照京編21話 クソ親父の教え
ミコト様は父親の暴挙で愛する人を喪った、か……
……またかよ、この手の話はもうウンザリだ!なんだってこの世界はこんなに残酷なんだよ!神様がいるのかどうか知らねえが、悲劇の大全集でも編纂したいってのか!ざっけんな!いい加減にしろ!
だけど……だけど、オレはこの星で生きると決めたんだ!!
……目を逸らすな。目の前の現実が気に入らないなら、現実を変えろ、か。オレのクソ親父のありがたくもねえ教えだが、確かにそうだよな。
過去は変えられないが、未来は変えられる。
目の前にクソみたいな現実が横たわってるんなら排除するまでだ!オレはもう二度と自分の殻の中に逃げ込んだりしない!手始めに自分の周りにだけでも「程々に妥協出来る世界」を作ってやらあ!
「ミコト様、オリジナルの意思だかなんだか知りませんが、死神が自らの手でミコト様を殺す為に現れたら、オレがヤツを殺します。」
「……カナタさん、私が桐馬刀屍郎の手にかかるのはやむを得ざる事。御門家によって葬り去られた叢雲一族の怨念が、我が身へ返ってきただけの事なのです……」
「怨念? ンなモン知るか!だいたい御門家によって、じゃない!御門
「……カナタさん……」
「ミコト様は大昔に叢雲トーマとそんな約束を交わしたかもしれませんが、オレとの約束はどうなるんです? オレの為にもなにがあっても生き抜く、と約束したあの言葉は? その場限りの嘘だったんですか?」
「………」
「答えてください!嘘だったんですか!」
「いいえ。カナタさんの為にも生きたい。あの言葉は嘘ではありません。」
「
「いけません!八熾と叢雲が再び争うだなんて!真祖、聖龍様がどんなにお嘆きになる事か……」
「再び争う? 叢雲家と八熾家は照京の御三家、御三家同士で争ったコトがあるんですか?」
「御門宗家にのみ、口伝で語り継がれる伝承があるのです。大昔、まだ出覇が龍の島と呼ばれる前の事です……」
ミコト様は御門家に伝わる伝承を語り始めた。
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戦国の世に生まれた御門聖龍は、武門に長じた仇敵同士である八熾一族と叢雲一族を和睦させる為に、腹心である御鏡家当主、ただ一人を伴い、両家と談義する席を設けた。
聖龍の申し出を相争う両家の惣領は鼻で笑った。
「酔狂も程々にしておけ。御門家には関わりなき事じゃ。」
「ほう? 初めて気が合うたな。聖龍、我らを和睦させた功がそれほど欲しいか?」
嘲笑する惣領と一族の重鎮達。だが聖龍の決意は尋常ではなかった。
席を立った聖龍は小太刀を構え、邪眼を持つ惣領二人に口上を切る。
「憎しみあい、殺し合う両家を和合させるにタダとは言わぬ。私の命を以て、誓紙を交わす。これなら異存あるまい!」
小太刀で手首を切った聖龍は、滴る血で誓紙に名を記すように迫った。
「聖龍様のお覚悟に感服した両家の惣領は和睦の誓紙を交わし、両家の争いは終わったのです。」
戦国時代とはいえ真祖様も無茶苦茶するな。恐ろしい。
「じゃあ真祖様はそこで命を落としたんですか?」
「いえ、手当てが功を奏し、奇跡的に快癒されました。八熾、叢雲の惣領は両家の為に命を捨てるお覚悟だった聖龍様に力を貸す事を約束され、聖龍様の天下統一の覇業が始まりました。神器を宿す人器を擁する三つの家に支えられた聖龍様を止められる者などなく、天下は統一され、泰平の世が実現したのです。天下を統一された聖龍様は三家を御三家とし、国を統治する三権を与え、自らは出覇統一の象徴として帝となられました。帝が
固い絆で結ばれた帝と御三家、だが泰平の世が続く間にタガが緩み、再び帝が政を行うようになったんだな。
龍紋を持つ御門家による天下統一がなされたがゆえに、龍の島と呼ばれるようになった、か。
この話はいい材料でもある。八熾と叢雲はかつての仇敵同士だった。つまり、八熾は叢雲と互角に戦える力を持ってたってコトだよな。今は力足らずでも、オレには死神と互角にやり合える力が眠ってるんだ!
