再会編11話 炎と炎の饗宴



ホタルがシュリのところへ戻っていったので、オレは三人娘を控室に呼び、一緒に第二戦を観戦するコトにした。


冷静でクレバーなシオン、直感とセンスのナツメ、白兵戦は分野外だが観察力の鬼であるリリス、違った個性の違った視点から、率直な意見を言ってもらえれば大いに参考になる。


「炎槍ランスと炎壁ダニー、シオンはこの戦いをどう読む?」


リリスの問いにシオンは思案顔になった。


「パイロキネシス能力の優劣が試合の行方を左右するでしょうね。そこが互角であれば、本当に勝負が見えない。」


「アタッカーであるランスとガード屋であるダニー、その特性の優劣も影響すると思うの。」


うん、ナツメの言う通りだな。間違いなく言えるのは、この戦いは噛み合ってるってコトだ。


「……見て、二人とも。少尉がメチャクチャ悪い顔をしてるわ。」


「隊長、今の顔を画家に描かせれば「邪悪」というタイトルをつけられますよ?」


「カナタの考えてる事はお見通しなの。」


「ナツメ、隊長は何を考えて試合前からこんな悪い顔になってるの?」


「噛み合いそうな二人だけに消耗は避けられない。自分との戦いに万全の状態で挑める可能性は極々薄いだろう、なの。」


ばれてーら。ナツメはホント、戦闘に関しては頭が切れるぜ。


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第二試合は比喩と現実、両方の意味で熱戦となった。


炎槍を矢継ぎ早に射出するランス少尉に対し、ダニーは得意のフランベルジュを回転させる炎盾防御で対抗する。


「ダニーは距離を詰めませんね。でも一方的に守備に回っていてはジワジワ削られるだけで、いつまでたっても勝てない。……なにか考えがあるのかしら?」


ダニーと対戦経験のあるシオンが呟き、リリスが分析する。


「戸惑いもあるんじゃない? 珍しくダニーがリーチ負けしてる相手よ?」


ランス少尉はその名の通り、長大なランスが得物だ。長身で両手剣使いのダニーは、ほとんどの相手に白兵戦ならリーチで優る。ランス少尉は数少ない例外、という訳だ。


「うかつに飛び込めば槍ぶすま、だから逡巡してるのかも?」


ナツメのこの意見には賛同出来ない。ダニーの性格からして逡巡したりはしないはずだ。……ひょっとして誘ってるのか?


「ランスの一番破壊力のある攻撃は突進攻撃ランスチャージだ。突進攻撃には助走する距離がいる。ダニーはそれを待ってるのかもな。」


「ですが最大威力の攻撃手段は、最高に磨きをかけるのが兵士の常道。突進攻撃はランス少尉の得意技であるはず。そんな危険を冒すでしょうか? 私なら最大威力の攻撃をいかに封じるかを考えますけど。」


シオンならそうするだろう。だが最大威力の攻撃は、外した時のリスクも最大。ダニーはそこに勝機を見出すタイプだ。ましてやダニーは守備が自慢の防御型だしな。


ランス少尉もダニーの意図に気付いたみたいだ。そして気付いてもなお、やる気のようだな。


ランス少尉は売られた喧嘩は買うタイプか。それだけ技に自信を持っているというコトでもあるんだろうが……


助走をつけて疾走したランス少尉は、ダニーの手前で姿勢を低くし、炎を纏った大槍を上半身目がけて突き上げる。


ダニーは幅広のフランベルジュを横向きにして闘技場の床に突き刺し、己の腕力に地面の力を上乗せして防御、必殺の一撃を止めてみせた。


そして燃える穂先を両手で掴み、槍ごとランス少尉を場外にブン投げる。


場外に投げられたランス少尉だが、念真皿を形成し、リングアウト負けは免れる。


だが念真皿の上にいるランス少尉目がけて、助走をつけたダニーの跳び蹴りがヒット、防護ガラスに叩き付けられたランス少尉は、そのまま場外に足を着いてしまった。


「勝負あり!勝者、ダニエル・スチュアート!」


クランド中佐の手が上がり、ダニーは観客席にいるダミアンに向かって渾身のガッツポーズを見せた。


ダミアンは女の子が蕩けそうな素敵笑顔で頷く。師弟か上下かはわからんが、理想的な関係みたいだな。


「少尉の次の相手はダニーね。さて、考察に入るわよ。最低目標は少尉の勝利、最大目標は無傷の完勝。準決勝であたるパイソンの実力を考えれば、最大目標に近い事が望ましいわね。」


