照京編9話 一手遅れ
トンカチの親父さんの件が片付いたオレ達は、三度目の正直でやっと照京見物に出掛けられた。
懸念していた邪魔も入らず、四人で色んな名称や史跡を巡って、楽しい一日だったな。
明日の午後にミコト様は公館へ帰ってこられる。午前中にリンドウ中佐と最後の謀議、昼を済ませたらつるかめ屋本店に行ってみよう。今日は定休日でつるかめ屋に行けなかったからな。
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朝食を済ませてから公館を出たオレ達はリンドウ中佐のオフィスに向かう。
午前中いっぱいを使ってリンドウ中佐とオレ達はクーデター計画の詳細を打ち合わせ、一緒に昼食をとった。
「計画はこれでいい。越えるべきハードルは二つあるね。」
リンドウ中佐は食後の珈琲を飲みながら考えを巡らしている。
「ミコト様が計画を是としてくださるかどうか、そしてハシバミ少将がミコト様に協力してくださるかどうか、ですね。」
「そうだ。ミコト様は夕刻前に公館へ帰還される。頼んだよ、カナタ君。」
「隊長任せにせずに、リンドウ中佐も説得を手伝うべきなのでは?」
少し咎めるような口調でシオンがそう言い、リンドウ中佐は申し訳なさそうな顔で答える。
「そうしたいんだが、私は昼からガリュウ総帥に呼ばれていてね。議長も同席されるそうだから、話はカナタ君の処遇についてだと思う。今、カナタ君にちょっかいをかけられても面倒だ。ソッチは私が誤魔化しておくしかない。」
「面倒をかけます。まさかとは思いますが計画が漏れているなんてコトはないでしょうね?」
「それはない。まだ私の部下にも話はしていないんだ。計画を知っているのは、ここにいる五人だけだよ。」
だったら大丈夫だろう。
「リンドウ中佐、今夜、お互いの首尾の報告にここに集まりましょう。」
「そうだね、なんとしてもミコト様を説得してくれ。全てはそこからだ。」
「はい、中佐もオレのコトは上手く誤魔化しておいてください。」
午後の予定はと。まずSBCの本社に寄って、ミコト様が三人娘に用意してくださった戦術アプリをインストール。これでいい時間になるはずだ。
公館に帰る前につるかめ屋本店に行って、脳に糖分も補給しておくか。
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SBC本社に寄って戦術アプリをインストールした三人娘を連れて、つるかめ屋本店へと向かう。
ロックタウン支店より二回りほど大きい店構えの本店に到着したオレ達は、店の暖簾をくぐり、店内に入った。
ナツメは店内を見回し、ポツリと呟く。
「……ここが、パパの通ったつるかめ屋本店……十兵衛も連れてきてあげればよかった……」
「また来ればいいさ。ナツメの両親の護衛を務められるのは十兵衛だけなんだから仕方がない。」
ナツメは両親のご遺体と、生家から回収した思い出の品の護衛を十兵衛に任せた。
今頃はガーデンに到着して、ナツメの帰りを待っているはずだ。
「……うん。パパとママ、十兵衛にもお土産を買って帰らないと。」
「霊前に供えるお菓子ってなにがいいのかしらね?」
シオンはショーケースに並んだ和菓子をしげしげと眺める。
「土産物選びは味見してからにしましょ。どれも美味しそうだけど、どれにしようかしら?」
ガーデンきってのグルメ少女は、獲物を狙う目になって和菓子のチョイスを始めた。
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和菓子カフェになっている二階の窓側席に座ったオレ達は、チョイスした和菓子を楽しみ、お茶を頂く。
どの和菓子も絶品だな。しっかり糖分を補給したし、大仕事の準備は万全だぜ。
お茶のお代わりを淹れてもらって、たわいもない会話をしながらのんびりくつろぐ。
結構長居しちまったな。そろそろ公館へ帰るか……
網膜にアラート!!レーザーポインタがオレの顔に照射されている!
反射的に顔を背け、レーザーポインタが照射された方向を見てズームアップする。
道路を挟んだビルの屋上に人影!アイツか!
(コードレッドだ!敵は向かいのビルの屋上!)
