再会編13話 鉄腕とレディサイボーグ
「おや、ここじゃあなかったかい。」
オレの控室にひょっこり顔を出したのはカーチスさんだった。
「誰かお探しなんですか?」
「おう、焼き鳥女を探してンだがな。」
焼き鳥女?
リリスがカーチスさんに向かって答えた。
「ポンコツリーゼント、ケイヒルって女なら隣の控室よ。」
「そうかい、隣だったか。……って誰がポンコツリーゼントだ、コラァ!」
……ポ、ポンコツリーゼント。ぷぷっ、上手いけどヒドいコト言うなぁ。
「口惜しかったら記憶回路でも増設してもらいなさいよ。脳ミソ足りてないんだか…もがっ!」
さらなる毒を吐こうとしたちびっ子の口をシオンがホールドし、毒の拡散を防ぎながら問いかけた。
「カーチスさん、ケイヒル少尉は焼き鳥が好きなんですか?」
「さあ? 焼き鳥の食の好みまでは知らねえな。酒を飲まないのは知ってるが。」
ケイヒル少尉のフルネームは、確かトリクシー・ケイヒルだったよな。……鳥……串……
「なるほど、鳥串だから焼き鳥女ですか。」
「そういう事よ。……そうだ!おい、納豆菌、おまえの悪知恵を焼き鳥に貸してやんな。得意だろ、悪知恵はよ?」
ロリコンの風評被害に狡いキャラまで追加かよ。オレはボヤッキーでもコスイネンでもねえっての。
「ケイヒル少尉の腕も闘法も知らないんです。作戦の立てようがありません。」
「いいからこいよ。おっぱい革新党の同志だろ?」
「隊長、前々から言いたかったんですが…」
「カーチスさん、行きましょう!」
こういう時は逃げるに限る。コンマ中隊のビジンダーには、しっかり良心回路が搭載されてるからな。
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「よう、焼き鳥。久しぶりじゃねえの。」
「カーチス大尉!それに貴方は剣狼さん……よね?」
椅子から立ち上がったケイヒル少尉が手袋をはめた手を差し出してきたので、握手した。
……固い。やっぱり手袋の中身は義手か。
「ゴメンなさいね、こんな腕で。貴方が震えてるのが分かるわ。怖い? それとも気味が悪いとか?」
「感動してるんだ。……これが、これが光輝く太陽電池の01ボディ……」
カッコいい
「わ、私の動力は炎素リアクターです……」
「聞こえる……ダブルマシンの轟く爆音が……」
爺ちゃん先生のアニメ特撮教室で、キカイダー01も視聴した。
爺ちゃんは"波平、彼こそが人気悪役のパイオニアじゃ"と言ってハカイダーにご執心だったけど、オレはやっぱり01が好きで意見が割れた。"ビジンダーも素敵"ってのは一致したけどね。
「カーチス大尉、私、剣狼さんがなに言ってるのかよくわからない……」
「気にすんな。頭はいい奴なんだが、頭のおかしい奴でもある。」
「……そうなんですか……」
今のオレには可哀想なモノを見る目も気にならない。このヒトの太股にはマクシミリアンtype-3も収納されてそうだからな。キカイダーでジバンな女軍人に会えた感動は忘れないぞぅ。
「おい、納豆菌。いつまで理解不能な感動に浸ってんだ。そろそろ正気に戻れ。ハンマーパンチを喰らわすぞ?」
変人28号に殴られちゃたまらんな。名残り惜しいがここまでにしてスイッチを切り替えよっと。
「カーチス大尉、アスラコマンドのお仲間を相手に戦う私にアドバイスはしにくいと思いますけど……」
「武器のチョイスに迷ってたんだろ? だろうと思ってきてみたんだ。かまやしねえからパイソンをボコボコにしてやれ。納豆菌、焼き鳥は全身の8割を義体化したサイボーグだ。前に教えてやったサイボーグ専用兵装は全て搭載出来る。ちょっとだけでいいから、俺と一緒に知恵を出せ。」
「カーチス大尉、前から言ってますけど、焼き鳥ではなくトリクシーと呼んでください……」
「お、おう。スマンスマン、ついクセでな。で、カナタ、オメエはどう思うよ?」
「近付かれたら終わりです。トリクシーさんの接近戦の技量は知りませんけど、パイソンさん以上とは思えない。」
「剣狼さん、トリクシーでいいですよ。私、今年で19。剣狼さんより年下です。」
