休暇編21話 便利屋ロブ
全員一致で現状を維持した軍人達だが、民間人の救出を放棄した責任を問われるコトはなかった。
保身に走ったのはこの街に駐屯していた全ての艦船搭乗員であり、防毒マスクの内蔵酸素で生き残った全ての駐屯兵達でもあったからだ。軍上層部は緊急避難であり、やむを得なかったと判断を下した。
無罪放免となった新米兵士は怒りの矛先を機構軍に向けた。
無酸素爆弾なんか落とした機構軍が悪い、あの惨劇は機構軍
安い正義を貫けなかった腹いせの代償は栄誉と名誉だった。だが出世も報奨金も、彼の心の飢えを満たしてはくれなかった。
それどころか市民達に"兵士の誉れだ、異名兵士だ"と称えられるコトは、彼の心を苛んでいった。市民からの称賛の声は彼の耳には裏返って聞こえ、かつて守れなかった市民の怨嗟の声として響く。
苦しみ、悩んだ挙げ句に彼は、8年前に貫けなかった正義を、今度こそ貫こうと内部告発の準備を始めたが、その矢先に公金横領の罪に問われ、身柄を拘束されてしまった。
護送中に部下達に救出された彼は、全てに嫌気がさしてゴーストタウンと化した鈴城へと帰ってきた、というコトらしい。
「ま、これがロブお兄さんの回想録だよ。……安い正義を貫けなかった、安い男の懺悔録かもしれん……」
墓守お兄さんの名はロブというらしい。
「じゃあ貴方が「
便利屋ロブ?
「シオンはこの男を知ってるのか?」
「はい。パーパから聞いた事があります。「便利屋」ロブこと、ロバート・ウォルスコット中尉。今まで会った兵士の中で一番珍しい武器を使う男だったって。」
「そういや金髪お姉さんは「狙撃の皇帝」の娘だったか。珍しい武器ってのはこれの事かな?」
ロブが懐から抜いた銃は確かに変わっていた。いや、そもそも銃なのか、これ?
形状はリボルバー拳銃だが、銃口の下にナイフが取り付けられてるから、小型の銃剣?
だけど
「本当に変わった武器ですね。あんな珍妙な武器は見た事がないとパーパが驚くはずだわ。」
「珍妙はヒデエな。このリボルバーナックルは撃つ、刺す、殴る、なんでも出来る可愛い奴なんだぜ。兵士としての俺もそう。近接、射撃、斥候から工作と一通りなんでも出来る。」
「でもなんでも出来る奴って全部が二流だったりするわよね?」
「ホントに悪魔より口の悪いお嬢ちゃんだぜ。痛いところを突いてきやがる。そう、確かにその道のスペシャリストには及ばねえだろう。だが、だからと言って十徳ナイフに価値がない訳じゃないさ。」
サマルトリアの王子は、腕力ではローレシアの王子に及ばず、魔力ではムーンブルクの王女に及ばない。でもサマルトリアの王子を語るなら、オレは器用貧乏ではなく汎用性が高いと評価する。ザオリク使えるの彼だけだし。いや、世界樹の葉でいいじゃんなんてヤボなツッコミはなしだぜ?
「なあ、ナツメさん、モノは相談なんですが……」
「カナタの十八番、お節介癖がまた出たの。」
「……だめ?」
「いいよ。パパとママの事にロブちんは責任ないもん。」
「ロブちんって俺の事ぉ!」
なかなかいいリアクションだな。オレのライバルになるつもりか?