「ちなみに一番手こずった敵ってどんな相手です?」
「自らを真の龍と称する朧月家と、策謀に長じた御堂家です。手を結んだ彼らの連合軍と聖龍様率いる照京軍は天下分け目の決戦に臨み、手を携えた御三家の働きによって照京軍が勝利しました。」
……やっぱな。まあ刻龍眼とやらがナンボのモンか知らんが、御三家が力を合わせりゃ敵じゃないよなあ。
神虎眼、天狼眼、聖鏡眼、三人の凶悪な邪眼持ちが居れば、古代の戦争では敵無しのはずだ。
「そんな歴史があったんですね。ですが歴史は歴史、死神が自分の手でミコト様を殺すつもりなら、オレが迎え撃つ。殺すつもりがないなら、放っておきますけど。」
別に死神に恨みがある訳じゃないからな。それにヤツは"話の通じるヤツ"のような気がする。
「カナタさん、極力、死神との戦いは避けてください。」
「もちろんです。」
死神はローゼの安全装置でもあるしな。ミコト様の敵じゃないなら、生きててくれる方が都合がいいんだ。
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翌日の早朝、マリカさんを伴った司令が神難に到着した。これで一安心だ。
司令はマリカさんに照京の情勢調査を命じた後、強権にモノを言わせて神難の防衛指揮権をもぎとり、迎撃準備を開始した。
おっつけ他の大隊も到着するらしいし、もうなんの問題もない。
司令はミコト様や大師匠と面談した後、オレに呼び出しをかけてきた。
軍司令部別館の司令室に出頭したオレは、ドアをノックする。
「司令、カナタです。」
「入れ。」
部屋の中にはいつものように椅子にふんぞり返った司令のお姿があった。どこにいようが、このオレ様っぷりよ。頼もしいねえ。
「失礼します。あれ? ボーリングジジイはいないんですか?」
まさかボーリング場に行ってる訳じゃないだろうけど。
「クランドは迎賓館に移ってもらったミコト姫の護衛だ。私の親衛隊もつけているから安心しろ。」
神兵クランドと司令の親衛隊が警護についたなら安心だな。
「助かります。それでオレになんの話ですか?」
「茶飲み話だ。まあ座れ。」
着座したオレにインスタントコーヒーを淹れてくれる司令。珍しいコトが重なったな。
「司令にコーヒーを淹れてもらうのも初めてですが、インスタントコーヒーってのも珍しい。雨でも降らせたいんですか?」
「グループ企業の新商品なのだ。特殊な製法でインスタントだが本格的な珈琲の風味を実現した……らしい。」
珈琲を口にした司令は、満足げな顔をした後、少し眉を顰めた。
「薫りは本格的っぽいですが、やっぱり味はインスタントですね。それでも並みのインスタントより、はるかに出来がいいですが。」
「そのようだな。まあ、十分売り出せる出来栄えではある。」
「新商品の試飲会ならオレよりリリスのが、よかないです?」
リリスさんは神の舌を持つちびっ子だからな。
「試飲会ならな。ミコト姫と話したのだが、カナタを御門グループの企業兵指揮官として迎えたいと打診された。早い話が、ヘッドハンティングだな。」
「司令はなんと答えたんです?」
「半分は受け、半分は断った。」
「半分?」
「私は手に入れた人材を吐き出すのは嫌いでな。ゆえに、カナタをアスラ部隊から出すつもりはない。だが御門グループとは連携したいので"場合によってカナタをレンタルしてもいい"という話で折り合いをつけた。」
サッカー選手のレンタル移籍みたいなもんか。オレの意思は無視ってトコが違うが……
「オレに異存はないですが、事前に意思確認はして欲しいものです。」
「今後の検討課題にしておこう。前向きに善処する。」
ウソつけ。検討はしたが却下するって確定してんだろ? "前向きに善処する"って台詞は"なにもしません"と同義だって、財務官僚やってる親父が言ってたぞ。
「司令、御門グループを吸収合併しようってんなら、そうはいきませんよ?」
「ほう? そっち方面で私と張り合う気か?」
無理だな。経済分野でオレが司令に太刀打ちするなんて、ヒノキの棒でバラモスを倒すようなモンだ。
だがオレに無理なら出来る誰かに代理戦争をやってもらうまでだ。権藤だったらやれるかもしれない。
「……どうでしょうね?」
「フフッ、そう怖い顔をするな。私にそんな気はない。前にも言っただろう。ミコト姫には私に協力してもらいたいだけだと。どうもカナタは私のコトを誤解しているフシがあるな。」
誤解を招く行動をしてるのも事実でしょ? とにかく司令の言動、行動にはケレン味がありすぎる。
「だったらいいんですが。じゃあ本題に入りましょうか。」
「本題?」
「照京を制圧した機構軍がどう出てくるか、その話じゃないんですか?」
「鉄拳バクスウがおまえを"羽化しつつある怪物"と評したようだが、正鵠を射ている。伊達に歳は喰っていないようだな。……いいぞ、剣狼カナタ。私の為に怪物になるのだ。」
悪い顔で笑う司令。ホントに嬉しそうですね。
しかし、善良な小市民のオレを捕まえて怪物呼ばわりかよ。……小市民ではあっても、善良ではないかな。
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