へえ、そうだったんだ。キレーな顔の白人女性って実年齢より年上に見えちゃうよな。ウチのリリスもそうだけど。……アイツの場合は中身が大人みたい、いや、おっさんみたいだから一層そう思っちゃうのか……
「じゃあ遠慮なくトリクシーって呼ぶね。足にジェットローラーって装備出来る?」
「はい。闘技場はフラットですから使おうと思ってました。武器はウィップアームとガトリングでいこうかなって。」
「焼き鳥、ウィップアームは…」
「カーチスさん、焼き鳥ではなくトリクシーでしょ? 次に言ったら狼眼を喰らわせます。」
「狼眼はよせって。トリクシー、ウィップアームで絡めてガトリングで仕留める。いい戦術だがパイソンにゃ通用しねえ。パイソンの武器はガーデン一の握力だけじゃない。動体視力もパねえんだ。牽制は出来ても絡めるのは難しいだろう。納豆菌、悪知恵を絞れ。」
「と、言われましても。カーチスさんのアドバイス以上の知恵は浮かびませんね。」
「いいんです。自分の力で勝たなきゃ意味ないですし。……あ、あの……カーチス大尉、トーナメントが終わったら、また色々教えてください。」
モジモジしてる仕草も可愛い、素敵サイボーグさんだねえ。めんこいめんこい。
「おう。ロックタウンで飯でも食おうや。カナタもこいよ?」
「いいんですか?」
「是非!わ、私、あんなキラキラした目で見られたの初めてです!……キラキラの意味は分かりませんでしたけど……」
009-1を神アニメ認定してるオレの感動を分けてあげたいです。
「じゃあウチの中隊の連中も連れてくよ。あれ……この控室、普段は使ってないみたいですね。天井の隅に
「ああ、焼き…トリクシーもパーツの付け替えしなきゃならんしな。んじゃ、頑張れよ。」
「はいっ!私、頑張ります!」
両拳を握って、お返事する可愛くも健気な姿。先輩サイボーグのカーチスさんならずとも、応援したくなってくるねえ。
勝ち目は薄いだろうけど、可愛いサイボーグさんの健闘を祈ろう。オレの損得は抜きでだ。
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「……あれがカナタのギリギリのラインか。器用そうに見えるのに、案外、不器用な奴だったんだな。」
「……オレはパイソンさんの友達でもあるんで。」
「トリクシーは気付いたと思うか?」
「どうでしょう?」
例え気付いたとしても勝ち目は薄い。パイソンさんは死の4番隊の中隊長なんだ。
「俺もな、トリクシーがパイソンに勝てるだなんて思っちゃいねえ。瞬殺とか、一方的な展開でいいトコなしの惨敗とかだけ避けれりゃいいと思ってる。」
パイソンさんは空気を読まない。瞬殺できる相手は間違いなく瞬殺してしまうだろう。
「トリクシーとは義体繋がりで知り合ったんですか?」
「いや、俺が将校カリキュラムを受けにリグリットに行った時、統合作戦本部の食堂で偶然出逢った。挨拶程度で深入りする気はなかったんだが……」
「なにかあったんですか?」
「行儀と頭の悪い奴らが本部にゃいる。……アイツを、アイツを"ダッチワイフ"って蔑んだ本部のクズどもをな、半殺しにしてやったのさ。イスカは尻拭いに苦労しただろうが……どうしても許せなかった。」
ギリリと奥歯を噛み締める音、カーチスさんの怒りの深さが分かる。
「……そうですか。いいコトしましたね。」
トリクシーは望んでサイボーグになった訳じゃなさそうだな。
「お節介焼きの狼、事情を聞きたいのか?」
「いいんですか?」
「ちょっと調べりゃじき分かっちまう事だ。ナツメと一緒で広報部のバカどもの犠牲者でもあるからな。トリクシーは爆弾テロで両親と妹、生身の体を失った。だから彼女はサイボーグになり、テロ屋と戦う兵士として生きると決意したのさ。トリクシー・ケイヒルは現在、中将直属の対テロ部隊の戦闘班を率いてる。そうでなければ、俺がアスラに引っ張ってたんだが……」
テロ屋に家族と生身の体を奪われ、戦う宿命を自らに架したサイボーグ兵士、か。
……トリクシー・ケイヒル、彼女も歪んだ世界の犠牲者だったんだな……
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