再会編15話 顔を隠してマッチョ隠さず
さて、いよいよ第八戦、たこ焼き女とMr.Xが対戦だな。
たこ焼き女の力はわかってる。知りたいのはオレやパイソンさんと並んで最低配当のMr.Xの実力だ。
この一戦をオレは隊長席で観戦するコトになった。マリカさんとシグレさんにお呼ばれしたからだ。
VIPエリアの一画にある隊長席に近付くとマリカさんに手招きされた。
「来たか、カナタ。丁度空いてる席があんだし、そこに座んな。」
隊長席には空席があった。やっぱりトゼンさんは見に来てなかったのだ。まートゼンさんにとっちゃ生き死にのない戦いは戦いじゃないんだろう。隊長席にはトゼンさんの苦手な大師匠もいるしな。
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先行入場してきたサクヤはやっぱりノリノリだった。芸能プロダクションが売り出そうとしてる新人アイドル達が生で歌う楽曲にノって、アイドル気取りで入場してきやがるとはな。
フン、調子に乗んな。ウチのナツメさんのがアイドル顔だかんな!いや、ナツメさんはそこらのアイドルよりはるかに可愛いのだ!
そしてXの文字が入ったマスクを被り、キラキラのマントで全身を覆ったMr.Xがご入場か。これまた新人ロックバンドの演奏する軽快な曲をバックに堂々と行進してくる。
闘技場に立ったMr.Xをサクヤは睨みつけたが、Mr.Xは意に介さず、キラキラマントをバッと脱ぎ捨て、鍛え上げられた肉体でサイド・チェストからフロント・ダブル・バイセップスとポージングをキメた。
勘違い野郎め、これは闘技大会でボディビル大会じゃねえってーの。……ってオイ!!
「なにやっとんねん、キーナム!!」
「俺はキーナムではない。「謎のマスクマン」Mr.Xだ。」
マスクマンの正体を言及するなどヤボもいいトコだが、オレが闘技場にいてもツッコんでただろう。
「うっさいわ!その黒光りするムキムキったマッチョボディ、キーナム以外の何者やっちゅーねん!!」
「フフッ、ブラックマッチョボディではキーナム中尉が一番、俺は二番だ。」
怪傑ズバットみてえなコト言ってんじゃねー!
「アビー、どういうつもりだ? キーナムはスレッジハマーの副隊長、出場資格はないはずだろう?」
シグレさんがアビー姉さんに抗議したが、アビー姉さんは屁理屈で応じた。
「キーナムは大会登録前に副隊長を辞任してる。問題ないだろ?」
仏頂面のマリカさんがシグレさんに加勢する。
「それで大会終了後に復帰する、か? イスカは認めてんだろうから四の五の言ってもしょうがないが、珍しく汚いやり口じゃないか。」
「ま、大目にみてくれ。アタシだって好きでやってる訳じゃない。キーナムがどうしてもカナタと戦いたいってゴネるから仕方なくだ。……ヘンに煽ったのがマズかったみたいだねえ。」
戦役の時に見たキーナム中尉のヤバイ目、アビー姉さんにどうしてもオレより強いってトコを見せなきゃ気がすまないってか。やっぱりキーナム中尉は我の強い異名兵士だぜ。
キーナム中尉は腰に装備していた
レスリングも得意だろうけど、サクヤ相手に徒手で余裕をかます訳にはいかないみたいだ。
サクヤも訓練刀を抜き、小さくジャンプを繰り返して臨戦態勢、やる気満々の二人をみたクランド中佐はルール確認をすっ飛ばして、開始の号令をかけた。
燕のように速く、浅いカーブの軌道を描いてサクヤは襲いかかる。サクヤはシグレさんの弟子ではあるが、ベースとなるのは心貫流、先制攻撃大好き女だ。
迎え撃つキーナム中尉は挨拶代わりに連節棍の先に付いたジェットハンマーを投擲、実戦用と違ってトゲトゲは付いてないが、まともに当たれば一般兵なら死にかねない威力があるだろう。
残像が見える程の速さでステップして躱したサクヤはキーナム中尉の懐に飛び込んだが、待ってましたの念真衝撃球が繰り出される。サクヤもこれは予想済みで素早くバックステップして再度踏み込み、払い斬り。
キーナム中尉は刀を右手の棍で受け、鎖を巻いた左拳のパンチ、サクヤはダッキングで躱したが……罠なんだよ、それは!バイケンや助九郎が得意なヤツだ!
パンチを引く拳には鎖が巻いてある。つまり拳を引く動作は、鎖を引く動作と一体……前傾姿勢から起こした上体の背中に鉄球が襲いかかる。
サクヤは天性のカンで背後からの鉄球を躱してのけたが、パンチと鉄球、上体を前後から襲う攻撃に注意を振られて足元がお留守になっていた。そこを見逃すキーナム中尉ではない。下段に払われた棍はサクヤの左膝を捉え、転倒させた。
さらにキーナム中尉は倒れたサクヤに容赦のないストンピングで追撃するが、サクヤは転がって躱し、片腕で倒立しながらのキックで反撃、キーナム中尉をよろめかせた。
その隙に立ち上がって態勢を整えたサクヤだが、踏むステップがおかしい。重心を右足にかけたステップ……さっきの一撃で左足を痛めたのか!
