照京編14話 フード男に関する個人的考察
ナツメの帰りを待ってる間、ヘリの外に椅子を置いて座り込んだオレは考えを巡らす。
権藤杉男は生きている、そう信じて彼のコトを考えよう。
権藤は命を懸けてオレ達に時間を稼いでくれた。なぜだ?……さっぱりわからん……
だが、彼のコトはもう信じていい。権藤にオレをハメようなんて考えはない。あの状況での時間稼ぎは危険極まりない行為、打算でやれるコトじゃない。
権藤が生きていれば、また新しい本を送ってくれるはずだ。
……もし、本が送られてこなかったら、革命政府とやらは壊滅させてやる!
もう一人の恩人、フード男2号は何者だ? つるかめ屋でのメッセージ、ヘリを処理しつつ、退路を確保する手際。
単独で出来るとは思えない。彼には手練れの配下か仲間がいる。
彼はミコト様を逃がそうと考え、オレを使うコトにした。なにか表だって動けない事情がある、と考えるのが妥当だろう。
そして上空を飛ぶヘリに乗ってるオレとテレパス通信が行える凶悪な念真強度を持っている、か。
……オレの知る限り、その条件に合致するのは死神だけだ。まだ見ぬ強者の可能性もあるが、あの距離でテレパス通信を届かせられる男をオレは死神しか知らない。600万nの念真強度を持つ狂犬も同じ芸当は可能だろうが、ヤツではありえない。狂犬は緻密な作戦行動を取る男ではないし、フード男2号とは体格が違いすぎる。
死神は御門家への復讐の為に造られたクローン兵士だとオレは考えていたが、違ったのか?
思い出せ、Mr.ジョンソンとして、そして実際に戦った時のヤツの思考、行動を。
……死神は頭が切れ、洞察力があり、合理的だった。そしてテロ屋を嫌ってる。復讐の化身とか、目的を達成するためだけに生きる冷酷なマシーンとか、そんなイメージがどうしても湧かない。そういった情念を燃やす熱量をヤツからは感じなかった。
そう、熱量不足なんだ。オレの感じた死神のイメージは、切れ者だが厭世的で怠惰な男……
神虎眼を持つ死神は、長くは生きられない定め。短い余生をのんびり過ごしたいってコトなのか?
……待てよ? 死神は叢雲討魔のクローン、つまり
死神の性格から考えて、叢雲一族の抹殺と無関係のミコト様を害する気はないのかもな。無関係の人間を巻き込むテロ屋を嫌う死神ならありえる話だ。……そうであって欲しいものだが……
……でも、なにかが引っ掛かる。重大ななにかを見落としてるような……
「隊長、なにを考えているんですか?」
「謎の勢力についてさ。」
「彼らは何者なんでしょうね? 敵ではなさそうですけど。そういえば隊長はいつ、包囲網を突破する方法のアドバイスを受けたんですか?」
「つるかめ屋を出る時にテレパス通信でね。信じていいものか半信半疑だったんだが。」
ヘリに乗ってる時だと正直に話せば、シオンも死神の関与を疑ってしまう。ローゼの為にも、死神には健在でいてもらった方がいい。……チッ、死神はオレがこうするコトまで読んでやがるに違いない。
「隊長、やはり照京は陥落したのでしょうか?」
「確実に陥落したはずさ。クーデターの裏には兵団がいた。つまり機構軍が噛んでいる。そうでなくては成立しない。」
「成立しない?」
「だってそうだろ? せっかく政府を転覆させて実権を握っても、後ろ盾がないと維持出来ない。照京がいかに巨大都市であろうと単独で同盟相手に独立を維持なんて出来っこないんだからさ。だがハシバミ少将も考えが甘いな。そう遠くないうちに"こんなはずではなかった"と後悔するコトになるだろう。」
「どういう意味ですか?」
「飴をしゃぶらせた後には鞭が待ってるってコトだよ。ハシバミ少将が重要なのはクーデターを起こすまでで、クーデターが成功すればそうでもない。ハシバミ少将は照京に理想郷を築く算用でいるだろうが、機構軍は照京を植民都市にしたがるはずだ。」
「ハシバミ少将は照京の自治権を機構軍と約束して、クーデターに及んだのでは?」
「国家間の約束を担保するのは力関係だ。機構軍に約束を守る気なんかないよ。」
「ですがハシバミ少将は約束を反故にされれば黙っていないでしょう?」
「そりゃ黙ってはいないだろうね。だけど少将に何が出来るんだ? 今度は機構軍を相手に戦うってのかい? そんなコトが出来る訳がない。勝ち目なんてゼロなんだからさ。さりとて今さら同盟に救援を求める訳にもいかない。裏切り者の少将に手を貸す訳がないんだから。」
「それでは照京はどうなるんですか?」
