照京編25話 アスラ部隊第十番隊「衛刃」
シグレさんの道場には照京を逃れてきた本部道場の門下生達と凜誠の隊士達でごったがえしていた。
本部道場門下生VS凜誠隊士で交流戦を行っているようだ。
ヒサメさんやアスナさんといった中隊長とまともに打ち合える猛者が高弟にはいるようで、即戦力になってくれそうだな。
「シグレにカナタ君か、よく来たね。」
「父上、よく来たもなにも、ここは私の道場です。」
文句を言いつつ、それでも父に上座を譲って座るシグレさん。達人親子の揃い踏み、か。
「ハハハッ、そうだったそうだった。シグレ、良い弟子に恵まれたようだね。」
「不肖の師には勿体ない弟子達です。」
シグレさんが来るのを待ちかねていたサクヤが立ち上がってアップを始める。師匠と大師匠の前でいいトコを見せる気だったな?
「よっしゃあ!エッチ君、戦役も終わった事やし、もっぺん勝負やで!」
なるほど、リターンマッチの機会も待ってやがったのか。負けず嫌いだな。
「パス。」
張り切っていたサクヤは、ズコッと前につんのめる。
「なんでやねん!ウチから逃げるんか!チビリ!おびんたれ!」
オレは袖をまくって包帯が巻かれた腕を見せた。
「兵団の鉄拳から受けた戦傷がまだ癒えてない。怪我人に勝って嬉しいのか?」
「む~!そういう事ならしゃあないわ。勝負はまた今度にしといたる。」
サクヤは負けず嫌いだけど、ハンデを抱えた相手に勝って良しとする性格じゃない。アホのコかもしれんが、フェアな神難女だ。そこんとこは尊敬出来る。
「サクヤ、カナタさんとの再戦までに脳味噌を補充しておきなさいね?」
アブミさんの辛辣な台詞にサクヤは頬を膨らませる。アホのコじゃなければシグレさんに次ぐ凜誠ナンバー2ってのがサクヤの評価だからなあ。
「副長、ウチかていつまでもアホのコちゃうで!戦役でめっさめさパワーアップしたスーパーサクヤちゃんの力を見せたるわ!誰でもええからかかってきい!」
サクヤ、戦役を戦い抜いて強くはなったんだろうが、台詞はアホのコのまんまだぞ。
「では私が相手しよう。かかってきなさい。」
訓練刀を手に立ち上がった大師匠に、パワーアップしたはずのスーパーサクヤちゃんの声が裏返った。
「い、いくらウチが天才でも、いきなり局長のお師匠は……」
「カナタ君は兵団の鉄拳バクスウを退けたよ? 私と勝負出来ないようではカナタ君との再戦も先行きは暗そうだが?」
「マジで!エッチ君、お爺ちゃんがギックリ腰でも起こしたところを不意打ちでもしたんやろ!」
ンな訳ないだろ。そんな甘い爺様ならさっくり殺して仕舞いだ。
達人VS燕剣の戦いはみんな興味があるらしく、手を止めて道場の端に座ってゆく。
「サクヤと違って隙がなかったから始末に悪かった。やっぱり敵はアホのコに限る。」
ほら、ギャラリーが増えたぜ。サクヤは注目されんのが好きだよな?
「きぃぃ!再戦する時、ひ~ひ~言わせたるさかいな!では局長のお師匠、一手指南をお願いします!」
「うむ、きなさい。」
一礼したサクヤはいきなりジェット気流に乗って、連撃を仕掛けた。サクヤはアホのコだが戦闘センスは本物だ。格上にどう対処すればいいかはわかっている。
「ほう、パイロキネシスのジェット気流とは!」
燕剣の異名通り、燕のような動きで大師匠の周りを飛びながら矢継ぎ早に刀を繰り出すサクヤ。
対する大師匠は最小限の動きで刀を躱し、反撃する。
「ふむ。ベースは
「当たりやで!あとでタコ焼き奢ったるわ!」
おい、サクヤ。減らず口を叩くのはいいが、相手は同盟軍剣術指南役で、シグレさんの実父で、鏡水次元流前継承者の「達人」だぞ。
「なかなかいい動きだ。自分の特性をよく理解し、理にも適っている。」
「おおきに!せやけど本番はこっからやで!」
さらに速さを増し、勝負をかけるサクヤ。だが見切りの達人はマックススピードのサクヤの体術と剣技すら見切ってみせた。
「ちぃっ!まるで局長のコピーを相手にしてるみたいで厄介やわ!」
ちゃうちゃう。順序から言えば、シグレさんが大師匠のコピーなんだよ。見切りの本家は大師匠!
んでアホのコさん、罠に気付いてっか? 大師匠はただ躱して反撃してんじゃねえんだぞ?
