第十五章 照京編 地球から来た父と子は、動乱の中で邂逅する

照京編1話 お姫様はスキンシップがお好き



オレ達を乗せたヘリは照京の市外にある演習場のヘリポートに着陸した。


ここが爺ちゃんの故郷、照京か。


発着場から演習場に併設された建屋へ入り、照京軍の入国管理官による入国審査を受ける。


「問題ないようだな。照京へようこそ。……お帰りなさいませ、と言うべきですかな?」


仏頂面にわざとらしい敬語、明らかに歓迎されてねえよな。


「オレは照京に来るのは初めてだが?」


「侯爵家の血筋であろうが、今は反逆者の一族に過ぎん。それを弁えて行動する事だな。」


「ふんぞり返って意見したけりゃ、まず鼻毛を抜いてからにしろ。見苦しい団子鼻からはみ出てるぞ?」


慌てて手で顔を覆う入国管理官。ジョークのわからないヤツだな。


「ジョークだよ。心配すんな、鼻毛が伸びてなくとも見苦しいツラに変わりはない。」


「照京軍中尉である私を愚弄するつもりか!」


「愚弄したのはソッチが先。やるっていうなら相手になる。」


オレは少し前傾姿勢になったナツメの前に手をかざして制止する。


「よせ、ナツメ。」


「曹長ごときが跳ねあがりおって!教育してやる!」


汚い手でナツメに触んじゃねえよ、オッサン!


ナツメの胸ぐらを掴もうとする手を掴んで腕を捻り上げる。


「痛たたた!離せ!離さんか!」


「暴れんな。もう少し力を込めたらポキッと折れるぞ。」


背後から囁いてやるとオッサンは大人しくなった。代わりに入国管理局の衛兵が動きを見せる。


スッとオレの左右をシオンとナツメがカバーし、リリスを真ん中に囲った。


……マズったかな。手を払いのけるぐらいにしておくべきだったか。


「そこまで!」


鋭い声とともに親衛隊の軍服を纏ったツバキさんが、グラサン軍団を連れてやってきた。


「天掛特務少尉、これはどういう状況なのかしら?」


「CQCの実演でも披露しようかと思ってね。」


オレは捻り上げる手を離して肩を竦めてみせた。


「リンドウ大尉、こやつらがこの私に無礼を働いたのです!」


両手を広げてアピールするオッサンだったが、腕が痛むらしい。片手をブンブン振ってのアピールに切り替えた。


「管理官、"無礼がないよう出迎えなさい"と通達しておいたはずですが?」


「無礼を働いたのはこやつらです!」


「どうだか? 無礼を働いたのはどっちか、監視カメラの映像で確認してみましょうか。」


「そ、それは……」


「あなたになんの非もないなら望むところでしょう? 言い淀んだという事は心当たりがある、という事だと見做します。……これはハシバミ少将にお会いした時にご報告せねばなりませんね。」


ハシバミ少将は一番隊軍医のお兄さんで、照京防衛部隊の司令官だ。先生からお兄さん宛のお土産を預かってきてんだよな。極秘で相談したいコトもあるし、うまく会えればいいんだが……


「お待ちください!非礼は詫びますゆえ、何とぞ内密に!」


偉いさんに報告されんのが怖いなら、慎重な行動を心掛けなよ、オッサン。こんな小物と関わってんのは時間の無駄だな。


「んじゃ何事もなかったってコトにしときましょ。ツバキさんはオレを迎えに来てくれたんですよね?」


「ああ、済まなかったな。ヘリより先に到着するつもりが、渋滞に巻き込まれてしまって少し遅れた。」


「遅れて来るのは構いませんが、出迎え時の服装はノーブラ白シャツでって約束だったはずなのに……」


「そんな約束はしていない!真っ昼間からそんな格好で出歩いたら、ただの痴女だろう!」


「じゃあ、夜ならオッケー?」


「そんな訳あるか!車はコッチだ、サッサとこい!……まったく、ミコト様も兄上もなんでこんな男を気に掛けているのだか……ブツブツ……」


ナツメとシオンがオレの両腕を思いっきり掴んで連行してゆく。リリスは単分子鞭の先っぽでオレのお尻をチクチクと刺してきた。


「痛い痛い、ちょっとしたジョークじゃん。ほら、ギスギスした空気だったからさ、場を和ませようとしただけなんだよ。」


グラサン軍団の一人がボソッと呟く。


「剣狼殿、ツバキ様にジョークは通じません。空気を読んで下さい。」


みたいだねえ。リンドウ中佐はユーモアのわかる人なんだけどなぁ。


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「カナタさん!会いたかったですわ!」


公館に案内され、執務室でミコト様と再会したオレだったが、いきなりハグハグ攻撃が待っているとは思わなかったぜ。


ハグハグ……ハグハグ……ハグハグ……ぱふぱふ……抱き潰さんばかりの勢いだ。ん?……ぱふぱふ?


