照京編18話 鉄拳VS剣狼
元は同じ照京兵同士、だが今は敵同士となった、金派と信念派の戦いは、信念派が優位に進めていた。だが向こうの信念派、最後の兵団が出てくると様相が変わる。
「ナツメ、リリス!殲滅よりも援護を重視!シオンも前だ!」
あの後ろ姿は大師匠!兵団の戦鬼と交戦中か!
「オレは大師匠を援護する!シオン、ここは任せた!」
「ダー!隊長、気をつけてください!」
大師匠を援護すべく駆けるオレの前に、3人の照京兵を一瞬で叩き伏せた老人が立ちはだかった。
「ここは通さぬよ、小僧?」
「鉄拳バクスウか。……参ったな。オレはお爺ちゃんっ子でね、お年寄りは相手にしたくない。バスに乗って隠居小屋に帰んなよ。敬老パスは持ってるんだろ?」
「牙も生え揃わん小僧狼が、能書きだけは抜かしよるのぅ。通れるものなら通ってみい!」
……兵団の部隊長と一騎打ちか。だがこのジジイをフリーにすれば、三人娘が危うい。やるしかねえな!
「老い先短いからって死に急ぐ必要はないのに、酔狂な爺様だぜ!」
繰り出した刀は鉄爪で受けられ、蹴りのお返しが飛んできた。速い蹴りだが、なんとか躱す。
「やるのう。ワシの蹴りを躱しよるか。」
マリカさんに匹敵する切れと早さの蹴りだった。だがマリカさん
こちとら、伊達にガーデンの格上とばっかり戦ってきた訳じゃないんだぜ?
とはいえ、格上は格上だ。まともにやったらオレの不利は否めない、か。
右手に鉄爪、左手は獲物なし。だが拳法服の袖に暗器が隠してあると思わないとな。
「どうした? こんのか? それとも一手合わせただけで臆したか?」
チョイチョイと手招きしてくる拳法一筋ウン十年のジジイ。
では様子見の邪眼でジャブといきますか。
天狼眼が輝くと同時に左手で目を覆い、輝く鉄爪にオレの姿を映して警戒、か。
「そう言えばおヌシは邪眼持ちじゃったのう。」
「物知りだな、爺さん。年寄りはやっぱ物知りじゃないとな。」
「そうじゃの。世間知らずの若僧に、事の道理を教えてやるのが年寄りの生き甲斐じゃからな!」
前傾姿勢でダッシュしてきたジジイは鉄爪を繰り出してきた。
鉄爪は刀で迎撃したが、瞬時に出された脛払いを喰らった。地面と頭がごっちんこする前に左手をついて、地面を叩いて跳ね起きる。
こっちの番だぜ!六の太刀、百舌神楽を喰らえ!
突きの連撃に対し、上半身を振って紙一重で躱してのける拳法ジジイ。大した技だが、上に意識がいってるよな?
すぐさま下段払いの平蜘蛛に繋いでみたが、ジジイは軽くジャンプして躱し、蹴りを返してきた。オレは空いた左腕で蹴りを受けたが、空中で身を翻したジジイのさらなる蹴りを側頭部にもらって、たたらを踏む。
「ほう。喰らっても倒れんか。なかなか頑丈じゃな。」
「オレがタフなんじゃなくて、爺さんの蹴りが軽いんだよ。イッカクさんの蹴りだったら、お月様まで飛ばされてらぁ。」
強がりだけど事実でもある。この爺さんの蹴りはイッカクさんより遥かに軽い。
「豪拳イッカクか。息災かの?」
「息災だ。爺さんと違って葬儀屋の予約は必要ない。」
「それは何よりじゃな。じゃが、葬儀屋の予約が要るのはおヌシじゃがの!」
「オレが死んだら、弔辞を読むのが誰かで揉めそうだな!」
技の限りを尽くして応戦はしたものの、全てが一枚上をいかれる。わかってたコトだが、技と技の勝負じゃ話にならない。
だが戦場は技能試験の会場じゃない。技が上の相手にだって、やりようはある!
ここだ!死神の十八番、相打ち狙い!軽量級の爺さんとならタフさ比べでオレが勝つ!
蹴りをモロに喰らったが、引き換えに鉄爪を弾き飛ばした。喰らうとわかってれば、この爺さんの蹴りではダウンしねえぜ!
鉄爪を失った爺さんの、指二本を伸ばした拳を左腕で受けたが、鍛え上げられた指はオレの張った障壁ごと腕を貫通した。
「ワシが鉄爪を使うのは、せめてもの慈悲なんじゃよ? この鉄指よりはマシじゃからの。」
「応龍鉄指拳って名前で指がナマクラだったら笑うぜ。これを待ってた。」
「!!」
渾身の力を左腕に集中して、筋肉を硬化させる。やっと捕まえたぞ!まずはボディを打って足を止める!
