照京編10話 天駆ける狼
オレ達は戦場になりつつある市街地を走り、なんとか公館前まで辿り着いた。
公館付近では照京軍とクーデター部隊の激しい戦闘が始まっていたが、両軍に構わず車両を中庭に突入させる。
ガクンと車体が揺らいで回転した。
「タイヤに徹甲弾をもらったみたいです!」
スピンする車体をなんとか立て直しながらシオンが叫ぶ。
車両ごとロケット弾でも食らえば仕舞いだ。玄関まで乗り付けたかったが、車を乗り捨てるしかねえな。
「停車だ!手荒な方法でいい!」
シオンはオーダー通り、公館の庭木に車の横腹をぶつけて停車させた。
ドアを蹴り飛ばして開け、駆け寄ってくる叛乱部隊の兵士達に狼眼を喰らわせて始末する。
「いくぞ!公館内に突入する!」
敵味方が乱戦を繰り広げる庭園を突っ切ろうと駆け出すオレ達。
叛乱兵が1ダースほど立ちはだかったが、狼眼で大半を仕留め、生き残りは三人娘の狙撃、念真槍、手裏剣が飛んで始末してくれた。
「どけえ!オレの邪魔をするヤツは全員殺す!」
行く手を阻むヤツには全員死んでもらうぞ!
三人娘の援護を受けながら狼眼を駆使して、公館の玄関まであと少しというところまできたが、背後からは叛乱部隊が殺到してきてる。
「クソが!もうお代わりが来やがったのかよ!」
飛び石ジャンプで公館の上階へ飛び込む算段だが、下から銃弾の雨を浴びせられると危険だ。
背後から追ってくる一団だけは始末するしかない。畜生!時間がないってのに!
オレは最大威力の狼眼を喰らわせてやるべく振り向いたが、叛乱兵達は耳や目から血を噴き出しながら勝手に倒れてゆく。……これは、狼眼!
公館前にはフード付きの装甲コートを纏った男が立っていた。フードで顔は見えないが、男の背格好はオレとおなじぐらい……
「今のは狼眼!? アンタはまさか!」
オレ以外に狼眼を持つ男は一人しかいない!
「私の事などどうでもよかろう!ここは私に任せて先にいけっ!」
男は手にした軍刀で公館の方を指し示した。
「し、しかし……」
権藤杉男、地球から来た同胞のアンタに時間稼ぎをしてもらうなんて……
「いけっ!いくんだ!!」
「少尉!いくのよ!」 「カナタ、いこう!」 「隊長、決断を!」
迷ってる暇はない。オレの為すべきコトはなんだ?
「いくぞ!ミコト様を護る!」
駆け出したオレは権藤杉男に向かってテレパス通信を飛ばす。
(アンタは権藤杉男だな?)
回線を開いた権藤杉男はしばらくしてから返事をしてきた。
(……そうだ。死ぬなよ、カナタ。)
心に直接響くオレへの想い。心の水面に一滴の雫がこぼれ落ちたような感覚。雫の周りに生じた波紋が、心の隅々にまで広がってゆく……
オレの心の奥に眠る狼の咆哮が聞こえたような気がした。
(アンタこそ!この恩は忘れない!また会おう!)
(……ああ、また会おう。)
アンタがなんでここまでしてくれるのかはわからない。だけど心から感謝する!
権藤杉男、生き残ってくれ!アンタを命の恩人にする為に、オレ達も必ず生き残る!
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「リリス!悪魔形態限定解除!シオンのカバーだ!」
黒い羽を生やしたリリスはシオンの背中にしがみつき、援護態勢に入った。
「ナツメが先行しろ!オレが下をカバーする!いくぞ!」
飛び石ジャンプが得意なナツメに、シオンが続く。飛び石ジャンプが苦手な重量級のシオンだが、羽付きリリスがカバーすればいけるはずだ。
強力な念真障壁を展開出来るオレが、下からの狙撃を警戒、だが奮戦する権藤のお陰で下からの狙撃は飛んでこなかった。
(前方に敵多数!友軍少数が苦戦中、援護に入る!)
10階の窓を蹴破って飛び込んだナツメからのテレパス通信。公館内にも叛乱兵士が多数潜伏していたらしい。
ナツメに続いて飛び込んだオレ達は、執務室前の広い廊下で繰り広げられる乱戦に参戦した。
「剣狼、来てくれたのか!」
敵の手練れと斬り合っているツバキさんが、オレ達に気付いて叫んだが、その隙を敵将は見逃さなかった。
「隙あり!死ねい!」
「ぐうっ!まだまだぁ!」
傷付いた右手から瞬時に左手に刀を持ち替え、粘るツバキさん。死なせはしないぞ!
(カナタさん!逃げてくださいと言ったでしょう!どうして戻ってきてしまったのですか!)
ミコト様は執務室の中か!必ず護る!
もう一人の狼……権藤杉男が、オレの中で眠っていた力を覚醒させてくれたんだ!
目覚めし天駆ける狼よ、オレの瞳に顕現しろ!……天狼眼、発動!
喰らえ!今までの狼眼とは一味違う、オレの天狼眼を!
狼眼では一撃死とはいかない連中だったのだろうが、天狼眼には耐えられなかった。目や耳から鮮血を撒き散らしながら次々と倒れてゆく。
「バカなっ!いかに強力な邪眼といえど、私の部下をこうもあっさり…」
それなりの精鋭だったんだろうが、アスラ部隊ほどじゃねえ!群がる敵兵を睨み殺したオレは、愛刀に殺戮の力をチャージする。天狼眼の真価は刃に殺意を込めるコトにある!