わあい!ミコト様のお胸でぱふぱふされてるぞぉ!ミコト様って何気に巨乳なんだよね♪


ずっとこの幸せを味わっていたかったのだが、ツバキさんに邪魔された。


「……あの……ミコト様。親衛隊を下がらせたとはいえ、天掛少尉の部下もいますから……」


三人娘が狼眼を持ってなくてよかった。狼眼がなくても人を殺せそうな目をしちゃいるんだが……


「あら、私とした事が。……カナタさん、久しぶりですね。リグリットで会った時より逞しくなりましたか?」


体を、いや、お胸を離したが、オレの両肩に手を添えたままのミコト様。間近で見ても麗しいです~。


「逞しくなったかどうかはわかりませんが、適合率は爆上がりしてます。」


敬礼したオレに、ジト目のツバキさんがツッコんでくる。


「以前よりニヤけヅラに磨きがかかった事は私が保証してもいい。」


「以下同文ね。」 「反論出来ないわ。」 「死ねばいいの。」


ぱふぱふの余韻に浸るこの顔で反論しても説得力がねえよなぁ……


「ミコト様、助平狼と再会を楽しむのは後にしてください。そろそろお時間です。」


時計を見ながらミコト様を促すツバキさん。お時間ってなに? 今、会ったトコじゃん!


「そうですか。カナタさん、ゆっくりと語らいたいのですが、地震の影響で公務が立て込んでいます。しばらく公館に滞在して、観光でもなさっていてください。復旧の目処がついたら必ず時間を作りますからね!」


あの地震の被害は照京が一番大きかったってニュースで言ってた。ミコト様は復旧作業と被災者の慰問に大忙しなんだろう。本来、陣頭指揮を執るべきガリュウ総帥がアテにならないからな。


「はい。オレ達のコトは気になさらずに、市民の為のお仕事を頑張ってください。」


「天掛少尉達の部屋は公館職員に案内させる。ミコト様、参りましょう。」


綺麗なお姉さん特有の必殺技、ほんのり薫るシャンプーの残り香を土産に、ミコト様は公務に戻っていった。


──────────────────────────────────────


公館職員に部屋へと案内されたオレ達は、荷物を置いてお茶にする。


大部屋から各自の寝室に繋がる来賓用の家族部屋みたいだな。ミコト様の公館だけあって一流ホテル並みに設備もいい。


「隊長の寝室は右端、その隣に私で問題ないですね?」


「別にいいけど、そのフォーメーションになんの意味が?」


「ズルい!私がカナタの隣なの!」 「なにしれっと抜け駆けしてんのよ!」


「あなた達から隊長をガードする為です!ガーデンのお外で埒外、無体は許しません!」


そういう意味でしたか。シオンさん、ありがとうございます。ちょっと残念な気がしなくもないのですが……


……しかし、ミコト様が多忙ってのは具合が悪いな。早目にミコト様の説得をしたいところなんだが、被災者の支援が先だよなぁ。滞在日程は十分とってあるんだし、観光でもしてるしかないか。


いや、ハシバミ少将に会う口実を作る為に、先生からお土産を預かってきてる。


先にハシバミ少将に会って、その人となりを確認しておこう。なんたってクーデター計画のキーパーソンはハシバミ少将なんだ。リンドウ中佐の話では謹厳実直、質実剛健で照京の未来を憂う愛国者ってコトだったけど、オレは会ったコトはない。計画の内容が内容だ、自分の目で確認しておくコトは重要だろう。


オレは荷物の中から先生から預かったお土産の紙袋を取り出した。


「一休みしたら照京の観光に出掛けようか。」


「いいわね。行きたいところのリストアップはもう済んでるわ。名所にグルメ、パワースポット、よりどりみどりよ?」


リリスさんは、相変わらず手際がいいですね。



……爺ちゃんの故郷、照京の街、か。羽根を伸ばして照京見物と洒落込んでみるかな。


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