再会編14話 我ら死番隊、姿は人なれど羅刹に候
控室に戻ったオレはシオン、リリスと一緒にトリクシーとパイソンさんが戦う第四試合を観戦する。
ナツメはロブと一緒にカレーを食べながら観戦してるんだろう。
「始まったわね。焼き鳥さんはウィップアームにガトリング、やりたい事は見え見えだけど、いい手ではある。」
「ウィップアームで牽制しながら、ガトリングで攻撃。隙あらば絡めにいく。ケイヒル少尉の戦術は確かに理に適ってるわ。」
だが、理に適った戦術をマンパワーで粉砕するのが4番隊だ。
パイソンさんは高速で襲い来るムチをジャブで撃墜、放たれる弾丸はスウェーにダッキング、念真障壁を駆使して対処し、
そして上体を左右に振りながらダッシュするパイソンさん、だがトリクシーもジェットローラーをフル活用して懸命に距離を維持、近付かせないように腐心する。
文字通り、一進一退の攻防がしばらく続いたが、状況を変えたのはパイソンさんだった。
トリクシーのムチ捌きに慣れたパイソンさんは、飛んでくるムチの先鞭を
そしてムチを引っ張ってトリクシーの体を引き寄せる。観客達は勝負ありだと思っただろう。
だが、それはトリクシーの想定内だった。引き寄せられたトリクシーはパイソンさんの射程距離、そのギリギリ手前で肘から先を分離、そして二の腕に仕込まれたネットを射出した。
不意を突かれたパイソンさんだったが、そこは羅候の中隊長、驚異の反射神経で横っ飛び、全身を網に捕らえられるコトは防いだ。しかしパイソンさんは地面に倒れ、その両足には
「もらった!」
ガトリングガンの銃口を向けたトリクシーに、パイソンさんは不敵に笑う。
「詰めが甘えぜ、サイボーグ姉ちゃん!」
パイソンさんはしなる長い腕で地面を叩き、空中へ踊り上がる。
跳ぶと同時に形成した念真球を叩き、空中をジグザグに移動しながらトリクシーを強襲、その姿は樹上から獲物を襲う蛇そのものに見えた。
接近戦では小回りの利かないガトリングが得物のトリクシーは武器腕を掴まれてしまい、腕を掴んだパイソンさんは、あっという間に体を切り替え、
ものの数秒でトリクシーを絞め落としたパイソンさんは、靴下でも脱ぐみたいに足に絡んだネットを外して、右手と勝ち名乗りを上げた。
「ケッヘッヘッ、惜しかったなぁ。"我ら死番隊、姿形は人なれど、断じて人にあらず。人喰い羅刹に候えば"ってな。ウロコ姉さんはいい事言うねえ。」
トリクシーは知恵と力を振り絞って戦った。……だがそれでもダメなのか。
小癪な小細工など個の力で粉砕する、羅候の真骨頂を見せつけられたな。
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続く第五試合は、ロックタウン代表のハウ保安官と、10番隊代表のセイウン少尉か。
テンガロンハットを被った保安官はカントリーミュージックっぽい音楽にノって登場してきた。ショットガンを手に持ち、腰には二丁拳銃。うんうん、これぞ保安官って出で立ちだなぁ。ガーデンが出来てからはヒャッハーの襲撃を受けたコトはないロックタウンなのに、ハウ保安官は週に何度か出稽古にやってきて銃の腕を磨いてるんだそうだ。親子ほど歳の離れたトッドさんやキッドさんに頭を下げて教えを乞うあたり、誠実で頼れる保安官なんだろう。
対するセイウン少尉は
この戦いは、いい言い方をすれば花持たせ、悪い言い方をすれば片八百長だった。
セイウンさんは保安官にも十分見せ場を作ってから、勝負を決めた。保安官もそれには気付いたみたいだけど、何も言わなかった。この試合は同盟全土に中継されている。市民だけではなく、犯罪者だって見ているだろう。実力以上にショーアップされた戦闘能力が、ロックタウンの治安維持に役立つならそれでいいという大人の判断。インタビュアーの"健闘及ばず敗れたとはいえ、クリーンないいファイトでした"という言葉に"これは試合だから。だが綺麗事では街を守れない"と答えたのは、たぶんそういう意味だ。
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第六試合は07番隊代表のフィネル少尉とオプケクル師団代表のアシリレラ少尉の対戦。
啄木鳥VS砂女の対決は見応えがあった。開幕とともに一気に距離を詰めたフィネル少尉が繰り出す刺突剣の連撃を、アシリレラ少尉は砂で防御。アシリレラ少尉は卓抜したサイコキネシス使いで、特に砂を操る技術に長けていた。
オレもサイコキネシス使いだけに、アシリレラ少尉の技術の真価がよくわかる。オレより格段に上どころか、次元が違う。砂を飛ばして目潰しを狙い、硬化させて防御にも使う。さらに形状変化する武器としても使うのだ。革袋に砂を詰めたブラックジャックって殴打武器があるが、アシリレラ少尉に革袋は必要ない。
……リアル砂かけ婆だな。うら若き乙女っぽいアシリレラ少尉に聞かれたら殴り殺されそうだけど。
