休暇編13話 愛しき人に贈る銃
モモチさんとの相談で、オレのグリフィンカスタムのさらなる改良だけでなく、シオン専用のスナイパーライフルも開発してもらうコトにした。
今シオンが使用しているスナイパーライフル「カラリエーヴァ」もいい銃だけど、銃を贈られた時よりも成長しているシオンにとっては物足りない性能になっていると判断したからだ。
「隊長、カラリエーヴァはパーパからの贈り物なんです。手放す訳には……」
「捨てろなんて言ってないよ。その銃はシオンにとって護身刀ならぬ護身銃だ。予備の武器も必要だし、生涯手元に置いておくべきだ。」
「でも……メイン武器を換えるのはパーパに悪いような気がするんです。」
「シオンの親父さんが生きていたなら、成長したシオンに新しい銃を贈っていたさ。だから親父さんに代わってオレから贈る。オレの為、部隊の為に受け取って欲しい。」
「……はい。ありがとうございます、隊長。」
「それでは「カラリエーヴァ改」の開発にかかりましょう。カラリエーヴァはアレス重工の既成ライフルをカスタマイズして製作されたようですが、我が社は一から作製させて頂きます。カラリエーヴァの名はメーカーが命名したものですか?」
「いえ、パーパが名付けたものです。」
「それなら商標権の問題もなさそうですね。一応、アレスの法務部には問い合わせておきますが。」
「はい。よろしくお願いします、モモチさん。」
「身体能力測定の後でコンセプトの相談をしましょう。少しお時間を頂けますか?」
「隊長、この後の予定はどうなっていますか?」
「アレス重工のドックに行ってラウラさんと打ち合わせをする。撞木鮫がこの街で改造中だからね。でもそっちはオレ達だけで片付けておくよ。昼ご飯までに湾岸通りにある「パイレーツネスト」ってレストランまで来てくれ。ヒンクリー少将おすすめの海賊ランチとやらを食べてみよう。」
「はい。リリス、隊長のサポートは任せたわよ。」
「はいはい。それじゃあ行きましょ、少尉。シオンも少尉になったから、区別する為に短小尉って呼ぶべきかしらね?」
「見たのか!おまえ見たのかよ!」
「何度も見たし、ついでに触ったわよ。」 「私も見たし触った。」
「おまえらオレが寝てる時になにしてくれてんだ!」
「天掛少尉、我が社のオフィスを戦場にしないで頂きたいのですが……」
ハッ!シオンさんが般若の形相になってるぅ!
オレは小娘二人を両脇に抱えてペンデュラム社のオフィスから逃げ出すコトにした。
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アレス重工のドックでは撞木鮫の塗装作業が行われていた。
司令のゴリ押しで塗装もしないまま実戦投入された撞木鮫だが、やっとおめかし出来てよかったな。
タブレットを片手に技術者達と打ち合わせしていたラウラさんが、オレ達に気付いて手を上げた。
「やっと撞木鮫もお化粧出来るみたいだね。」
「はい。アレスが開発した欺瞞性の高い塗料の試作品を塗布しています。」
塗布も武装のうち、か。元の世界のステルス戦闘機もそんな塗料で塗られてたらしいな。
「塗料まで試作品とはね。撞木鮫の戦闘データは役立ったかい?」
「開発部一同、宝の山だと喜んでいます。戦役で得たデータは現在開発中の次期主力戦艦にフィードバックされるでしょう。」
「それなんだがな。機構軍のアイデアをパクろうぜ?」
「パクる?」
「司令の話じゃ死神のアルバトロス、ローゼのパラス・アテナにはモードチェンジシステムってのが採用されてるらしいじゃないか。用途に合わせて戦艦を変えるじゃなくて、戦艦そのものを用途に合わせて変える、この方が汎用性が高い。難しいか?」
アスラの任務は多種多様だ。状況に合わせて融通が利く艦はきっと有用なはず。
「アレスの技術力を以てすれば、やれなくはないでしょう。稟議書を上げてみます。」
「今夜司令と会う約束だから、裏から政治力も行使してもらうよ。パクったシステムの有用性が証明されたらラウラさんの評価も上がる。」
「艦長、私の出世まで気にしなくていいんですよ。私は船が好きだからこの仕事をやっているので。でもモードチェンジシステムは魅力的なアイデアですね。真似したら実装化したスペック社は怒りそうですけれど。」
「向こうは撞木鮫に搭載された艦頭換装システムをパクるだろうからお互い様だ。軽巡なのに戦艦並の火力を実現したシステムをパクらない訳がないからな。」
「ワイドソナーとワイドキャノンは真似出来ないでしょうけどね。」
ラウラさんは自信ありげに笑った。
「そんなに特殊な技術なのか?」
「技術的にも特殊ですがコスト的にも合わないはずです。アレスでもワイドソナー、ワイドキャノンの量産化は見送られました。取得したデータを元に、もっと廉価なシステムを開発中です。」