「帝を守護する天狼の剣、とくと味わえ!」
黄金に輝く刃を敵将はかろうじて受け止めた。だがオレは鍔迫り合いを演じながら、刃にさらなる殺戮の力を注入する。
ピキピキと敵将の刃に亀裂が入り、刃に刃が食い込んでゆく。
「そ、そんな!この業物に亀裂など……」
「龍に仇なす愚か者め!狼の牙の前に滅するがいい!」
ツバキさんの叫びと共に、黄金の刃は敵将の体を両断した。
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「ミコト様!ご無事ですか!」
執務室に飛び込んだオレにミコト様とイナホちゃんが駆け寄ってきた。
「カナタさんっ!」 「八熾の当主様!」
よかった。ミコト様は無事だった。それにイナホちゃんもいたんだな。
「じきに新手がやってきます。ここを脱出しましょう。ツバキさん、脱出方法はありますか?」
リリスがツバキさんの腕の傷に止血パッチをあて、シオンが止血帯代わりにベルトを巻く。傷はかなり深いようだな。
「屋上の格納庫の隠し部屋に脱出用のヘリがある。だが私の腕はこの有り様だ。オートパイロットで脱出出来るかどうか……」
「シオンはヘリの操縦も出来ます。行きましょう!」
オレ達はミコト様とツバキさんにイナホちゃん、親衛隊の生き残り6名を連れて屋上へ向かった。
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屋上の格納庫内にある隠し扉を開いた時に、敵の追っ手が格納庫内に突入してきた。
天狼眼で一掃したが、次々と新手が現れてキリがない。どうやら公館は完全に制圧されたみたいだな。
状況を察した親衛隊の隊員達は顔を見合わせ、頷きあった。
「ツバキ様、ここは我々が食い止めます!剣狼殿、ミコト様とツバキ様を頼んだぞ!」
「アンタらを置いていける訳ないだろ!シオン、離陸準備を急げ!」
「剣狼殿、あのヘリは8人乗り!どのみち全員は乗れないんだ!」
詰め込めばいける!諦めんな!
「……おまえ達、ここは頼んだ。私達が離陸したら投降しろ。首謀者がハシバミ少将なら命までは取るまい。」
「ツバキさん!部下を見捨てていくってのか!」
「少尉!ツバキの言う通りにして!長くは持たないわよ!」
隠し扉全域をカバーするリリスの念真障壁に大量の対戦車ミサイルやライフル弾が着弾し、亀裂が広がっていく。
「そういう事だ、剣狼殿。……頼む、行ってくれ。」
「絶対死ぬなよ!必ず助けに戻ってくるからな!」
「期待してるよ。さあいけっ!ツバキ様、ご武運をっ!」
ヘリに乗り込み、離陸してゆくオレ達の目に映ったのは、念真障壁を張って銃弾の雨に耐えながら、手榴弾を片手に敵部隊に特攻をかける親衛隊の後ろ姿だった……
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「死に急ぎ野郎どもがっ!助けに戻るって言っただろ!」
「落ち着いて、少尉!今、少尉が冷静さを欠いたら、あの人達の死が無駄死になる。これからどうすべきなの?」
そうだ、落ち着け。よく考えろ。
「ハシバミ少将は防衛部隊の指揮官だ。ツバキさん、ヘリを有する空軍の指揮権も防衛部隊が持ってるのか?」
「いや、別系統だ。」
「だろうな。もし空軍がクーデターに加わってるってんなら、公館上空をヘリで包囲していたはずだ。だが叛乱部隊は空軍司令部も占拠にかかってるはず。空軍司令部の位置はどこだ?」
ツバキさんは戦術タブレットに地図を出し、空軍司令部と市内のヘリの発着基地の場所を示してくれた。
「全部の施設が制圧されたとして、一番警戒の薄いところは……」
リリスと一緒に脱出ルートを模索するオレにツバキさんが話しかけてきた。
「とりあえずヘリを総帥府へ向かわせてくれ!兄上がいるはずなんだ!」
「ツバキさん、総帥府はいの一番に制圧するべきターゲットだ。敵戦力が集中してる。」
「カナタさん、お願い!総帥府には父や雲水もいるのです!」 「当主様、父上を助けてっ!」
「……わかりました。だけど先に言っておきます。総帥府の状況によっては即座に離脱しますから。シオン、総帥府へ向かってくれ。なるべく上空を飛ぶんだ。低すぎると対ヘリランチャーの餌食になる。」
「ダー!総帥府へ向かいます!」
「全員ベルトをしっかり締めて。かなり無茶な飛び方をするコトになる。」
言いながらオレはコクピットの副操縦席に座り、脱出ルートの再検討を始めた。
総帥府がまだ無事だとしても、連れていけるのは総帥、議長、リンドウ中佐までだな。ヘリの積載人員はそれでもオーバーしてるが。総帥府に飛べるヘリがあるコトを祈るしかない。
よし、ヘリはもう公館から十分離れたな。市街地のいたるところで戦闘は続いているようだが……あの部隊は!
オレはズームアップ機能を最大にして、市内を制圧している敵部隊の姿を確認する。
……なんてこった!あれは
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