頃合いはよしと、カウンターではなく、自分から打って出る大師匠。
躱そうとしたサクヤの背中が壁の羽目板に当たった。
「うそやん!」
壁際から脱出しようと動いた先に刀が置いてあって、勝負あり、だ。
「先生、お見事です。相変わらずの技の冴え、感服しました。」
アブミさんは大師匠にタオルを渡し、サクヤにはタオルを投げた。そっか、アブミさんも大師匠の直弟子だったな。
「ありがとう。これなら第十番隊の隊長は務まるかな?」
第十番隊隊長!?
「父上もアスラ部隊に入隊されるのですか!?」
娘の問いに父は頷いた。
「うむ。ミドウ司令にスカウトされてね。道場を失って行くあてもなかったから渡りに船だった。」
「同盟軍剣術指南役はどうなされるおつもりです?」
「辞任する。照京陥落の責任を取ると言えば通るだろう。無理矢理押し付けられた指南役に未練などない。」
「父上も実戦に復帰ですか。」
「第十番隊の主な任務はガーデン駐屯兵の教練とミコト様の護衛だと聞いているから、シグレ達ほど実戦の場に立つ機会はなさそうだけれどね。……私の部隊は「衛刃」とでも命名するか。」
アスラ部隊第十番隊「衛刃」か。やった、ミコト様に最高の護衛部隊がついたぞ。達人トキサダと次元流の高弟達が傍にいるなら、ガーデンの外に出るコトがあっても万全だぜ!
────────────────────────────────────
数日後、ザラゾフ元帥と入れ替わった司令が、ゴロツキを引き連れてガーデンへ帰投してきた。
司令の帰投を待っていたように機構軍が神難に侵攻してきたのだが、災害ザラゾフによってあっさり撃退されたようだ。
「ただ、その戦いのMVPはザラゾフ元帥ではなかったらしいんだ。」
居酒屋「鳥玄」でオレと酒を酌み交わすシュリがそう教えてくれた。
「完全適合者の災害ザラゾフ以上の働きを見せた兵士がいたってのか?」
「5人の異名兵士を一度に相手にして、無傷で完勝してのけた兵士がいたんだってさ。」
「異名兵士といってもピンキリだが、5人を相手に無傷の完勝はスゲえな。なんてヤツなんだ?」
「K、というらしい。」
「K? コードネームか?」
「だろうね。なんでもKは新開発の凄まじい防御システムを実装しているらしい。その防御力は兵団の守護神が搭載してる「ガーディアンGBS」以上なんだそうだ。司令は対死神用に調整された超人兵士だろうって言ってたな。」
死神に対抗する為に調整された超人兵士Kねえ。念真強度1000万nに人外の怪力を誇る死神は、世界最強の物理攻撃力を誇る。最強の矛に対抗するには最強の盾、か。
「悪い悪い、遅れちまったな。」
「遅いぞ、ダニー。軍人は時間厳守が規範だぜ?」
「カナタに軍人の規範を説かれてもなぁ。アンタが空蝉修理ノ助だよな。俺はダニエル・スチュワート。ダニーでいいぜ。よろしく!」
「空蝉修理ノ助だ。僕の事はシュリでいい。よろしく、「炎壁」ダニー。」
「おうよ。お姉ちゃん、俺にも生中ひとつね!しかしシュリ、アンタはクリスタルウィドウの中隊長だってのに、異名がねえんだな。」
神速で現れたキワミさんが手際よく生中のジョッキと突き出しの小皿をテーブルに並べ、風のように去っていった。
「……スゲえ身のこなしの店員さんがいるな。さすがガーデンだぜ。」
火隠衆隠密上忍のバイトもやってる店員さんだからな。
「ダニー、シュリに異名がないのは理由がある。」
「ヘボいから、とか言うなよ?」
「逆だ。シュリの芸を見たヤツは必ず死ぬからさ。」
オレの台詞と同時に、シュリが持ち芸の眼鏡キラーンを披露する。
「おっかねえなぁ。とりあえず同期の桜で乾杯しようぜ!」
同い年ってだけで厳密には同期って訳じゃねえけどな。細かいコトは気にしないが。
「おう!」 「同い年同士で切磋琢磨しよう!」
同い年三人で楽しく飲んでいると、シオン、ホタル、コトネの三人が連れ立って店に入ってきた。
「隊長、どうしたんですか?」
「どうしたもなにも、同い年の三人で飲もうって話になっただけだよ。」
「あら、奇遇どすなぁ。ウチらも同い年の三人で飲みに行こうって話になったんどす。」
「いいねいいね!んじゃあよ!座敷に移動してみんなで飲もうぜ~!」
美人を目にしてテンションの上がったダニーは、返事も聞かずに席を立った。
ま、ダニーのご要望通りみんなで飲むか。6人全員同い年、同期の桜みたいなモンだしな。
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