照京編20話 遠き日の約束
御門グループを再編し、
司令の助力を仰ぐにしても、完全に信頼するのは危険だ。司令なら御門グループを吸収合併しようと画策しても不思議はない。経済、経営に疎いオレでは組織運営という分野において司令には全く太刀打ち出来ないぞ……
軍事と経済は一体、だが多くの軍人は経済を軽視しがちで、双方に秀でる者は驚くほど少ない。権藤の贈ってくれた本にあった言葉だが、司令はその双方を兼ね備えた傑物だ。
軍事政権の経済統制の失敗例は、兵法書の2巻に記すと書いてあったが、読むのが楽しみだ。……待てよ?
権藤は切れ者で、表には出られない人間だ。そして命を懸けてまでオレ達を助けてくれた
オレがミコト様との間に立って仲介すれば、新生御門グループの頼れるブレーンになってくれるかもしれない……
命を助けてもらったオレが、このうえまた頼み事なんて図々しい話なんだが、御門グループなら権藤にも便宜を図れるよな?
権藤があの場を切り抜けて生きているってのが話の前提だが、必ず生きている。オレはそう信じてる!
「カナタさん、どうかしたのですか?」
「ミコト様、実は……」
オレは権藤のコトをミコト様に話すコトにした。
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地球人、権藤杉男の存在を知らされたミコト様は驚きを隠せなかった。額に浮かんだ汗を優雅に拭いて、深呼吸してから口を開く。
「この世界にやって来た第二の地球人……権藤杉男さんとは何者なんでしょう?」
「わかりません。物部の爺ちゃんと関わりがある人物だろうというコトぐらいしか……」
「その方が私の力になってくださるというのですね?」
「それもわかりません。なって欲しいとオレが思っているだけで。ミコト様、権藤からオレに本が贈られてきたら、デジペーパー全紙に広告を出してください。」
「どんな広告ですか?」
「御門グループの直営カフェレストラン「白鯨」がオープン予定につき、オープニングスタッフを募集します。詳しくは人事課のハーマン・メルヴィルまで、とね。」
「それにどんな意味があるのですか?」
「地球には「白鯨」という有名な小説があるんです。作者はハーマン・メルヴィル。権藤はかなりのインテリですから、白鯨ぐらいは読んでるはずだ。」
「なるほど。地球人の権藤さんなら、それがカナタさんからのメッセージであると気付きますね。」
「はい。それを見た権藤は必ず連絡を取ってくるでしょう。オレが彼と話をしてみます。それ以上のコトは話をしてみてからでいい。」
「やってみましょう。」
権藤のコトはこれでいいとして……もう一つ、内緒話をしておかないとな。
「ミコト様、機構軍の軍人、桐馬刀屍郎をご存知ですか?」
「はい。「死神」と呼ばれる凄腕の軍人ですね。「災害」ザラゾフでさえ不覚を取ったという……」
「その死神なんですが、叢雲宗家の人間、いや、宗家の遺伝子から生み出されたクローン人間かもしれません。」
「なんですって!!」
オレから死神の話を聞かされたミコト様の顔はみるみる青ざめていった。
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「そ、そんな!!桐馬刀屍郎がトーマ様のクローンだなんて……」
ミコト様は流れる汗を拭おうともしない。確かに驚愕の事実に違いないが、ここまで衝撃を受けるとは思わなかった。
「あくまで可能性です。それにヤツの行動には矛盾したところがある。桐馬刀屍郎が叢雲トーマのクローンだとしたら、なんでミコト様の危機をオレに教えて、脱出を助ける必要があるのか……それがわからない。」
「……死神は亡きトーマ様と私が交わした約束を守ろうとしているのかもしれません。」
「約束!?」
ミコト様は着物の小袖の隠しポケットからメモリーチップを取り出してハンディコムに差し込み、映像を表示した。
その映像に映っていたのは幼少のミコト様と、叢雲宗家の紋の入った着物を着た少年が並んで立っている姿だった。
「この少年が叢雲トーマか。ミコト様とは親しかったんですね?」
「はい。……トーマ様は私の兄のような、いえ、それ以上のお方でした。」
二代に渡って続く悪政、幼き日のミコト様は怨嗟の声を上げる市民が蜂起し、自分達親子が殺される事もあり得ると考えていた。不満を抑える為の施策で弾圧重視のガリュウ総帥と、歩み寄りを主張する叢雲ザンマとが噛み合わず、治安が安定しなかったからだ。
「実際、私の祖父、左龍は暗殺されました。表向きは病死という事になっていますが……」
爺ちゃんを追い詰めた左龍は暗殺されていたのか……八熾の誰かが関わってやしないだろうな?
「ですので私はトーマ様にお願いしました。"もし私が死ぬのなら、トーマ様の手にかかって死にたいのです"、と。」
「……叢雲トーマはなんと答えたんです?」
「強い決意を込められた瞳でこう仰いました。"命に代えても……"と。もし、桐馬刀屍郎がトーマ様のクローン体ならば、生まれ変わりのようなもの……私は彼の刃によって死にましょう……」
深い深い悲しみが、浮かべた涙に光る瞳。その瞳が、涙が、オレに教えてくれる。
……ミコト様は叢雲トーマを愛していたのだ……
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