「まず隊長は地力でダニーを上回ってるわ。基本認識としてそこはいいわね?」


「うん。でもガード屋のダニーの守りは堅い。長期戦になればカナタだって消耗しちゃう。」


「ダニーは少尉の力を知っている。瞬殺出来るだなんて夢にも思ってないでしょう。慎重に戦いを構築して、僅かな隙に勝機を見出す。私がダニーならそうするわ。」


「でしょうね。ねえ、隊長がマリー戦で見せた射撃攻撃をブラフに使うってのはどうかしら?」


「あれでダニーの炎壁を崩せるかどうかは、やってみないとわかんないの。」


「みんなで考察を進めておいてくれ。オレは今のうちにロブの控室を覗いてくる。」


「えらく余裕じゃない。少尉、いくら地力で上回っているからって、ダニーを甘くみない方がいいわ。」


「甘くみちゃいない。ダニーがオレを知っているように、オレもダニーを知っている。既に勝ち筋は見えた。次の戦い、オレの読み通りならさほど苦戦するコトなく勝てる。だがオレの読みが外れた場合に備えて二の矢、三の矢の検討は任せるよ。」


「二回戦は一回戦が一巡してからだから時間はある。だから少尉の描いた勝ち筋ってのをまず知りたいわね。」


「カナタ、ヒント!ヒントちょうだい!」


「隊長、是非ヒントを教えてください。」


答えを教えろって言わないあたりが頼もしいよ。三人娘は常に自分で考えるコトを怠らない。


「ランス少尉の最大の技、突進攻撃に勝機を見出し、燃える穂先を迷いなく掴んで投げ飛ばしたのを見てわかっただろうが、ダニーは度胸と根性が長所の兵士だ。ところで、こないだ同い年6人で一緒に飲んだシオン、ダニーのヤツ、どて焼きを食べる時どうしてた?」


「辛いもの好きなのに添えられてた薬味の粉山椒や一味唐辛子に気付かず食べちゃいましたね。隊長が一味をかけて食べてるのを見て口惜しがり、もう一皿注文しました。」


「湯豆腐もそう。箸の使い方が下手クソで豆腐をバラバラにしちまった。豆腐すくいが付いてきてんだから使えっての。ま、飯の場だけで性格の全てがわかる訳じゃないが、ダニーは思い切りがいい反面、細かいコトには頓着しないタイプの人間に間違いなさそうだ。名家のお坊ちゃんなのに堅苦しい上流階級を嫌って兵士になったりするのがいい証左だな。これが第一ヒント。」


「カナタ、第二ヒントは?」


「ランス少尉の突進攻撃を地面の力を利用して止める。あれはその場の思いつきではなく、事前に作戦を考え、実行したんだ。戦闘開始直後から自分からは距離を詰めようとしなかった事実がそれを裏付ける。ダニーはひらめき、アイデアがある兵士、でも欠点もある。オレは将校カリキュラムでダニーと一緒だったんだけど、アイツは目の前の事には目一杯集中出来る。反面、足元はおろそかだったように思う。軍法の授業を担当したヒムノン室長の証言"ダニー君はなん条なん項までは完璧、だが号に見落としが多かった"だとさ。」


ダニーは幹を抑えるコトに集中し、枝葉に頓着しないタイプだ。考え方としてそれは正しい、ほとんどの場合はな。けどな、アセビの木のように、葉っぱに毒を持つ木だってあるんだぜ?




……ダニー、おまえ足元、いやがちゃんと見えてるか? 見えてなきゃおまえに勝ち目はないぜ?



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