「さあ? ま、オレだったらしばらくは生かさず殺さずの半端な権限をハシバミ少将に与えておいて、支配権を確立させる。街が安定すれば少将は用済みだ。更迭するか殺すかして、後任の傀儡政権にガリュウ総帥よりはちょっとマシな統治を認め、照京の植民地化を推進させるだろう。市民なんて現金なモンだからさ、前よりマシになったと思えば、命を懸けてまで体制を打倒しようとは思わない。」
為政者が誰であるかなんて大半の市民にはどうでもいいコトだからな。ハシバミ少将は機構軍の傀儡政権の道化として生きるか、逆らって命か自由を失うかの選択しかないだろう。
ヘリのコクピットの窓を開けたリリスが笑顔で報告してきた。
「少尉!ナツメから通信があったわ!護衛を連れて戻ってくるって!」
神難は無事だったようだ。やれやれ、最悪の最悪って事態だけは免れたな。
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森の外の合流地点に一人で待つオレの元に、大型軍用車両を数台引き連れたナツメが戻ってきた。
「ご苦労さま、ナツメ。」
「任務完了なの!」
バイクから降りたナツメはウィンクしながら敬礼してくれる。無事でよかったぜ。
先頭の大型軍用車両のドアが開き、姿を現した護衛兵を、オレはよく知っていた。
「バクラさん!バクラさんが来てくれたんですか!それにジョニーさんまで!」
鬣みたいな長髪をたなびかせながら、バクラさんはジョニーさんと一緒に威風堂々、歩み寄ってきた。なんて頼もしいお姿!
「おう、災難だったな、カナタ。ま、クーデター如きで殺されるタマじゃねえとわかっちゃいたがな。」
「無事でなりよりです、カナタさん。無事だった武人……ふふっ、傑作……」
ジョニーさんの駄洒落が有り難く聞こえる日がくるとは思わなかったぜ。だけどこの二人がいてくれれば千人力だ!
「地獄に仏ですよ、バクラさん、ジョニーさん。これでもう安心だ。」
オレがハンドサインを出すと、樹上からライフルを装備したシオンが地上に降り、さらにハンドサインを出した。
そのハンドサインを受けたリリスが、ミコト様達を連れて森から姿を現す。
「フフッ、いいねえ。その用心深さがカナタの取り柄だ。」
「バクラさんにも見倣って欲しいものです。」
ジョニーさんが厳かにツッコミを入れ、バクラさんは渋い顔になった。
「御門ミコトと申します。鬼道院大尉、出迎えに感謝します。」
アスラ部隊を代表する無頼漢のバクラさんらしくもなく、丁寧に一礼し、口上を述べる。
「同盟軍大尉、鬼道院バクラ。神難までの護衛に馳せ参じました。どうぞお車に。」
「カナタさん、これが鬼の
「鬼道院だけに。……ふふっ、傑作……」
オレはジョニーさんの物真似で応じてみた。用語的には微妙に違う気がするけど、珍しいコトには違いない。
「うるせえぞ!テメエらもサッサと乗りやがれ!」
バクラさんの怒声に背中を押されるように、オレ達は車両に乗り込んだ。
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到着した神難には頼もしい顔、いや、リーゼントが待っていた。
「カーチスさん!カーチスさんだぁ!」
「いかにもカーチスさんだよ、厄災小僧。」
半袖の野戦服から剥き出した鉄腕で敬礼してくれるカーチスさん。獅子髪に鉄腕、アスラ部隊の部隊長が二人もいれば万全だぜ!
「厄災小僧はヒドいですよ。好きで不幸を背負ってる訳じゃありません!」
「牡蠣鍋ってのを食いによぉ、バクラ達と阿南の街まで行く途中でこれだぜ? カナタのとばっちりで休暇は台無し、厄災小僧の面目躍如だな。」
阿南は日本で言えば広島にあたる街だ。やっぱり牡蠣が名物なんだな。
「神難名物のタコ焼きを奢りますから勘弁してください。」
「奢ってくれるのはいいが、高くつくぞ? ヘッジホッグと獅子神楽のゴロツキどもがほとんどいるからな。」
よっしゃあ!部隊の慰安旅行の最中だったんだな!お二人には悪いがツイてる!ツイてるぞ!
「ヘイ、カーチス!ボスから通信が入ってんぜ!」
「オーケー、キッド。すぐに行く。カナタも来な。お姫様のコタァ、バクラに任せときゃいい。」
テンガロンハットを被ったヘッジホッグの副隊長、ヒルコック・キドニー中尉に敬礼してからオレとカーチスさんは基地の通信室へ向かった。
さて、アスラ部隊の親玉からはどんなオーダーが下されるのかね?
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