「他に誰かいる?」
「いや、いい歳した男がロブちんなんて呼ばれてもな……」
「私がロブちんって決めたんだから、ロブちんはロブちんなの!文句があるなら多数決!ロブちんはロブちんだと思う人~!」
良心回路のシオンさんは迷っていたが、オレとリリスは迷わず挙手した。
「はい、決まり!」
「………」
「ねえ、ロブちん。自分の信じる正義を貫けなかった事を後悔してるみたいだけど、そんな後悔、もうヤメよ? あの時に最後まで抵抗してたって殺されてただけだよ?」
「……信念を曲げてまで生きてはみたが、結局なにもなかった。」
「ないものねだりの子供なの? なければ作るの!生きる意味が空から降ってくる訳ない!男だったら自分で掴み取るの!つくものついてんでしょ?」
「……俺だって……やり直せるもんなら、やり直したいさ!」
やる気はあんのか。だったら見込みはあるな。
「ロブちん、オレはやり直しの利かない人生なんざないなんて、おためごかしは言わねえ。だから尋問タイムだ。これまでの悪行を洗いざらい吐け。嘘は許さねえぜ?」
どういう手段で
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ロブちん一党の生活の糧は軍需品の横流しだった。神楼の兵站部の偉いさんになってた8年前の同僚を脅して結託し、武器以外の軍需品を手に入れていたらしい。
「どうして武器には手を出さなかったの? 一番需要がありそうなのに?」
ナツメの質問にはオレが答えてみた。
「横流しした武器で一般人が死んだら寝覚めが悪いからだろ、ロブちん?」
「それもあるが、オレの商売相手はもっと辺境に暮らす村落の人間だからだ。そこへ武器を流したのが俺だと分かれば、この街のヒャッハー全部を敵に回す。自分達の保身を優先させたってのが最大の理由だ。」
カタギを相手に武器以外を商って生きてきた、か。横流しはよろしくないが、セーフだぜ、ロブちん?
「理由はさておき、オレの基準じゃギリギリセーフだ。ガーデンに戻ってからになるが、打てる手は打ってみよう。なんとかなったなら、同盟軍機関紙の13ページ目の右下に星マークを入れておく。マークを確認し、オレ達を信じる気があればガーデンに来いよ。降格は免れんだろうが、軍務に復帰させてやる。安い正義とやらを、今度こそ貫けばいいさ。」
「わかった。連絡を待つよ。」
「決まりだね。じゃあロブちん、穴掘りを手伝って!」
話はまとまり、肉体労働は嫌いなリリスを除いたメンバーで、穴掘りを開始した。
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死後の復活を信じるジェダス教の信者だっただけに、ナツメのご両親の遺体を納めた柩は冷凍機能が働いていた。
上半身の部分は強化ガラスで出来ていて遺体の状態を確認出来る造りになっている。殴打されて亡くなったはずのご両親のお顔は綺麗で少しホッとした。遺体の処理をしてくれた職人の腕が良かったんだな。
「パパ、ママ、これが私の仲間なんだよ。私、みんなと一緒に生きていくから、見守っててね?」
ナツメはそう言ってから二つの柩を右肩と左肩に載せ、ステルス車両まで運ぶ。
用意してきた棺桶ケースに柩を収納し、出発の準備を始める。
「じゃあな、ロブちん。期待しないで吉報を待っててくれ。」
「おう。期待しないで待ってるよ。この街のヒャッハー共にはいざこざを避ける為の緩衝地帯がある。ルートを教えるから紙のマップを貸してくれ。」
ロブちんは紙のマップにペンでルートを記し、手渡してくれた。
「俺の迎えも来たみたいだ。あばよ、剣狼。」
走ってきた煤けたハンヴィーにロブちんは乗り込み、手下と一緒に敬礼してくる。
オレも敬礼を返してから、ステルス車両のドアを閉めた。
「シオン、出してくれ。神楼に帰るぞ。」
「イエッサー。」
走り出したステルス車両の窓から、ナツメは故郷の街並みを眺めていた。
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神楼に戻ったオレ達は、ナツメのご両親をガーデン行きのヘリに載せ、自分達は照京行きのヘリに乗る。
離陸前にデジペーパーをダウンロードしていたシオンが、プリントアウトした記事を見せてくれる。
「隊長、先程の地震ですが、思ったよりも規模が大きかったみたいです。神楼、神難、照京に被害が出ているようですね。」
「そうか、ミコト様に何事もなければいいが……」
「今のところ死者は出ていません。問題ないでしょう。」
少しコッチの予定に影響が出るかもしれないな。ミコト様は地震からの復旧の陣頭指揮を執り、その後に被災者への慰問を行うに違いない。
でも、もう少しでミコト様に会える。オレの全ての事情を知り、慈しんでくださるミコト様に……また会えるんだ。
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