手練れの三人娘は一瞬で警戒態勢になり、狙撃に備える。
屋上にいるフード姿の曲者はボードみたいなモノを掲げた。
……「龍姫の危機!すぐ戻れ!」……なんだと!どういうコトだ!
「公館に戻る!いくぞ!」
オレは財布から抜いた紙幣を近くにいた店員さんに握らせて階段を駆け降りた。
三人娘もすぐさま後を追ってくる。
「隊長!曲者のメッセージを信じるんですか!」
「ああ!ガセならガセでいい!イヤな予感がするんだ!」
シオンは店外に出てすぐの駐車場の停めた軍用車両に飛び乗り、エンジンをかけた。
全員が乗り込んだ瞬間に走り出し、公館へ向かって疾走を開始する。
「カナタ!どこかで爆発音が聞こえた!」
クソッ!どうやらイヤな予感はドンピシャらしい!
オレはカーナビをテレビ放送に切り替える。ちょうどニュースをやってるな!
「緊急ニュースです!!治安が不安視されていた朱染地区にて大規模な暴動が発生!暴徒は重火器で武装しており、大変危険です!付近の住民は決して家の外に出ないでください!」
ハシバミ少将はなにやってたんだ!ブラックマーケットで動きがあったのは知ってたはずだろ!……重火器で武装した
「少尉、朱染地区はここから遠いわ!まだ大丈夫よ!」
「大丈夫じゃない!ナツメの耳がいくら良くても、朱染地区の爆発音が聞こえる訳ないんだ!暴動はこの近くでも起こっていると考えないと!」
テレビ画面の中のキャスターにスタッフが紙を渡し、キャスターは慌てて読み上げる。
「照京政府が非常事態宣言を発令!現在、街は戒厳令下にあります。繰り返します!照京政府は…」
キャスターはニュースを繰り返せなかった。武装した兵士達がスタジオに乱入してきたからだ。
スタジオを占領した兵士達は一列に並び、キャスターを押しのけて席に座った将校服の男が声明を読み上げる。
「我々は照京解放軍、本日この時より、照京の支配権は我々が掌握する。これは決して私欲によるクーデターではなく、暴君ガリュウから市民を解放せんが為の聖戦である。暴君の圧政に苦しむ者は我らの同志!怒れる市民達よ!武器を取れ!今こそ革命の時である!」
陶酔しきった表情で扇動演説を行う将校。おまえみたいに正義に酔う輩が一番信用ならねえんだよ!
「最悪のタイミングね。じきに照京全域で暴動が始まるわ。どうすんの、少尉?」
「ミコト様を連れて照京を脱出する!シオン、赤信号もなにもかも無視して公館へ急げ!」
「ダー!ハシバミ少将が暴動を鎮圧してくれる事を期待しましょう!」
「……それは期待出来ない。たぶん、クーデターの首謀者ってのが……」
テレビ画面の中の、自己陶酔の極みに達した将校が、感極まった声で宣言する。
「我ら解放軍の指導者、榛兵衛少将より声明がある。心して拝聴するように!」
切り替わった画面に映ったのは、決意の光を目に宿す、ハシバミ少将の厳粛な姿だった。
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ミコト様、頼むから電話に出てくれ!オレは祈りながらミコト様のハンディコムを呼び出す。
「カナタさん!!無事なのですね!」
よかった!ミコト様は無事だ!
「どんな状況です!」
「公館内にもクーデターに加担した兵士が多数います!ツバキ達、親衛隊が応戦していますが……長くは持たないでしょう。」
「オレが行くまで持ちこたえてください!」
「ダメ!カナタさん達は逃げて!逃げてください!」
「ミコト様を置いて逃げるなんて出来ません!オレが必ず助けます!」
「カナタさん。私の…言う…聞い…」
「ミコト様!ミコト様ー!」
通話が切れた……
「みんなスマン!オレに命を…」
「私と少尉は一蓮托生よ。」 「私が隊長を守りますから!」 「必ず生きてガーデンに帰るの!」
ホントにすまない。巻き込みたくないけど、みんなの力が必要なんだ!
ミコト様、待っててください!オレが必ず助けますから!
……爺ちゃん、婆ちゃん、オレ達を守ってくれ!
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