ガンダムをベースにジムを開発したみたいなもんか。兵器開発あるあるだな。
撞木鮫の改良計画について開発部のスタッフと意見交換を済ませたオレ達は、待たせておいたタクシーでパイレーツネストへ向かった。
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「うまうま。スパイシーなお肉とお魚が最高!」
激辛料理愛好家であるナツメは、香辛料の効いた海賊ランチが気に入ったみたいだ。
本来は酒場であるパイレーツネストだが昼の2時間だけ、ランチ営業もやっている。ヒンクリー少将のかつての戦友がオーナーシェフのこの店は、リグリットのグルメガイドにも載っている名店らしい。
「う~ん、ボリュームは十分だけど、ちょっと味付けが濃すぎない?」
上品な味付けを好むリリスには、海賊ランチはスパイスが効き過ぎらしい。
「大航海時代の味を再現してるんだろう。塩コショウや酢で味付けされた料理は、帆船で旅した時代の主流だったからな。」
「隊長は物知りなんですね。」
三人前の海賊ランチを豪快に食すシオンさんはご満悦ですね。来てよかったよ。
「少尉はガーデンに来るまでは、本しか友達がいなかっただけよ。」
「その通りだが、あえて言わない優しさを覚えてくれ。オレの古傷に塩を擦り込むな。」
「塩漬け肉も大航海時代の名物でしょ。うん、マリネはいけるわね!」
「大航海時代は塩漬け肉をパンに挟んで食うのが主食だったらしいけど、オレに塩を擦り込む理由になっちゃいねえぞ!」
「リリス、このマリネ、おうちでも再現出来そう?」 「お酒にも合いそうだし、覚えてくれると嬉しいわ。」
ナツメとシオンの興味は、この絶品マリネが夕餉の品になるか否かにしかないらしい。
確かにガーデンでも食べたい逸品ではあるけどな。傷付いたオレの心はど~でもえ~んかーい!
「……隠し味はたぶんディルシード。その他のレシピは……ブツブツ……」
料理に関しても天才であるリリスは、鋭敏な味覚を駆使して料理を解析するコトに夢中だ。
同志磯吉の話によると、この天才少女は一度食べた料理なら、ほぼ忠実に再現出来てしまうらしい。
神の寵愛を一身に受けたリリスさんが無神論者とは、神様も切ないねえ。
「ん~、たぶん再現出来そうよ。マリネだけに火加減だのなんだのはない訳だしね。」
「ほほう、それはそれは。しかし完全に再現するのは無理だと断言しておこう。いかに「悪魔の子」の異名を持つ天才少女であろうとな。」
コック帽の代わりにパイレーツハットを被ったイカツイおっさんが、デザートを載せたトレイを持って現れた。オーナーシェフさん、ご登場ですか。
「それはどうかしら? オリーブオイルが自家製、という事を言いたいんでしょうけどね?」
「むむう!」
リリスはレシートの裏にペンを走らせ、シェフの目の前に突き付けた。
「どう? これで合ってるんじゃない?」
「………」
「その沈黙は肯定、と取ってよさそうね?」
「ヒンクリーもエラい客を寄越してくれたもんだ。苦労したんだぞ、この味を出すのは。」
「一からこの味を生み出すのと、完成品を食べて味を分析するのとじゃ大違いよ。顔に似合わず努力家なのね?」
「お褒めに預かり光栄ですな、お嬢さん。」
「美味しいマリネの作り方かぁ……レシピをネットで公開しちゃおっかな~?」
邪悪な笑みを浮かべるリリス。リリスがモノホンの悪魔なんだと理解したシェフに戦慄が走る。
「ヤメなさい!悪魔か、おまえは!」
このオーナーシェフは少将の戦友なんだぞ!
「ふっふ~ん♪ 手間要らずで美味しいおツマミの作り方とか知りたいな~?」
「……いい嫁を貰ったな、剣狼。亭主の為ならこのコは悪魔になれるらしいぞ?」
「シェフ、残念ながら、普段から悪魔なんです。」
「……大変だな。」
「……はい。」
「口止め料に手軽で美味しいおツマミレシピを教えてやろう。デザートを楽しんだら、天才おチビは厨房に来るといい。クックックッ、面白い奴らだ。ヒンクリーが気に入る訳だな。」
デザートを一口で平らげたリリスは、オレにウィンクしながらシェフを追って厨房へ向かう。
「スキップしながら仕上げにターンか。リリスはどこまでエンターテイナーなんだか。」
「隊長、私も習ってきますね。リリスに負けていられませんから。ナツメも行ってみる?」
席を立ったシオンにナツメが手を振る。
「パスするの。お料理部門は苦手。」
賢明な判断ですな。オレとナツメは食べる係だ。
のんびりデザートを楽しむオレとナツメ。厨房から聞こえる楽しげな声。
これで我が家の食卓がまた賑やかになる、か。悪くないね。
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