対するフィネル少尉も負けてはいない。アシリレラ少尉の攻撃は要所で念真衝撃球を発して防ぎ、硬化させた砂の盾すら刺突剣を貫通させる。……特にあの念真衝撃球は見事の一言。あの威力なら重量級でさえ吹き飛ばせるだろう。あれがフィネル少尉の防御の要なんだ。
どちらも譲らぬ激闘が繰り広げられ、アシリレラ少尉の打撃とフィネル少尉の突きが同時に相手の急所を捉えた。相打ちか?と会場は騒いだが、審判のクランド中佐が勝ちと判定したのはアシリレラ少尉だった。
雌雄を決する瞬間、アシリレラ少尉はフィネル少尉の刺突剣の先端に、ボール状の砂球を纏わり付かせていたからだ。
勝負を賭けた一撃が致命打にならなかったと認めたフィネル少尉は判定に頷き、アシリレラ少尉の手を自分の手で掲げさせた。最前列で声を嗄らして応援していたリムセの努力は実ったのだ。
もちろん、貴賓席で観戦していたオプケクル准将の周囲からは人がいなくなっていた。目出度さで屁が止まらんわい、と放屁するのがわかっていたからだ。
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第七試合、御堂財閥企業傭兵代表のグライリッヒ少尉の相手は05番隊代表のマットだ。
かたや戦闘博士、かたや無表情。激戦なのに冷静さを保ったまま、淡々と優れた頭脳で磨いた戦術を駆使するグライリッヒ少尉に対し、一切表情を変えず、黙々と鍛えた技で対抗するマット。
グライリッヒ少尉は六門流の技を徹底的に研究し、その攻略法は実戦でも有効だったのだろう。特設された隊長席で勝負を見守るイッカクさんが何度も考え込む様子を見せた。対抗策への対抗策を練っているみたいだ。
近代戦術と古武術の理合の勝負は白熱したが、勝負の決め手は理合ではなく根性だった。
追い詰められたマットが裂帛の気合いとともに繰り出した念真重力破が命中、グライリッヒ少尉をマットならぬ闘技場に沈めたのだ。
マットの手を借りて立ち上がったグライリッヒ少尉は、手を叩いてマットを称えた。
「……君は念真重力壁を形成出来ないとデータにあったのだが、切り札として隠し持っていたのだね?」
「隠していた訳じゃない。今、
「そうか。私とした事が戦闘中に成長する要素を計算していなかったな。この発見だけでも大会に参加した甲斐があったというもの。ふむ……戦闘能力総和Σを算出する数式に新たな要素……成長係数Πを加える必要がある。……Πは個々の資質、性格によって変動する可能性が大きそうだから、様々なデータを取り、統計から傾向を研究せねばなるまい。うむうむ、これはやりがいのある研究テーマだ。手始めにこの大会全戦のデータを基に……ブツブツ……」
呟きながら闘技場を後にするグライリッヒ少尉に、観客が拍手と歓声を送るが、数式に夢中のグライリッヒ少尉の耳には届いていないようだった。そして呆れ顔でその背中を見送るマット。
勝負に敗れたグライリッヒ少尉だったが奇跡を起こした。裂帛の気合いとともに見せたあの鬼気迫る顔、そして今の呆れ顔。「無表情」マットの鉄面皮を二度も崩してみせたのだ。
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「エッチ君!いよいよウチらの決戦の時がきたな!」
ノックもせずにオレの控室に入ってきたたこ焼き女は開口一番、そう言った。
「サクヤは次の試合だろ。サッサと準備に戻れ。」
「なんやねん、ノリが悪いなぁ。自分、そんなノリやと、学校にでも行ってたらボッチになってまうで?」
なってまう、じゃなくて実際にボッチだったよ、悪かったな。
「余計な節介だが、まず目の前の戦いに集中しなよ。Mr.Xのオッズは見てんだろ?」
「あったりまえやん。せやけど、勝つのはウチや。Mr.Xがどこのどいつか知らんけど、ボッコボコのギッタギタにしたんで!」
「はいはい、期待してるよ。」
「カナタ、ウチは必ず決勝までいく。せやさかい……アンタも負けたらアカンで?」
お調子者の神難女は、珍しく真面目な顔でオレの心配をしてくれた。パイソンさんがコッチのブロックにいるからだろう。
「ああ。オレも負けるつもりはない。……決勝で会おう、約束だ。」
「ウソついたら針千本飲ますさかいな!ほなな、次に会うのは決勝の舞台でや!」
サムズアップを決めてから、サクヤは控室を出ていった。廊下から聞こえるヘッタクソな口笛。騒々しくて元気な女だよ。
「少尉、あんな約束しちゃっていいの?」 「隊長、必ず決勝の場でサクヤを待ってあげてください。」
……気をつけろよ、サクヤ。Mr.Xが何者かわからないが、ハンパな相手じゃないコトは確かだ。
オレとサクヤの決勝戦、か。実現すりゃいいな。オレに出来るコトは、決勝まで勝ち上がるコトだ。
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