。


この世界のエネルギー源は炎素、炎素は主に鉱石である緋水晶から抽出される。んで、この緋水晶には純度が高い純結晶ってレアものがあって、希少価値が極めて高い。


最強部隊の催したトーナメントの優勝者は極めて強い兵士。純結晶を使った自社製バイクを贈呈する価値があるとみて、アレスは張り込んできたな。……あのバイク、すげえ欲しくなってきた。


「カブトGXを基に開発されたカブトSXも発売予定か。廉価版とはいってもいい値がしそうだが、是非とも欲しいねえ。大将、カブトGXには試乗させてくれよ? 買うかどうかはそれから決めるからさ。」


ロブは便利屋というだけあってリガーでもある。この手のバイクにゃ目がなさそうだ。


純結晶炎素エンジンを搭載した試作機、カブトGXか。ハンマーシャークも試作巡洋艦だし、試作機マニアのオレとしては手に入れるしかないね。


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軍の広報部より民放の司会者に転職した方が良さげなチッチ少尉の声がスタジアムに木霊する。


「手に汗握る激闘の連続だった最強中隊長決定トーナメントもいよいよ最終戦、決勝の舞台を残すばかりとなりました!東、龍の門から登場するのは01番隊代表、「剣狼」天掛~カ~ナ~タ~~!!」


ドライアイスの白煙を金色のスポットライトが照らす。さあ、行くか!


最前列に設置されてる敗退選手用の特別席から立ち上がったダニーとトリクシーが声援を送ってくれる。


「おうカナタ、俺らの世代の代表として優勝しかねえぞ!」 「剣狼さん、頑張ってください!」


サムズアップで声援に応え、花道を歩く。


「お館さま、がんばれ~!」 「やさかの力をぼくらに見せて!」


任せとけ!新米当主は頑張るからな!


決戦場の中央で腕組みしたオレはMr.Xを待ちうける。


「西、虎の門から登場するのは「謎のマスクマン」Mr.X……ではありません!驚きの情報が入ってきました!なんとMr.Xはマスクを脱いでの登場です!」


ドライアイスの白煙が黒いスポットライト照らされ、その中を黒煙よりも深い、黒光りするマッチョボディが行進してくる。……お出ましだな。


闘技場に立ったMr.X改め、キーナム中尉は例によってボディビルダーのポージングを披露する。


「なんとぉぉー!!Mr.Xの正体はスレッジハマー大隊副長、ニアム・キーナム中尉でした!」


バレバレだったちゅーねん。チッチ少尉も大変だな。


「会場の皆様、これはレギュレーション違反ではありません!なんとキーナム中尉は今大会の為に副長を辞任、背水の覚悟で臨んでいたのです!」


明日には副長に再任されてるっての。驚愕から感動への完璧な表情の変化、チッチ少尉はマジで民放に行った方がいい。


自慢の肉体美の披露が終わったキーナム中尉はオレに宣言してきた。


「悪いな、カナタ。優勝は俺が頂く。」


「準が抜けてます、キーナム中尉。」


「ほう? 俺に勝てる気でいるのか。」


「負ける要素がゼロですから。」


開始前から火花を散らすオレ達の間に立ったチッチ少尉が、最後のマイクパフォーマンスを始めた。


「決勝戦は特別審判がジャッジします。それでは特別審判にして大会主催者、御堂准将の登場です!」


貴賓席からタラップが伸び、闘技場に接続された。そして千両役者のオレ様司令が万雷の拍手に片手を上げて応えながら闘技場に降りてくる。


役目を終えたチッチ少尉は退場し、司令はオレ達に目配せしてくる。


頷いたオレ達に開始線まで下がって、司令の合図を待った。


「それでは「剣狼」天掛カナタ対「黒真珠ブラックパール」ニアム・キーナムによる最強中隊長決定トーナメント、決勝戦を始める。……3、2、1、GOォォー!」





……刀を抜いてオレは走る。手の届く場所にある勝利へと向かって。



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