切れた唇の血を舐めたキーナム中尉は舌舐めずりした。サクヤの最大の武器である足を奪ったのだ。笑いたくもなるだろう。
「サクヤ、ギブアップしたらどうだ? エンターテイメントで大怪我もつまらんだろう?」
「なんや、もう勝った気か? 自分……考えが甘すぎんで!」
サクヤはジェット気流を痛めた足の補助に使って機動力を維持し、戦い続ける。足を痛めたら、はいお仕舞いなんて甘いタマじゃねえよな!そうこなくっちゃっよ!
キーナム中尉は右手の棍と左腕に巻いた鎖を駆使してサクヤの猛攻を防御、徹底的に守りを固めた。
ジェット気流で機動力を補えても、左足の使えないサクヤに重い一撃は繰り出せないと見切ってやがる。
……ジェット気流を常時使ってちゃ消耗は激しい。サクヤ、ガス欠になる前になにか手を打たなきゃジリ貧だぞ。
左腰を後ろに回して、あの手の動き……サクヤのヤツ、まさか……
離れた間合いで動きを止めたサクヤに、キーナム中尉は腰に下げた
最大出力のジェット気流で間合いを詰めたサクヤに、キーナム中尉は念真衝撃球を繰り出したが、サクヤも同時に念真衝撃球を繰り出して中和させる。そして、鞘を杖に使っての斬撃!
「エッチ君!技を借りるで!」
いけっ!サクヤ!
サクヤ渾身の杖牙龍が牙を剥き、黒光りマッチョに襲いかかる。キーナム中尉は棍を沿わせた右腕と、鎖を巻いた左腕のクロスアームブロックで全力防御!
サクヤの牙は棍を粉砕し、キーナム中尉の右腕にヒット。キーナム中尉の顔が歪む。
盾の一枚を引っぺがしたサクヤのさらなる牙がキーナム中尉に襲いかかったが……
「うぐぅ!!」
ミシリと鈍い音を立て、サクヤの背中に
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キーナム中尉は戦象D・Dと同じように脳波誘導ジェットハンマーも使うのか。
……まずいぞ、サクヤは中隊長レベルでは決してタフな方じゃない。
足と背中に大きなダメージを負っても勝負を捨てずに戦い続けたサクヤだったが、形勢は不利一色だ。いや、まだ倒れてないのを褒めるべきなのかもしれない……
「サクヤ!もういい!ギブアップするんだ!」
立ち上がったシグレさんがサクヤに呼びかけたが、傷だらけのサクヤは笑って答えた。
「いややなぁ、局長。こっからウチの逆転ショーが始まるんや。まあ見といて。」
「中佐、もう止めろ。勝負はついてる。」
キーナム中尉の言葉に頷いたクランド中佐が、両手を交差させて勝負を止めようとすると、サクヤが叫んだ。
「止めたら殺すで、ジジィ!!」
「サクヤ、もう勝負は…」
「終わってへん!ウチは…ウチは凜誠の斬り込み隊長、此花サクヤや!神難女のド根性を見せたんで!」
満身創痍のサクヤ、それでも……それでも万に一つの勝機に賭けて、戦うコトをやめない。
気力体力の限界以上を振り絞って勇戦するサクヤの姿は、見る者全てを感動させた。
……神難女のド根性、確かに見せてもらったぜ。
鎖ナックルのパンチを食らって吹っ飛ばされ、倒れたサクヤ。それでもまだ立ち上がろうとする。
「……まだや……まだ……負けて……へん…………」
刀を杖になんとか立とうと歯を食いしばるサクヤ、だけど……ついに力尽きた。
「勝負あり!勝者、Mr.X!」
決着宣言とともに防護ガラスを跳び越えたシグレさんが闘技場に上がり、サクヤを抱き抱える。
「……局長……」
「よく戦ったぞ、サクヤ。」
「ウチ、ウチ、凜誠の看板
「謝るコトなどなにもない。サクヤは凜誠の誇りだ。」
「……局長……ウチ、どないしても勝ちたかってん……」
「分かっている。目立ちたがりの負けず嫌いがサクヤのいい所だ。……キーナム、正々堂々、サクヤに勝ったなどと思うなよ?」
背中越しの言葉だから、キーナム中尉にシグレさんの険しい表情は見えなかっただろう。でも声音で険しさは伝わったみたいだ。
「シグレさん、そりゃどういう意味ですかい?」
「おまえはサクヤの対策を事前に練れた。サクヤはどうだ?」
「……そ、それは……」
シグレさんはサクヤを両腕で抱き抱え、闘技場を去ってゆく。途中で一度足を止め、貴賓席から闘技場を見下ろす司令を見上げて一睨み、か。……シグレさん、怒ってるな。
覆面バトラーの参戦は、ショーとしては盛り上がったんだろうけど、フェアかアンフェアかで言えば後者だ。
……キーナム中尉に優勝はさせない。面白かったらなんでもアリはお笑い番組だけでいい。サクヤは誰よりも真剣にこの大会に臨んでいた。……仇はとってやるからな。
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