照京編26話 夢のようだが、シャレにはならない



「貴様とオレと~は~♪同期の桜~♪ときたもんだ。」


楽しい飲み会を終えたオレは、シオンと一緒に娯楽区画を並んで歩く。


「ご機嫌ですね、隊長。」


いい気分で酔ってるねえ。一人酒も悪くないんだけど、仲間と飲む酒がやっぱり最高だ。


「ん~、もうちょい飲みたい気分だなぁ。二人でスネークアイズにでも行ってみようか?」


「いいですね。お付き合いします。」


オレとシオンは二人で二次会をやるコトにした。


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……チュンチュン鳴くのはスズメさん、か。……朝が来たらしいな。でもまだ目を開けたくねえぞ。


……途中からあんまり記憶がないんだが、しこたま飲んだのだけは覚えてる……


……ボリューミーでおっきくて柔らかい。オレ、抱き枕を買ったっけな?


答え、買ってません。……じゃあ……このおっきくて柔らかいモノは……


そ~っと目を開けたオレに、すやすや寝息を立てるシオンさんのお顔が映った。少し厚めの下唇がたまらなくセクシー!


しかもこの密着姿勢よ!ガーデン巨乳ランキングで上位入賞確実のシオンさんのおっぱいが、完璧にオレの体に押し付けられてる!


なんて幸せな目覚めなんだ!


だが覚醒したオレの意識が警告を告げる。若い男には生理現象がある。いや、生理現象がなくても、元気になっちゃうって、このシチュエーションは!


密着した体を離すべきだと脳が警告してるのに、体がいうコトをきかない!


リリスとナツメはまだシャレで済むがシオンさんはシャレにならない。まな板とペチャパイとは肉感度がダンチなのだ!……いや、リリスとナツメもシャレにはなってないかもだけど!


パチリとお目々の開いたシオンさん、一瞬の沈黙の後、状況を理解する。


「……た、隊長……」


「……おはようございます、シオンさん……」


「……おはようございます……」


至近距離で見つめ合いながら、間の抜けた挨拶なんかを交わしてみる。


シオンの頬がほんのり赤い。オレはもっと赤くなってるに違いないんだけど。


うわ!シオンさんの手がゆっくりオレの後頭部に回ったぞ!……こ、この流れは!


「……いい雰囲気のとこ邪魔して悪いんだけど、なんでこんなシチュエーションになってんのか、説明してくださるかしら?」


オレとシオンさんはバッと体を離して半身を起こした。アーティスティックスイミングに出られそうなぐらい、バッチリ動きがシンクロしてたんじゃないかと思う。


「シオンのズルっこ!抜け駆けは禁止なの!」


自分のコトを高い高い棚に上げたナツメが下着姿で、シオンの背中に張り付いた。


「違いますっ!これは違うのよ!」


「そうね。ほっとけば間違いを犯すとこだったわね。シオン!私とナツメの同衾にはさんざんお説教しといて、自分はオッケーな訳? そんなダブスタは認めないわよ!」


「あ!シオンのおっぱいの先っぽが…」


うぉい、ナツメ!服の上からとはいえどこ触ってんだよ!


「こ、こら!やめなさいナツメ!もう!触らないの!さぁ!朝ごはんの準備をするわよ!」


ナツメを振りほどいて立ち上がったシオンは、真っ赤な顔でエプロンを手にとる。


「……ふ~ん。ま、いくとこまでイっちゃった訳じゃなさそうだから、大目にみてあげるわ。ナツメ、目玉焼きの練習でもする?」


「目指せ、目玉焼きマスターなの!」


ほっ。どうにか修羅場を回避出来たようだな。


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朝食を済ませたオレは広報部のスタッフを連れてやってきたチッチ少尉とヘリポートで再会した。


「お久しぶり、天掛少尉。」


ヘリから降りてきたチッチ少尉と握手を交わし、本題に入る。


「昇進おめでとう、元気そうでなによりだ。さっそくだけどチッチ少尉、小作戦室をスタジオ風にセッティングしてある。スタッフを連れて生放送の準備を頼む。全同盟領に配信してくれ。」