刀を握ったままの拳が爺さんの脇腹を捕らえたが、爺さんは高速で体をスピンさせて拳を弾き、その回転力を利用して回し蹴りを放ってきた。
予想外の反撃にオレは反応出来ず、吹っ飛ばされて地面を擦る。
「応龍鉄指拳、捻転交差法。技を極めればこういう芸当も可能なのじゃ。」
「なるほどねえ。いい勉強になったよ。」
オレは地面に赤い唾を吐いてから立ち上がる。
「バクスウ!若僧相手にいつまで手こずっている!」
「ただの若僧ではない。
大師匠との激しい打ち合いから間合いを取った戦鬼の揶揄に、鉄拳は淡々と応じた。
「なればサナギの間に殺せ!」
「……殺すに惜しい男じゃが、相対した以上はやむを得んのう。」
「カナタ君、私が戦鬼を仕留めるまで持ちこたえてくれ!」
「このワシをか? やってみろ、達人トキサダ!」
再び始まる激しい打ち合い。戦鬼が相手では大師匠にも余裕はない。
「覚悟はよいか、小僧。いや、剣狼よ?」
指先に念真力を纏わせた鉄拳バクスウが、構えを取った。オレも刀を構え、右足を大きく踏み出す。少し俯いたオレの顔が軍靴の踵の装甲板に映っている。
「出来てる。爺さんはどうだ?」
「死合う覚悟はいつでもしておる。……ゆくぞい?」
「……こい。」
今まで以上の猛スピードで間合いを詰めてきた鉄拳バクスウの繰り出す二本の指を、左腕を生贄にして受ける。
「ワシに同じ手が二度通用すると思うな!」
筋肉を硬化させる前に指を引き抜いた老人に、オレは念真衝撃球を喰らわせた。体の周囲全体に効果の及ぶこの技なら、いかな拳法の達人でも躱せまい!
だが拳法を極めた軽量級の老人は手足を上げてガードし、直撃を避けた。だが少し後退ったな。
オレの繰り出した突きを左手でいなしたが、手の届く距離じゃない。くるのは蹴りのはず!
左手を上げて頭部をガードしたが、飛んできた蹴りは脇腹に当たった。ここだ!神威兵装モード、ヒートコンバートシステム、発動!
ヒートコンバートシステムで打撃の威力を殺し、限界以上の力で体を高速回転、蹴り足を弾きながら、その回転を利用した回し蹴りを繰り出す!
踵からヒットした渾身の回し蹴りは軽量級の老人を吹っ飛ばした。
蹴りで飛ばされた老人は、空中でクルリと1回転して足から着地。だがガクリと膝を着き、左肩を押さえた。
「……捻転交差法を真似しよったか。」
「いい勉強になったって言っただろ?」
「そしてその靴、ただの軍靴ではないな? どういう仕掛けがあるのかは分からぬが……」
ただの軍靴さ。踵の装甲板に殺戮の力を込めた、な。天狼眼の力は刀に限らず、金属であれば込められるんだ。
「骨の砕ける音がした。爺さん、もう左腕は使えまい?」
「そのようじゃな。不覚を取った。……退くぞ、リットク。峡谷出口で敵部隊が展開を始めたようじゃ。」
老人の提案に剣豪は頷いた。
「……この場を突破しても出口で包囲されるか。やむを得んな。バルバネスとザハトが素直に退けばいいが。」
「退かぬなら放っておけばよい。ザハトはともかく、バルバネスは死にたくなかろう。」
「そうだな。達人よ、まだやるか?」
「退いてくれるなら、それに越した事はない。」
剣鬼と達人は距離を取り、納刀した。
「総員撤退!照京へ帰投する!」
後退を開始した追撃部隊を黙って見送る。のるかそるかの勝負に出る場面じゃない。大師匠と敗残兵を収容出来れば十分だ。
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「カナタ君、助かったよ。鉄拳バクスウを退けるとは大したものだ。」
大師匠のお褒めの言葉は有り難いが、実力で退けた訳じゃない。格上相手に一か八かの賭けに勝った。それだけのコトだ。
「左腕を殺しても、あのまま続けていればオレの分が悪かったでしょう。あの爺様に同じ手は通じない。」
「カナタ君ならまた次の手を考えそうだけどね。今は喜びたまえ。格上相手の金星はきっとカナタ君を成長させてくれる。」
成長うんぬんはさておき、課題は色々見つかったな。あのレベルを相手に実力で勝つ為に、必要なコトを積み上げていこう。生き残ったオレには時間がある。
「大師匠、オレ達も神難へ退きましょう。」
「そうだな。神難へ着いたら一杯飲やろうか。」
「大師匠の奢りですよね?」
「道場を追われて素寒貧の私に奢れというのかね? カナタ君はなかなか厳しいな。」
「金は借りた者勝ち、うちのちびっ子はそう言ってますよ。」
「ハハハッ、金融業界の人間が聞いたら卒倒しそうな台詞だね。」
金融業界を戦慄させそうな哲学が持論のちびっ子と、その姉的な女子二人の姿が見えたので手を上げて応える。
大戦役に勝利したのもつかの間、同盟は手痛いダメージを喰らったな。照京陥落は司令も予想外だっただろう。また一人カラオケでシャウトすんのかね?
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