「天掛少尉も司令に倣って強引になってきましたね。番組のゲストは誰です?」


「オレとミコト様だ。小作戦室でスタッフは配信の準備、オレ達はその間に打ち合わせをしよう。番組は正午にオンエアする。」


「正午でしたらまだ時間もある。同盟の公共放送だけでなく民放にも話をつけます。」


「出来るのか?」


「民放の偉いさんにもコネがありますから。強引なのは天掛少尉だけじゃない、という事です。」


「強引矢の如し、いい言葉だな。」


「光陰矢の如し、でしょう。仕方のない方だ。」


オレはチッチ少尉とスタッフ達を連れて、ミコト様の待つ小作戦室へと向かった。


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即席スタジオとなった小作戦室で、同盟全土に放映される生中継の収録は始まった。


照京のクーデターについてチッチ少尉が簡単な解説を済ませ、本題に入る。


「オレはクーデター発生前の照京で雲水議長と面談し、御門家への帰参を認められた。」


「天掛少尉は照京の侯爵、八熾家の血を引くお方でしたね。帰参を許されるにあたっての条件とはどのような内容だったのか、お伺いしてもよろしいですか?」


「帰参の条件とは、ここにおられるミコト様を何があろうと護れ、というモノだった。このコトはガリュウ総帥もミコト様もご存知で、御門家の意向でもある。それはミコト様を敬愛するオレの望むところでもあり、喜んで受諾した。」


大嘘もいいとこだが、戦時においては正直は美徳じゃない。


「天掛少尉は八熾宗家、一族の恨みは水に流したと仰るのですね?」


「水に流すもなにも、八熾家の変事にミコト様は無関係だ。生まれてさえいらっしゃらなかったのだから。」


左龍、我龍総帥の悪政については言及しない。政治戦とは、自分の正当性を最優先させるものだ。ミコト様には言えない話だが、総帥が処刑されれば即座に方針転換し、ミコト様は悪政に抵抗した善意の貴人になってもらうつもりでさえいる……


「なるほど。ミコト様、天掛少尉の仰った事は、間違いない話でしょうか?」


「はい。八熾一族を帰参させたいという私の嘆願を父は了承してくれました。離散していた八熾一族は、ミドウ司令のご厚情で今はロックタウンで暮らしています。先日、私は天掛少尉と共に八熾一族と面談し、御門と八熾はもう一度手を取り合おうと約束致しました。」


ミコト様とオレとチッチ少尉の対談形式で、同盟全土にこの放送を配信する。狙いはミコト様が御門グループの長であるコトを知らしめるコトと、もう一つ……


「素晴らしい!八熾の狼達は龍の下へ帰参したという事ですね!」


芝居なのに芝居がかった様子は見せずに対応する。チッチ少尉は中々の役者振りだ。


オレは負けずに出来るだけ厳めしい顔を作って重々しく頷き、口を開く。


「もう一つ、会談の場で雲水議長から言われたコトがある。万一、照京が機構軍の手に落ちた場合、条件の如何に関わらず、断じて取引には応ずるな、とね。」


「それは確かなのですか!?」


チッチ少尉は顔芸も上手いな。さすが宣伝戦のプロだ。


「確かだ。今思えば総帥も議長も、照京に迫る陰謀に感付いておられたのだと思う。ハシバミ少将の裏切りまでは予見されてはいなかったようだが……」


「し、しかし総帥や議長は現在、機構軍の捕虜となっています。もし機構軍がミコト姫が投降しなければ、総帥を処刑すると通告してきた場合はどうされるのですか?」


完璧な演技で苦渋の表情を浮かべるチッチ少尉に、演技ではない苦渋の表情を浮かべたミコト様が答える。


「応じません。私と父の身柄交換を要求してきた場合でも同じです。彼らが約束を守るとは思えませんし、父も私も公的な立場のある人間、公人には情念より先に、果たすべき義務があります。父を見捨てた娘という汚名は甘受いたしましょう。」


「ご立派なお覚悟です。投降せねば総帥を処刑する、そんな非道を平気で突き付けてくるほど、機構軍は堕落していないと思いたいですね!」


「私もそう願っています。……心から。」


そんな感じで収録を進め、オレとミコト様は宣伝戦の口火を切った。




さて、この放送を見た機構軍はどういう反応をしてくるかな?


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